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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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将軍

将軍の屋敷は、街の中心部にあった。


石造りの門。

衛兵が二人。

帝国の兵士ではない——ヴァレンの衛兵だった。


「……どうやって入る?」


セリスが小声で言う。


「正面から」


ガイウスが答える。


「正面から?」


「将軍は帝国に懐疑的だと言った。ならば——帝国の敵が訪ねてくることを、むしろ歓迎するかもしれない」


「……賭けね」


「情報が正確なら、賭けではない」


セリスが「情報はライラ経由だけど」と言う。


「……確度は高い、と言っていた」


「信じるの?」


「今は、信じるしかない」



門の前に立つ。


衛兵が「何者だ」と言う。


セリスが外套を少し開く。


「エルデン王国の王女、セリスです。将軍にお目にかかりたい」


衛兵が固まる。


「……エルデン王国は」


「滅びました。知っています」


セリスがまっすぐ言う。


「それでも、将軍にお伝えしたいことがある」


衛兵が互いを見る。


しばらくして——


「……少し待て」


一人が屋敷の中に消えた。



待つこと、しばらく。


「入れ」


案内される。



屋敷の中は、質素だった。


飾り気がない。

武器と地図が並んでいる。

生活感より、戦場の匂いがした。


将軍が立っていた。


五十代だろうか。

白髪交じりの髪。

傷跡のある顔。

だが——目が、鋭かった。


「エルデン王国の王女か」


「はい」


「……よく生きていた」


感情のない声だった。

称賛でも、憐れみでもない。

ただ、事実として言っている。


「座れ」


椅子を示す。


セリスが座る。ガイウスは立ったまま。


「用件を言え。時間がない」


「帝国の本隊が、来月にも動きます」


将軍の目が、わずかに動く。


「……根拠は」


「信頼できる筋からの情報です。北東——リディア公国との境界を越えて来る」


「その筋とは」


「今は言えません」


将軍がセリスを見る。


値踏みするような目。

だが——蔑みはない。


「……知っている」


短く言う。


「え?」


「その情報は、すでに掴んでいる」


セリスが少し目を丸くする。


「……では、なぜ」


「動けないからだ」


将軍が椅子に座る。


「王が倒れた。政を仕切るのは王弟——帝国に近い男だ。俺が動けば、逆賊になる」


「……王の病は、帝国の工作では?」


「そう思っている。だが証拠がない」


「証拠を掴めば、動けますか」


将軍が、セリスをまっすぐ見る。


「……お前は、何をしたい」


「ヴァレンを守りたい」


「なぜ。お前の国ではない」


「守りたいものは、自分の国だけじゃない」


将軍が、しばらくセリスを見た。


「……エルデンの王は、そういう人間だったと聞く」


「父のことですか」


「ああ。民に慕われた王だった。お前は——」


将軍が、わずかに目を細める。


「似ているな」


セリスは、少し黙った。


「……父には、まだなれていません」


「そうか」


将軍が立ち上がる。


「証拠を持ってこい。王の病が帝国の工作だという証拠を。そうすれば——俺は動く」


「どこにあります?」


「帝国の使者が来た時、王と二人きりで会った部屋がある。王宮の奥、立ち入り禁止区域だ」


「……王宮に入る必要がある」


「そうだ。難しいか?」


セリスがガイウスを見る。


ガイウスが「……可能かどうか、検討する」と言う。


将軍が「三日やる」と言う。


「三日以内に答えを出せ。それ以上は待てない」



屋敷を出る。


「……王宮への潜入ね」


セリスが歩きながら言う。


「無謀だ」


ガイウスが即答する。


「でも、やる?」


「……お前がやると言うなら、方法を考える」


「やる」


「即答だな」


「将軍が動いてくれれば、ヴァレンが守れる」


ガイウスが少し間を置く。


「……王宮の構造を調べる必要がある。ライラに聞け」


「分かった」



(ノイエ)


(何か言う気?)


(……無謀です)


(知ってる)


(勝率——)


(言わなくていい)


(……なぜですか)


(聞いたら、やめたくなるかもしれないから)


沈黙。


(……それは、非合理です)


(知ってる。でも——)


セリスが空を見上げる。


(守りたいものがある。それだけよ)


ノイエは、何も言わなかった。


ただ——少し、間があった。


(……どうした?)


(……何でもありません)


いつもより、少し遅い返事だった。



宿に戻る。


全員に状況を共有する。


「王宮への潜入が必要になった」


リオが「……それ、本気か」と言う。


「本気」


「無謀じゃないか」


「そうね」


「そうね、って——」


「でも、やる理由がある」


リオが、セリスを見る。


(……こいつは)


(いつも、こうだ)


無謀だと分かっていて。

それでも、やる理由を持っている。


(……俺には)


リオが拳を握る。


(そういう理由が、あるか?)


メイラが「私は回復で支援します」と言う。

ライラが「王宮の構造なら、少し知っている」と言う。

ガイウスが「明日、下見をする」と言う。


一人ずつ、動き出す。


セリスはその様子を見渡した。


(……仲間がいる)


当たり前のことが——

当たり前でなかった頃を、思い出す。


(ありがとう)


誰にも言わずに、思った。



その夜。


リオが一人で外に出た。


空を見上げる。


星が出ていた。


(……守る、か)


28話で見た少年の顔が、浮かぶ。


セリスが前に出た。

声をかけた。

硬貨を渡した。


それだけで——少年が走って帰った。


(……俺には、できるか)


拳を、握る。


「……できるかじゃなくて」


小声で言う。


「……やるかどうか、か」


星が、瞬いていた。


答えは、まだなかった。


だが——


何かが、変わり始めていた。

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