表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/66

証拠

朝。


将軍の屋敷へ向かう。


「三日以内に答えを出せ」と言われていた。

まだ、二日残っていた。


「……早すぎないか」


リオが言う。


「早い方がいい。帝国の動きも早いから」


「そうか」


「それに——」


セリスが革袋を見る。


「早く届けたい」


リオが「……そうだな」と言う。



将軍の屋敷の門の前。


衛兵が「また来たか」という顔をする。


「将軍に、お届けしたいものがあります」


「……約束は三日以内だったはずだが」


「はい。ですが——早くなりました」


衛兵が中に消える。


しばらくして「入れ」と言われる。



将軍の部屋。


昨日と同じ。

武器と地図が並んでいる。


将軍が立っていた。


「……早かったな」


「昨夜、動きました」


「昨夜?」


「王宮に入りました」


将軍の目が、わずかに動く。


「……どうやって」


「詳しくは言えません。ですが——」


セリスが革袋を差し出す。


「これを、見てください」


将軍が受け取る。


中を開ける。


紙を取り出す。


読む。


部屋が、静かになった。


将軍の目が、紙の上を動く。


「……『王の病状の管理について』」


低い声が、呟く。


「管理——か」


もう一枚を手に取る。


「……『王弟への指示書』」


将軍が、紙から目を上げる。


セリスを見る。


「……どこで手に入れた」


「王宮の奥の小部屋です。帝国の使者が王と会った部屋の、隣にある部屋でした」


「……王弟の部屋だ」


「知っていたんですか」


「……薄々、な」


将軍が紙を机に置く。


「これが本物なら——」


「本物です。王宮から持ち出しました」


「……証拠として、使える」


将軍が窓の外を見る。


長い沈黙。


「……十年だ」


「え?」


「俺が疑いを持ち始めてから、十年経った」


将軍の声が、低くなる。


「王が変わったのは十年前だ。それから——帝国との関係が、急速に近くなった」


「……王弟が、動いていたから?」


「それだけではないだろう。だが——これで、繋がった」


将軍が紙を手に取る。


もう一度、読む。


「……俺が動けば、逆賊になると言った」


「はい」


「だが——」


将軍が顔を上げる。


「これがあれば、話が違う」


「動いてくれますか」


将軍が、セリスをまっすぐ見る。


値踏みではない。

確認するような目だった。


「……お前は、何のためにここまでした」


「ヴァレンを守るためです」


「繰り返すな。なぜ、お前がヴァレンを守ろうとする」


セリスが少し間を置く。


「……守りたいものは、自分の国だけじゃないから」


「それだけか」


「それだけです」


将軍が「……そうか」と言う。


また、沈黙。


「エルデンの王は——お前の父は、そういう人間だったと聞く。国境の外まで、気にかけていたと」


「……父のことは、まだよく分かりません」


「なぜ」


「父が何を考えていたか、聞く前に——王都が燃えたから」


将軍が、少し目を伏せる。


「……そうか」


短く言う。


それだけで、十分だった。



「動こう」


将軍が言った。


「……本当に?」


「俺が疑っていたことは本当だった。証拠もある。動かない理由が、なくなった」


「逆賊と呼ばれるかもしれない」


「呼ばれても構わない」


将軍が地図を広げる。


「帝国の本隊が北東から来るなら——リディア公国との境界に先回りする必要がある」


「兵は動かせますか?」


「俺に従う者は、いる。王弟の目が届かない場所に、な」


「……準備していたんですか」


「十年間、な」


将軍が少し口の端を上げる。


笑ったのか——笑わなかったのか。

どちらとも取れる表情だった。


「お前たちは、この後どうする」


「次の場所へ向かいます」


「ヴァレンにはいないのか」


「……いられません。帝国が追っているから」


「そうか」


将軍が、セリスを見る。


「……一つだけ、聞いていいか」


「はい」


「お前は——生き延びるつもりか」


セリスが、将軍を見る。


「……どういう意味ですか」


「その剣を使うたびに、何かが削れているように見える」


セリスが固まる。


「……気のせいですよ」


「そうか」


将軍が「そうか」と繰り返す。


それ以上は聞かない。


「……生き延びろ。お前のような人間が、この世界には必要だ」


「……」


「父親のような言い方で、悪いがな」


セリスが、少し笑う。


「……似たようなことを、最近よく言われます」


「そうか。周りが正しいということだ」



屋敷を出る。


全員で歩く。


「……将軍、動いてくれるんですね」


メイラが言う。


「うん」


「よかった」


リオが「次はどこへ行くんだ」と言う。


「まだ決めていない」


「決めていないのか」


「決めてから動くより、動きながら決める方が——帝国に読まれにくいから」


ガイウスが「合理的だな」と言う。


「あなたに言われると、照れるわね」


「なぜ」


「……いつも合理的って言うから」


「俺は合理的ではない」


「え?」


「最近、そう思う」


ガイウスが前を向いたまま言う。


セリスが「……そう」と言う。


何も聞かなかった。


聞かなくても——何となく、分かる気がした。



(ノイエ)


(将軍が気づいていた。剣を使うたびに何かが削れているって)


(……観察眼のある人間です)


(そうね。……怖い?)


(何が、ですか)


(気づかれることが)


沈黙。


(……私は、怖いという感情を持ちません)


(そう)


(……ただ)


(ただ?)


(……あなたが、気づかれることを——好ましくないと、判断しています)


(それって——)


言いかけて、止める。


(……なんでもない)


ノイエが「……なぜ止めましたか」と言う。


(照れるから)


長い沈黙。


(……意味が分かりません)


(そのままでいい)


セリスは、前を向いて歩いた。


空が、明るくなっていた。


ヴァレンの街が、今日も動いている。


この街を——守れるかもしれない。


その思いが、足を軽くした。

将軍が動く。

ヴァレンは、守れるかもしれない。

だが——セリスはまだ知らない。

将軍が「削れている」と言った言葉の、本当の意味を。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

将軍、動いてくれましたね。

十年間、ずっと待っていた人が——ようやく動ける。

「生き延びろ」という言葉。

将軍は気づいていました。

セリスは「気のせいですよ」と言いましたが……

読んでいる皆さんは、知っていますよね。

35話、大事な話が来ます。

ぜひ見届けていただけると嬉しいです。

続きが気になった方は【ブックマーク】と

【評価(☆)】をいただけると励みになります!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ