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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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夏の終わり

バール教暦1152年、夏。




旅を始めて、二ヶ月が経とうとしていた。






街道を歩きながら——




「……最近、夜が少し短くなってきた気がする」




メイラが言う。




「夏が終わりかけてるのよ」




「早いですね」




「そうね」




セリスが空を見る。




高い雲。


青い空。


でも——どこか、色が濃くなってきた気がする。




(……王都が燃えたのは、初夏だった)




(あれから、二ヶ月)




(ずいぶん、遠くに来た)






「……振り返ると、色々あったな」




リオが言う。




「そうね」




「最初の頃——俺、相当ひどかっただろ」




「ひどくはなかったけど——尖ってたわね」




「同じだろ」




「少し違う」




「どう違うんだ」




「尖っていたのは——それだけ傷ついていたってことだから」




リオが「……そういう言い方をするのか」と言う。




「そういう言い方をする」




「……お前、本当に変わらないな」




「変わった?」




「いや——変わらない、って言った。最初から、ずっとこうだ」




「それって、褒めてる?」




「……褒めてる」




リオが前を向く。




「……俺は、変わったと思う」




「そうね。すごく」




「自分じゃ、分からないけど」




「傍から見ると、分かる」




「……どのくらい?」




セリスが少し考えて——




「最初の頃のリオは——一人で燃えてた。今は——みんなで燃えてる」




リオが「……詩的だな」と言う。




「そう?」




「悪くない」






昼。




木陰で休憩をとる。




ガイウスが地図を広げている。




「……次の村まで、あと半日」




「食料は?」




「今夜は持つ。明日は補充が必要だ」




「分かった」




ライラが「帝国の動きはどうかしら」と言う。




「北東に向かっている。ヴァレンへの圧力が増している」




「将軍は動いてくれるかな」




「……動いているはずだ。あの人は、約束を守る顔をしていた」




ガイウスが「顔で判断するのか」と言う。




「あなたよりは、人の顔を見てきたから」




「……そうかもしれない」






メイラが「セリスさん」と言う。




「うん?」




「最近——宝石、よく動いていますね」




セリスが、首元の宝石に触れる。




「そう?」




「なんか——光ったり、動いたりして。気のせいかな」




「……気のせいかもしれない」




(ノイエ)




(聞こえた?)




宝石が、小さく左右に動く。




(……動きすぎた?)




(……少し)




(気をつけて)




(……了解しました)




宝石が、静止する。




メイラが「……やっぱり動いた気がする」と言う。




「光の加減よ」




「……そうかなあ」




ガイウスが、一瞬だけ宝石を見る。




何も言わない。






夕方。




野営の準備をしながら——




ライラがセリスの隣に来る。




「……一つだけ聞いていい?」




「どうぞ」




「この旅——どこまで行くつもり?」




「帝国を、変えるまで」




「それは——いつ?」




「分からない」




「分からないのに、続けるの?」




「分からないから、続ける」




ライラが「……逆説ね」と言う。




「そう?」




「分かったら、終わりが見えるでしょ。終わりが見えたら——怖くなるかもしれない」




「……なるほど」




「だから、分からない方がいい、って言いたいの?」




「違う。ただ——」




セリスが少し考えて——




「分からなくても、今日やることは分かる。それだけで十分よ」




ライラが「……そういうところが」と言う。




「そういうところが?」




「……厄介、って言おうと思ったけど」




「止めたの?」




「……今日は、別の言葉にする」




「どんな言葉?」




ライラが少し間を置く。




「……強い、と思う」




セリスが「ありがとう」と言う。




「礼はいらない」




「言いたいから言う」




ライラが「……そのセリフには、慣れたわ」と言う。




口の端が、上がっていた。






夜。




火を囲む。




全員が揃っている。




「……なあ」




リオが言う。




「なに?」




「この旅が終わったら——みんな、どうするんだろうな」




「考えたことある?」




「ある。でも——想像がつかない」




「私は——守りたいものを、守り続ける」




「場所は?」




「……どこでも」




メイラが「私は——治すために動きたいです」と言う。




「ヴァレンに帰る?」




「……帰るかもしれないし、別の場所かもしれない。リオさんが——」




メイラが、少し口を閉じる。




「リオさんが、いたら——一緒に考えたかったな」




静かな声だった。




リオが「俺は——」と言う。




「うん」




「エリみたいな子が泣かない場所を作りたい。どこかに」




「いいね」




「できるか分からないけど」




「できなくても——やろうとする、でしょ」




リオが「……そうだな」と言う。




笑う。




本物の笑いだった。






ライラが「私は——」と言いかけて、止める。




「どうしたの?」




「……まだ、決まっていない」




「それでいい」




「決まっていなくていいの?」




「決まっていないことを、正直に言えるようになったなら——それが変化よ」




ライラが「……そうかもしれない」と言う。




ガイウスが「俺は——」と言う。




全員が、少し驚く。


ガイウスが自分から話すのは、珍しかった。




「……まだ、やらなければならないことがある」




「どんなこと?」




「……言える時が来たら、言う」




「分かった」




「待てるか?」




「待てる」




即答だった。




ガイウスが、少し間を置く。




「……そうか」




それだけ言って——




火を見る。




(ノイエ)




宝石が、ゆっくりと動く。




(みんな——それぞれの理由を持ってる)




(……はい)




(あなたは?)




(……私の理由)




(うん)




(……まだ、言葉になりません)




(それでいい)




(……なぜですか)




(言葉になった時——それが、あなたの答えだから)




長い沈黙。




宝石が——一度だけ、強く光った。




(……了解しました)




火が、揺れる。




夏が、終わろうとしていた。




そして——




次の季節が、近づいていた。


夏が終わる。


次の季節は——秋だ。


秋には、何かが起きる。


みんなで笑ったこの夜が。


遠くなる日が、来る。


それでも——この夜は、本物だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます!


第2部、最後の話です。


リオが「みんなで燃えてる」と言われた。


メイラが「リオさんがいたら一緒に考えたかった」と言った。


ガイウスが「やらなければならないことがある」と言った。


ノイエが「まだ言葉になりません」と言った。


それぞれが——それぞれのものを、持っています。


引きの一文——「この夜は、本物だった」。


次回から第3部です。


何かが、変わり始めます。


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