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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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焼けた跡

街道沿いの村が、見えてきた。


「……煙が出ていない」


メイラが言う。


炊事の煙が、一本もなかった。


「……嫌な感じがする」


ライラが小声で言う。


近づく。


焼けていた。


建物のいくつかが、黒く崩れている。

最近の火だった。

まだ、焦げた匂いが残っている。


「……いつ?」


「二、三日前だろう」


ガイウスが答える。

声が——いつもより、低かった。


「生存者は?」


「探す」



村の中を歩く。


人がいない。

逃げたのか。

連れていかれたのか。


「……ここにいた人たちは」


メイラが、崩れた建物を見る。


「帝国が来たんだろう」


ライラが言う。


「抵抗したか、あるいは——何かを隠していたか」


「何を隠していたの?」


「食料。人。情報。何でも理由になる」



村の外れに、老人が一人いた。


建物の陰に、座っていた。


「……生きていますか」


メイラが駆け寄る。


老人が顔を上げる。


「……帝国の者か」


「違います。旅の者です」


老人が、一人ずつ見る。

セリスを見る。

ガイウスを見る。


ガイウスを見た時——

老人の目が、止まった。


「……お前は」


ガイウスが、動かない。


「あの時の兵士だ」


静かな声だった。

怒りも悲しみも——通り過ぎた後の声。


「帝国の部隊にいた。三年前——この村の隣村に来た部隊だ」


「……」


「お前の顔を、覚えている」


ガイウスが、何も言わない。


否定しない。


「……そうだ」


短く、言った。



セリスが、ガイウスを見る。


横顔が——いつもと違った。


感情を「封じている」のではなく。

何かに——耐えている顔だった。


「……隣村で何があったか、覚えているか」


老人が問う。


「……覚えている」


「俺の息子が、その村にいた」


「……」


「生きているか、死んでいるか——今も分からない」


老人が、ガイウスから目を離す。


「謝るな。謝られても何も戻らない」


「……分かっている」


「ならば——今、何をしている」


ガイウスが、少し間を置く。


「……守ろうとしている。奪ったものを」


老人が、長い間ガイウスを見る。


「遅い」


「分かっている」


「でも——やれ」


老人が背を向ける。


「遅くても、やらないよりましだ」



村を出る。


全員が、黙って歩く。


しばらくして——


「……ガイウス」


セリスが言う。


「何だ」


「話してくれなくていい」


「……」


「でも——一つだけ聞いていい?」


「何だ」


「今も——一緒にいていい?」


ガイウスが、足を止める。


「……なぜ、そんなことを聞く」


「あなたが、いなくなるかもしれないと思ったから」


「……」


「いなくならないで、とは言わない。でも——」


「でも?」


「……行くなら、言ってほしい」


ガイウスが、前を向いたまま——


「……そうする」


短く言った。


それだけだった。


だが——歩き始めた足が。

セリスの隣に、そろっていた。

その夜——ガイウスは、一人で起きていた。

火が、揺れる。

(……遅い)

老人の言葉が、頭の中にある。

(分かっている)

(それでも——)

(やるしかない)

それだけが、今の自分に残っているものだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

ガイウスの過去が、少し見えてきました。

「謝るな。謝られても何も戻らない」

老人のこの言葉——重かったですね。

それでもガイウスは「守ろうとしている」と言えた。

少しずつ、変わっています。

次回、ガイウスが動き始めます。

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