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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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間に合わない

翌朝。

 

雨は上がっていた。

 

街道が、泥で重い。

 

だが——空は晴れていた。

 

「……今日中に次の村に着けるか?」

 

リオが聞く。

 

「着ける。昼前には見えてくる」

 

ガイウスが答える。

 

「分かった」

 

リオが、前を向く。

 

その横顔が——少し、固かった。

 

(……昨夜から、ずっとあの顔だ)

 

セリスが思う。

 

(フォンゼー村のことが、頭から離れていない)

 

——

 

昼前。

 

村が、見えてきた。

 

だが——

 

「……煙が出ていない」

 

メイラが言う。

 

「炊事の煙がない。これだけの時間なのに」

 

ガイウスが「急ぐ」と言う。

 

全員が、足を速める。

 

——

 

村に入る。

 

静かだった。

 

人がいない。

 

建物の戸が、開いたままになっている。

 

食事の途中のまま、放置された卓。

 

「……昨夜か」

 

ガイウスが言う。

 

「帝国が来た。急に。逃げる暇もなかった」

 

「どこへ連れていかれたの?」

 

「……分からない。だが——」

 

ガイウスが、地面を見る。

 

「足跡が多い。抵抗した形跡もある」

 

リオが、村の中を歩き回る。

 

一軒、また一軒。

 

誰もいない。

 

誰も——いない。

 

「……また、間に合わなかった」

 

小さく言う。

 

誰にも聞こえない声で。

 

——

 

村の外れに、老婆が一人いた。

 

物陰に隠れていた。

 

「……生きていましたか」

 

メイラが駆け寄る。

 

「足が悪くて——逃げられなかった」

 

「連れていかれなかったんですか?」

 

「……隠れた。この子が」

 

老婆の隣に、小さな影がいた。

 

少女。

 

五歳くらいだろうか。

 

「この子が、私を引っ張って——」

 

老婆が、少女の頭を撫でる。

 

少女は、黙っていた。

 

泣いていない。

 

ただ——目が、遠かった。

 

「両親は?」

 

「……連れていかれた」

 

少女が、リオを見ていた。

 

じっと。

 

リオが気づく。

 

目が合う。

 

「……大丈夫か」

 

少女が、首を振る。

 

「……そうだな」

 

リオが、少女の隣にしゃがむ。

 

目線を合わせる。

 

「名前は?」

 

少女が、小さく口を動かす。

 

「もう一回」

 

「……リナ」

 

「リナか。……俺はリオだ」

 

少女が——リオの袖を、少し握る。

 

リオが、動かない。

 

「……怖かったな」

 

少女が、頷く。

 

「……怖くて、当然だ」

 

「……おかあさんが」

 

「うん」

 

「……連れていかれた」

 

「……うん」

 

「……なんで」

 

リオが、答えられない。

 

「……なんで、なんだ」

 

「……分からない。でも——」

 

リオが、少女の頭に手を置く。

 

「……俺たちが、止める」

 

「……止められる?」

 

「……やってみる」

 

「やろうとする、ってことか」

 

少女が「……エリみたいに言う」と言う。

 

リオが、少し目を丸くする。

 

「……エリを知ってるか?」

 

「お友達」

 

「……そうか」

 

リオが、少し笑う。

 

苦しそうな笑いだった。

 

——

 

老婆と少女を、近くの集落まで送り届けることにした。

 

歩きながら。

 

ガイウスがセリスの隣に来る。

 

「……リオが、変わってきている」

 

「そうね」

 

「良い意味で、か?」

 

「良い意味で」

 

「……そうか」

 

「でも——」

 

セリスが、リオの背中を見る。

 

「変わっていく時って——痛いわね」

 

ガイウスが「……そうかもしれない」と言う。

 

「お前も、そうだったか」

 

「……俺は、まだ変わっている途中だ」

 

「そうね」

 

「お前は?」

 

セリスが少し考えて——

 

「私も、途中よ」

 

「……そうか」

 

「全員、途中ね」

 

「……そうかもしれない」

 

——

 

集落に着く。

 

老婆を預ける。

 

リナが、リオを振り返る。

 

「……またくる?」

 

「……来られるかは、分からない」

 

「じゃあ、やろうとする?」

 

リオが、少し笑う。

 

「……やろうとする」

 

リナが「うん」と言う。

 

それだけ言って、老婆の元へ駆けていく。

 

その背中を、リオが見送る。

 

(……エリみたいな子が、泣かずに済む場所)

 

(俺が守りたかった、もの)

 

(でも——守れていない)

 

(守れなかった場所が、また一つ増えた)

 

拳を、握る。

 

(……次こそ)

 

(次こそ、間に合う)

 

——

 

セリスが、その横顔を見ていた。

 

(……リオ)

 

(変わってる)

 

(確かに、変わってる)

 

宝石が、静かに光る。

 

(ノイエ)

 

(……はい)

 

(リオのことが、心配)

 

(……なぜですか)

 

(変わっていく人って——脆くなる瞬間がある)

 

(……脆くなる?)

 

(守りたいものが見えてくるほど——失った時の痛みも、大きくなるから)

 

長い沈黙。

 

宝石が——ゆっくりと、左右に動く。

 

(……理解しました)

 

(……セリス)

 

(なに?)

 

(……あなたも、同じですか)

 

セリスが、少し止まる。

 

(……そうね)

 

(私も、同じ)

 

(守りたいものが増えるほど——怖くなる)

 

(……それでも、止まらないのですか)

 

(止まれない)

 

宝石が——一度だけ、強く光った。

 

それ以上は、何も言わなかった。

 

——

 

次こそ、間に合う。

 

リオはそう思っていた。

 

でも——

 

「次」は、来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます!


間に合わなかった村。


レナという少女。エリの友達。


リオが「やろうとする」と言いました。


でも——引きの一文。


「『次』は、来なかった」


次回も続きをぜひ見届けてください。


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