表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/68

道の先

ヴァレンの街を遠く離れた頃には、空が白み始めていた。


街道を外れる。

森の中へ。

帝国の目が届きにくい道を選ぶ。


「……次はどこへ行く?」


リオが歩きながら言う。


「北へ。しばらくは帝国の動きを見ながら」


「将軍が動いてくれれば、ヴァレンの北東は守れる」


「そう」


「じゃあ俺たちは?」


「帝国の次の狙いを探る。ヴァレンだけじゃない。他の小国にも手が伸びているはずだから」


リオが「……やることは尽きないな」と言う。


「そうね」


「嫌じゃないのか」


「嫌じゃない。やりたいから、やってる」


リオが「……そうか」と言う。


少し間を置いて——


「俺も、そうなりたい」


セリスが「なれるわよ」と言う。


「根拠は」


「……もうなってきてるから」


リオが「大げさだ」と言う。


「そう?」


リオは答えない。


だが——歩く速度が、少し速くなった気がした。



昼前。


村が見えてきた。


小さな村だった。


「……寄っていくか?」


ガイウスが言う。


「食料の補充ができれば」


「見た感じ、豊かな村ではない」


「それでも、聞いてみる」



村に近づく。


様子が、おかしかった。


人が少ない。


出てきた老人が、セリスたちを見て——


「……帝国の者か」


「違います。旅の者です」


老人が、じっとセリスを見る。


「……あんた、その目は……。いや、何でもない。入ってくれ」



村の中に入る。


荒れていた。


建物が、いくつか壊れている。


食料を運ぶ人間が見当たらない。


子供が一人、家の影から覗いている。


「……何があったんですか」


メイラが老人に聞く。


「……帝国が来た。三日前に」


「徴収ですか」


「徴収、とは言っていた。バール教への奉納だと言って——食料を全部持っていった」


「全部?」


「全部だ。種籾まで。これから何を食えというんだ」


老人の声が、かすれていた。


怒りではない。

疲れていた。


「抵抗は?」


ガイウスが聞く。


「……した者は、連れていかれた」


「連れていかれた?」


「若い男が三人。どこへ連れていったかも、分からない」



セリスが、村を見渡す。


残っているのは——老人と女と子供だけだった。


(……これが)


(帝国が、やっていること)


(バール教の名において)


(ノイエ)


沈黙。


(……あなたの名前で)


(こういうことが、起きている)


(……知っています)


(怒っていいのよ)


(……私は怒りという感情を——)


(持っていない、って言うの?)


長い沈黙。


(……今は)


(今は?)


(……少し、分かりません)



「食料を分けます」


セリスが言う。


「え?」


リオが振り返る。


「私たちの食料を、ここに置いていく」


「でも俺たちも——」


「次の村で調達できる。ここの人たちは、今すぐ必要だから」


老人が「……そんな」と言う。


「受け取ってください」


「しかし、あなたたちも旅の途中で——」


「受け取ってください」


セリスが、老人を見る。


「私は——守りたいから、旅をしています」


「……守る?」


「こういう村が、なくなってほしくない」


老人が、セリスを見る。


長い間、見ていた。


「……ありがとう」


小さく言った。



村を出る。


「……食料、大丈夫か」


リオが言う。


「次の村で何とかする」


「何とかって……」


「大丈夫」


「根拠は」


「ガイウスがいるから」


ガイウスが「俺を使うな」と言う。


「冗談よ」


「冗談に聞こえなかった」


メイラが小声で「聞こえなかったですよね」と言う。


「聞こえた」


リオが「お前、笑えよ」と言う。


「なぜ」


「冗談なんだから」


「……」


ガイウスが、少し間を置く。


「……笑い方を、忘れた」


「また言ってる」


「また言った」



午後。


街道近くに出た。


前方に、人の声が聞こえる。


ライラが「止まれ」と小声で言う。


全員が止まる。


木の陰から覗く。


帝国兵が、いた。


五人。


街道を塞いでいる。


旅人を止めて、荷物を検めている。


「……手配書が出ているな」


ライラが小声で言う。


「私たちの?」


「少なくとも、セリスの顔は出回っている。ガイウスも恐らく」


「通れないわね」


「回り道をする。ただし——」


「遠回りになる」


「一日、余計にかかる」


セリスが「仕方ない」と言う。


「食料は?」


「……今日中に次の村に着ければ」


「着けるか?」


「……回り道をすれば、難しい」


全員が、少し黙る。


リオが「俺が行く」と言う。


「え?」


「俺の顔は、手配書に出ていないだろう。一人で通って、向こう側で合流する」


「でも——」


「普通の旅人に見えるよう、荷物は最小限にする。食料だけ持って行く」


ガイウスが「……合理的だ」と言う。


「珍しいな、ガイウスに褒められるのは」


「褒めていない。合理的だと言っただけだ」


「同じじゃないのか」


「違う」


「……どう違うんだよ」


「褒めるのは感情だ。合理的だと言うのは判断だ」


リオが「……難しいやつだな」と言う。


「よく言われる」



リオが荷物を整える。


「待ってる」


セリスが言う。


「すぐ戻る」


「気をつけて」


リオが「心配性だな」と言う。


「心配するから言ってる」


リオが、少し笑う。


「……珍しいな、セリスがそういうことを言うのは」


「いつも思ってるわよ」


「……そうか」


リオが、街道に向かって歩いていく。


何事もなく——通り過ぎた。


帝国兵が荷物を確認する。


何も言わない。


リオが向こう側へ消える。



回り道をして、合流する。


「……遅かったじゃないか」


リオが言う。


「回り道だから」


「食料、持ってきた」


「ありがとう」


リオが「礼はいらない」と言う。


「言いたいから言う」


「……セリスって、それよく言うよな」


「そう?」


「うん」


リオが少し笑う。


「……悪くないと思う」


「何が」


「礼を言うやつは、嫌いじゃない」


セリスが「ありがとう」と言う。


「今度はそっちへの礼か」


「そう」


リオが「……ずるいな」と言う。


悪い意味ではない声だった。



夜。


野営をする。


火の傍で、ガイウスが地図を広げている。


「……ここから先、帝国の駐屯地がある」


「どのくらいの規模?」


「大きくはない。ただし——」


「ただし?」


「この駐屯地を経由して、帝国本土から兵が送られてくるルートがある」


「迂回する?」


「した方がいい。ただし——さらに遠回りになる」


「どのくらい?」


「三日」


「……三日か」


ライラが「もっと早いルートがある」と言う。


「どこ?」


「山を越える。ただし——険しい」


「どっちがいい?」


全員が、少し考える。


「山を越える」


セリスが言う。


「なぜ」


「三日遅れれば、守れなかった村みたいなところが増えるかもしれないから」


ガイウスが「……険しいぞ」と言う。


「大丈夫」


「根拠は?」


「みんながいるから」


ガイウスが少し間を置く。


「……それは根拠にならない」


「私には、なる」


ガイウスが「……そうか」と言う。


何も言わなかった。


それ以上は。



火が、揺れる。


空に、星が出ていた。


(ノイエ)


(さっきの「少し分からない」って)


(怒りのこと?)


(……はい)


(どうして分からなかったの?)


(……あの村を見た時に)


(うん)


(……何かが、動いた気がしました)


(何かって?)


(……名前が、分かりません)


セリスが火を見る。


(怒り、かもしれない)


(……怒り)


(あなたの名前で、あんなことが起きている。だから——怒っていいと思う)


長い沈黙。


(……そうかもしれません)


(うん)


(……セリス)


(なに?)


(……あの村の人たちは、これから生きていけますか)


セリスが、少し考える。


(将軍が動けば、変わるかもしれない)


(……かもしれない、ですか)


(確かなことは言えない。でも——)


(でも?)


(変えたい。だから動いてる)


ノイエが、しばらく何も言わなかった。


(……了解しました)


短く答えた。


だが——その声が。


いつもより、少しだけ。


違う気がした。

「変えたい。だから動いてる」

その言葉を、ノイエは——

きっと、覚えている。

ずっと、覚えているだろう。

人間が「変えたい」と思えることを。

教えてくれたのは、誰だったか。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

守れなかった村。食料を全部持っていかれた人たち。

セリスは迷わず「分ける」と言いました。

でも彼女自身も、明日の食料があるか分からない。

それでも——「こういう村が、なくなってほしくない」。

その言葉がノイエに届いているのが、最後のやり取りで見えましたか?

「何かが動いた気がした」——ノイエは少しずつ、変わっています。

次回は山越えのルートへ。険しい道の先に何があるのか、ぜひ見届けてください。

続きが気になった方は【ブックマーク】と

【評価(☆)】をいただけると励みになります!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ