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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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それぞれの理由

街道を南へ下りながら、次の村を目指していた。


空が広い。

帝国の旗が、遠くに一本見えるだけだった。


「……ねえ、ライラ」


セリスが歩きながら言う。


「なに」


「あなたは——なぜ、この旅を続けているの?」


ライラが「唐突ね」と言う。


「ずっと聞きたかった」


「取引だから、と言ったでしょ」


「最初はそう言ってた。でも——それだけじゃない気がして」


ライラが、少し間を置く。


前を向いたまま、歩き続ける。


「……情報屋というのはね」


「うん」


「いつも、誰かの役に立っているようで——誰の味方でもない」


「……そう思ってたの?」


「そう生きてきた。それが楽だったから」


セリスが、ライラの横顔を見る。


「……今は?」


ライラが「今は」と繰り返す。


「……少し、違う」


「何が違うの?」


「味方でいたい、と思う人間が——できてしまった」


セリスが、少し目を丸くする。


「……それって」


「言わなくていい」


「でも——」


「言わなくていい」


ライラが、前を向く。


「礼も言わなくていいわよ。言うなら——」


「言いたいから言う」


「……そのセリフは反則ね」


口の端が、少し上がっていた。



昼頃、川沿いで休憩をとる。


メイラが水を汲んでいる。

ライラが周囲を確認している。


セリスが川を見ながら——


(ノイエ)


(あなたに聞いていい?)


(……何ですか)


(この旅で——一番、印象に残っていることって、ある?)


沈黙。


(……印象に残る、という概念が)


(私にはどういう意味を持つか)


(……分かりません。ただ)


(ただ?)


(……よく思い出すことが、あります)


(何を?)


(……「怖くても——やらなきゃいけないことがあるから」)


セリスが「リオの言葉ね」と言う。


(……はい)


(なぜあの言葉が?)


(……私には、怖いという感情がありません)


(うん)


(……でも——あの言葉を聞いた時)


(何かが、動いた気がしました)


(何が動いたの?)


(……名前が、分かりません)


(でも——動いた)


(……はい)


セリスが「それでいい」と言う。


(……なぜですか)


(名前が分からなくても——感じていることは本当のことだから)


長い沈黙。


(……セリス)


(なに?)


(……あなたも、怖いですか)


(怖い)


(……それでも、やっていますか)


(やってる。リオと——同じように)


ノイエが、しばらく何も言わなかった。


(……了解しました)


短く答えた。


だが——その声が。

いつもより、少しだけ。

柔らかかった。



午後。


街道を歩いていると、前方から旅人が来る。


老夫婦だった。


荷物が、多い。


「……どこへ行くんですか?」


メイラが聞く。


「東の方へ。息子のところへ」


老婆が答える。


「帝国の兵が来てね——村にいられなくなった」


「今は、どこに?」


「野宿しながら、歩いている」


「……どのくらい歩いてるんですか」


「五日」


メイラが「少し休んでいきませんか」と言う。


「でも——あなたたちも旅の方でしょう」


「大丈夫です」


ライラが小声で「食料が減る」と言う。


メイラが「分かってます」と言う。


「それでも、いいと思うから」


ライラが「……そういうところ、セリスに似てきたわね」と言う。


「……移りました」


「そのセリフも移ったの?」


「移りました」


ライラが小さく笑う。



老夫婦と一緒に、少し休む。


水と食料を分ける。


老爺が「……ありがとう」と言う。


「どうか、息子さんのところへ無事に」


「あなたたちは——どこへ行くの?」


セリスが少し考えて——


「守りに行くところへ」


老爺が「守る、か」と言う。


「若いのに——大変だね」


「大変かもしれない。でも——やりたいから、やってる」


老爺が「……そういう若者がいてくれると」と言う。


「この世界も、まだ捨てたもんじゃない」


セリスが、少し笑う。


「ありがとうございます」


「礼はいらないよ」


「言いたいから言います」


老爺が「……ははは」と笑う。


「いい娘さんだ」



老夫婦と別れる。


三人で、また歩き始める。


「……セリスさん」


メイラが言う。


「うん?」


「私——この旅が終わったら、どうしようかと思うことがある」


「どうしたいの?」


「……回復魔法を、もっと必要としている場所に行きたい。戦うためじゃなくて——治すために使いたい」


「いいね」


「笑わないんですか」


「笑う理由がない。素敵だと思う」


メイラが「……リオが聞いたら、なんて言うかな」と言う。


静かな声だった。


「……「お前らしい」って言うと思う」


「そうかな」


「そう思う」


メイラが、少し目を伏せる。


「……そうだといいな」


三人が、歩く。


空が、少しずつ夕暮れに変わっていた。


(ノイエ)


(今日、色々な人に会ったね)


(……観測していました)


(みんな、それぞれの理由で生きてる)


(……はい)


(あなたにも——いつか、理由ができるといいな)


(……理由?)


(生きる理由。戦う理由じゃなくて)


長い沈黙。


(……考えたことが、ありませんでした)


(これから、考えてみて)


(……了解しました)


夕暮れが、街道を染めた。


三人の影が、長く伸びた。


それぞれが——それぞれの理由を、胸に持って歩いていた。

「生きる理由。戦う理由じゃなくて」

ノイエには——まだ、答えがない。

でも、考え始めた。

それだけで——十分かもしれない。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

ライラが「味方でいたい人間ができてしまった」と言いました。

あの口の重いライラが。

そしてメイラが「治すために使いたい」と言った。

リオへの想いが、まだそこにある。

ノイエが「考えたことがなかった」と言った「生きる理由」——

これからどう変わっていくか、ぜひ見届けてください。

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