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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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野営地を探していた夕方——

街道沿いに、小川があった。


「……近くに川がある」


ライラが言う。


「女性陣で先に使う。文句は言わせない」


リオが「言わないよ」と言う。


「俺たちは後でいいか」


「当たり前でしょ」


「……そうだな」


ガイウスが「周囲は確認した。問題ない」と言う。


「ありがとう」


「礼はいらない」


「言いたいから言う」


ガイウスが「……行ってこい」と言う。


それだけだった。



川に入る。


三人。


水が冷たかった。


「……気持ちいい。けど、やっぱり冷えるわね」


メイラが肩まで浸かりながら、少し身を震わせる。


「そうね。長居は禁物よ」


ライラも同意するように、腕をさすりながら髪を洗い始めた。


だが――セリスは一人、違和感を覚えていた。


二人が「冷たい」と漏らすその水が、自分には驚くほど馴染み、どこまでも心地よい温度に感じられるのだ。


まるで、自分の体温そのものが、この無機質な水の冷たさに同調してしまっているかのように。


剣は川岸に立てかけてある。


ガードの中央の宝石が外れて——

細い銀の鎖に包まれ、首飾りになっている。


セリスの首元で、赤い宝石が静かに光っていた。



しばらく、黙って水につかる。


川の音だけが、聞こえていた。


(……最初は揉めたわね)


セリスが、首元の宝石に触れる。


(変形のこと)


宝石が、ゆっくりと一度瞬く。


(……覚えています)


「どうしたんですか?」


メイラが聞く。


「……なんでもない。ちょっと、昔のことを思い出してた」


「どんなこと?」


「旅を始めた頃のこと。色々あったなって」


メイラが「そうですね」と言う。


「……本当に、色々ありました」


ライラが「感傷に浸るには、まだ早いわよ」と言う。


「まだ旅の途中だから?」


「そう」


「……そうね」



しばらくして——


「あ」


メイラが言う。


「どうしたの?」


「セリスさん——右腕の傷、どこにありますか?」


「傷?」


「先週、切ったじゃないですか。私が処置したのに——跡がない」


セリスが右腕を見る。


確かに——なかった。


「……あれ?」


ライラが「背中も——前に打ち付けた時の痣が消えてるわね」と言う。


全員が、少し黙る。


首元の宝石が——

ゆっくりと、左右に小さく動く。


(……どうしたの?)


(……睡眠中に、回復魔法をかけていました)


宝石が、静止する。


(勝手に?)


(……非効率な損耗を防ぐための処置です)


「……最悪ね」


セリスが、小声で言う。


「なんですか?」とメイラが聞く。


「……なんでもない」


自分の傷を勝手に消し、冷たさという感覚さえ奪い去ろうとする宝石。


それが自分を「守ろう」としているのだと分かっていても、セリスの背筋には、水とは違う質の寒気が走った。


「傷が消えているのは?」


「……謎ね」


それだけ言った。


(一言くらい言ってくれてもいいじゃない)


(……言う必要がありませんでした)


(傷が残ることを、好ましくないと思ってるの?)


宝石の光が——わずかに強くなる。


(……判断です)


(それって——心配してるってことよ)


宝石が、小さく左右に動く。


(否定しても、同じよ)


宝石が、動かなくなった。


「……ありがとう」


セリスが、首元の宝石に触れながら——


声に出して言った。


メイラが「誰に言ってるんですか?」と聞く。


「……独り言」


宝石が、一度だけ瞬いた。


(……どういたしまして)



川から上がる。


髪を拭きながら、三人で並んで座る。


夕暮れが、川を染めている。


「……きれいね」


メイラが言う。


「そうね」


「こういう時間が——好きです」


「何が?」


「戦いとか、帝国とか——全部忘れて、ただきれいだと思える時間」


ライラが「……贅沢ね」と言う。


「贅沢でいいと思います」


「たまには、ね」


ライラが川を見る。


「……こういう時間が続けばいいと——思わなかった頃が、あった」


「今は?」


「……少し、思う」


セリスが「それでいい」と言う。


「それだけで、十分」


ライラが「……お人好しね」と言う。


「そうかもしれない」


「否定しないの?」


「否定できないから」


三人が、また笑う。


川の音が続いていた。



野営地に戻ると——


リオが「どうだった?」と言う。


「気持ちよかった」


「そうか。じゃあ俺たちも」


ガイウスが「……先に食事の準備をする」と言う。


「冷たいぞ、今の川」


「知っている」


「……それでも入るのか」


「必要なことだ」


リオが「……ガイウスって、損だよな」と言う。


「何がだ」


「合理的に生きてるつもりなのに——結局、面倒くさい方を選んでる」


「……それは合理的ではない」


「そうか?」


リオが、少し笑う。


「俺には、合理的に見えないけどな」


ガイウスが「……うるさい」と言う。


それでも——


口の端が、わずかに動いた気がした。



夜。


火を囲む。


セリスが宝石を剣のガードに戻す。


カチリと——嵌まる音。


宝石の光が、少し落ち着く。


ガイウスが、その様子を——


一瞬だけ、見た。


何も言わない。


だが——


(あの宝石は)


視線を、火に戻す。


それだけだった。

「どういたしまして」

たった一言。

でも——その宝石が光った瞬間が。

なぜか、温かかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

ここまでお読みいただきありがとうございます!

ノイエが寝ている間に回復魔法をかけていた。

「判断です」と言いながら——宝石の光が強くなった。

そしてガイウスが「あの宝石は」と気づいた様子。

あの男、やはり何かに気づいています。

次回も続きをぜひ見届けてください!

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