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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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王宮

夜明け前。


街が、静かだった。


石畳に、足音が響く。


セリスとガイウスが歩く。


外套を深く被って。

顔を伏せて。


「……緊張しているか」


ガイウスが前を向いたまま言う。


「少し」


「正直だな」


「隠しても仕方ないから」


「……そうだな」


それだけ言って、また黙る。


(ノイエ)


(周囲は?)


(……異常なし。ただし)


(ただし?)


(……王宮の中に、強い気配があります)


(どのくらい?)


(……帝国兵よりは、上です)


セリスが「……ガイウス」と小声で言う。


「聞こえた」


「え?」


「お前が黙った。何かあると思った」


セリスが「……よく分かるわね」と言う。


「そういう顔をする」


「どんな顔?」


「……集中した顔だ」


「そう」


「何があった?」


「王宮の中に、強い気配があるって」


ガイウスが少し間を置く。


「……帝国の密偵か」


「分からない。でも——行く?」


「行く」


「即答ね」


「将軍を動かすには、証拠が必要だ。引き返す理由がない」


セリスが「……そうね」と言う。


足が、前へ進む。



東側の出入り口。


衛兵が、いなかった。


交代の時間、ぴったりだった。


「……入るぞ」


ガイウスが先に動く。


セリスが続く。


扉が、静かに開く。



使用人の通路。


暗い。


石の壁が続く。


足音を殺して歩く。


ライラが言った通りだった。


突き当たりを右。


中庭が見える。


月が出ていた。


「……北側の廊下」


ガイウスが小声で言う。


「あそこ」


セリスが指す。


廊下の入口に、衛兵が一人。


「……一人か」


「ライラは複数と言っていた」


「巡回に出ているんだろう。今のうちに通る」


「どうやって?」


ガイウスが「待て」と言う。


中庭の端を回る動線を目で追う。


「……衛兵の死角が、あそこにある。柱の影だ」


「見える」


「走らない。ゆっくり、壁伝いに動く」


「分かった」


二人が動く。


壁伝いに。


柱の影に入る。


衛兵が、こちらを見ない。


「……次、廊下の入口まで」


「衛兵は?」


「……顔を背けた。今だ」


走らずに、しかし素早く。


廊下に入る。



北側の廊下。


静かだった。


足音を殺す。


「……居住区はこの先のはずだ」


「小部屋は?」


「王の私室に近い場所、とライラは言った。王の私室がどこかを探す必要がある」


「どうやって?」


「警備が厚い場所がそこだ」


歩きながら、左右を確認する。


扉が並んでいる。


どれも似たような扉。


「……あそこ」


セリスが小声で言う。


廊下の奥。


衛兵が二人、扉の前に立っている。


「……王の私室か」


「そうだとしたら、小部屋はその近くに」


ガイウスが左右を見る。


「……あの扉だ」


王の私室の隣。

小さな扉。

衛兵が立っていない。


「……入れるかな」


「試す」


「鍵は?」


「……かかっていないかもしれない。客を招く部屋ならば」


二人が、壁伝いに近づく。


衛兵の視線を確認する。


「……今だ」


扉に手をかける。


回る。


鍵は——かかっていなかった。



小部屋の中。


暗い。


月明かりが窓から差し込む。


机が一つ。

棚が一つ。

椅子が二つ。


「……使者と王が、ここで話したのか」


セリスが呟く。


「探せ。書状か、何か記録になるものを」


「どこを?」


「机の引き出しから」


二人で分担する。


セリスが机を。

ガイウスが棚を。


引き出しを開ける。


紙が何枚か。


月明かりで読もうとする。


(……これは?)


帝国の紋章が入っている。


文字を追う。


(……「王の病状の管理について」)


セリスが息を呑む。


(管理。病状の、管理)


(病気ではなく——意図的に、管理されていた)


「……ガイウス」


小声で呼ぶ。


ガイウスが来る。


紙を見る。


「……これだ」


「将軍に見せれば?」


「十分だ。他にもあるか確認しろ」


さらに引き出しを探る。


もう一枚。


「……『王弟への指示書』」


ガイウスが「両方持て」と言う。


セリスがライラの革袋に入れる。


「……行くぞ」



扉を開ける。


廊下を確認する。


衛兵の位置が、変わっていた。


「……巡回が戻ってきた」


ガイウスが小声で言う。


廊下の入口に、二人。


「……来た道を戻れない」


「別のルートは?」


「……ない。考えていなかった」


「考えていなかったの?」


「想定外だ」


セリスが(それはまずい)と思う。


声には出さない。


「……窓は?」


小部屋の窓を見る。


外は——中庭だった。


「中庭に出られる」


「高さは?」


「……飛び降りられる」


「決行する」


「え、今?」


「今しかない」


ガイウスが窓を開ける。


音を立てないように。


ゆっくりと。


「先に行け」


「でも傷が——」


「問題ない。先に行け」


セリスが窓枠に手をかける。


飛び降りる。


石畳に着地する。


膝を曲げて衝撃を逃す。


続いてガイウスが降りてくる。


着地。


一瞬、顔が歪む。


「……傷は?」


「問題ない。走るぞ」



中庭を横切る。


東側の出入り口へ。


衛兵が交代を終えて戻ってきていた。


一人、こちらに気づく。


「——誰だ!」


走る。


扉を抜ける。


街に出る。


角を曲がる。


また曲がる。


路地に入る。


壁に背をつける。


息を殺す。


足音が、近づく。


——通り過ぎる。


遠ざかる。



しばらく、動かなかった。


息が、整う。


「……取れた」


セリスが革袋を見る。


「ああ」


「……やったわね」


ガイウスが「まだだ」と言う。


「将軍に届けてから、やっただ」


「……そうね」


セリスが、小さく笑う。


ガイウスが「何がおかしい」と言う。


「おかしくない。ただ——」


「ただ?」


「……一緒に笑えばいいのに、と思って」


ガイウスが、少し間を置く。


「……笑い方を、忘れた」


セリスが「そう」と言う。


「……いつか、思い出すかもしれないから」


「かもしれない、な」


二人が、路地を出る。


夜明けが、近かった。



宿に戻る。


全員が起きていた。


「……取れた」


セリスが革袋を掲げる。


リオが「本当か」と言う。


「本当」


メイラが「よかった」と言う。目が赤い。


「……泣いてたの?」


「泣いてません。心配してただけです」


「同じじゃないかな」


「違います」


ライラが革袋を受け取って中を確認する。


「……これは」


「将軍が動けるだけの証拠になる?」


「……なる。十分すぎるくらい」


「よかった」


ガイウスが椅子に座る。


メイラが「傷を見せてください」と言う。


「問題ない」


「見せてください」


「……」


ガイウスが腕を出す。


メイラが確認する。


「……少し開いていますね」


「問題ない範囲だ」


「問題あります」


「……」


セリスが「ありがとう、ガイウス」と言う。


ガイウスが「礼はいらない」と言う。


「言いたいから言う」


「……」


ガイウスは、何も言わなかった。


ただ——視線が、少しだけ、窓の外に向いた。


夜明けの光が、差し込み始めていた。



証拠は、手に入った。


次は——将軍だ。

夜明けの光の中で、革袋を握り締める。

証拠は手に入った。

将軍が動けば——ヴァレンは、守れる。

(……守れる)

その言葉を、心の中で繰り返した。

まだ、信じきれなかった。

それでも——前へ進むしかなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

証拠、取れました。

でもガイウスの傷が開いてしまって——

「だから言ったのに」とメイラと一緒に思った方、いますか?

路地での「笑い方を、忘れた」という一言。

あの男、少しずつ変わってきていますよね。

次回はいよいよ将軍への報告です。

ヴァレンを守るための動きが、ここから加速します。

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