真実
ヴァレンの街を出たのは、その日の夕方だった。
次の目的地は、まだ決まっていない。
ただ、北へ向かう。
帝国の目が届きにくい方向へ。
夜。
野営の準備をする。
火を起こす。
各自が動く。
ガイウスが薪を集める。
リオが火をつける。
メイラが食料を確認する。
ライラが周囲を見回る。
セリスが火の傍に座る。
(……疲れた)
声には出さない。
(ノイエ)
(今日は使わなかったわね)
(……はい)
(よかった)
(……なぜですか)
(使わない方が、いい気がするから)
沈黙。
(……セリス)
珍しかった。
ノイエが名前で呼ぶことは、少ない。
(なに?)
(……後で、話があります)
(後で?)
(……一人になれる時に)
セリスが「……分かった」と心の中で答える。
食事を終えて。
各自が休む準備をする。
「見張りは俺が最初にやる」
ガイウスが言う。
「傷は?」
「問題ない」
「また言ってる」
リオが言う。
「うるさい」
「俺が代わろうか」
「いらない」
「……そうか」
リオが「ガイウスって、意地っ張りだよな」とメイラに言う。
メイラが「そうですね」と言う。
ガイウスが「聞こえている」と言う。
「聞こえてていいんです」
メイラが毛布を広げながら答える。
少しずつ、静かになる。
セリスが立ち上がる。
「……少し、外の空気を吸ってくる」
「一人で行くな」
ガイウスが言う。
「すぐそこまで」
「……俺も行く」
「見張りは?」
「リオ、代われ」
「え、俺?」
「頼む」
リオが「……しょうがないな」と言って立ち上がる。
「本当にすぐ戻るから。一人で大丈夫よ」
「大丈夫かどうかは俺が判断する」
セリスが「……頑固ね」と言う。
「そうだ」
野営地から少し離れた場所。
木々の間。
星が見えた。
「……きれいね」
「そうだな」
ガイウスが答える。
二人で、しばらく空を見ていた。
(……ノイエ)
(ガイウスがいるけど、大丈夫?)
(……構いません。どうせ、聞こえません)
(そうね)
(……では、話します)
(うん)
沈黙。
(……セリス)
(なに?)
(……あなたは今、死に向かって歩いています)
セリスが、固まる。
(……どういうこと)
(……私を使うたびに、あなたの命が削れています)
(知ってる)
(……知っていたんですか)
(うすうす)
(……なぜ言いませんでした)
(言ったら、あなたが止めるかもしれなかったから)
(……私が、止める?)
(私じゃなくて——あなたが私を使うことを、止めようとするかもしれなかった)
沈黙。
(……このままでは、死にます)
(どのくらいで?)
(……分かりません。ただ)
(ただ?)
(……使うたびに、加速しています)
セリスが、空を見上げる。
(……そう)
(……怖くないんですか)
セリスが少し考える。
(怖い)
(……では、なぜ)
(守りたいものがある。だから——止まれない)
長い沈黙。
(……非合理です)
(知ってる)
(……それでも、続けるんですか)
(続ける)
(……なぜ、そんなに簡単に言えるんですか)
(簡単じゃない)
セリスが、星を見る。
(ただ——やめる理由が、守りたい気持ちに勝てない)
ノイエが、長い間、何も言わなかった。
(……了解しました)
それだけ言った。
「……セリス」
ガイウスが、突然言った。
「うん?」
「その剣——使うたびに、何かが削れているように見える」
セリスが、固まる。
「……将軍も同じことを言ってたわね」
「将軍が気づくなら、俺も気づく」
「……気のせいよ」
「嘘が下手だな」
「……」
セリスが黙る。
ガイウスが「答えなくていい」と言う。
「え?」
「……聞いたのは俺の確認だ。答えを強要するつもりはない」
「確認?」
「……お前が、何かを抱えていることを、確認した」
セリスが、ガイウスを見る。
「……それだけ?」
「それだけだ」
「何も、聞かないの?」
「今は聞かない」
「……なぜ」
ガイウスが少し間を置く。
「お前が話したい時に、話せばいい」
セリスは、しばらくガイウスを見た。
(……この人は)
(いつも、こうだ)
踏み込まない。
だが——いなくならない。
「……ありがとう」
「礼はいらない」
「言いたいから言う」
「……」
ガイウスが「戻るぞ」と言う。
「うん」
二人が野営地へ向かう。
星が、瞬いていた。
(……ノイエ)
(さっきの「了解しました」って、どういう意味?)
沈黙。
(……あなたが止まらないなら)
(……私も、止まらないということです)
セリスが、歩きながら——
小さく、笑った。
「了解しました」
たった三文字。
なのになぜ——
こんなにも、心強いのか。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ノイエからの告白、来ましたね。
「死に向かって歩いています」
それを聞いても——セリスは止まらない。
「守りたい気持ちが、やめる理由に勝てない」
この子は本当に、そういう子なんです。
そしてガイウスも気づいていた。
「今は聞かない」という言葉——
あの男なりの、優しさだと思います。
次回以降、セリスが「知っていて戦い続ける」
という覚悟がどこへ向かうか——
ぜひ見届けてください。
続きが気になった方は【ブックマーク】と
【評価(☆)】をいただけると励みになります!
よろしくお願いします!




