表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/63

首都にて

第27話 首都にて




ヴァレン王国の首都は、思ったより賑わっていた。




石造りの建物が並ぶ。


市場の声。子どもの笑い声。


だが——




「……重い」




セリスが小声で言う。




「何が?」




メイラが聞く。




「空気が。アルヴェリアが滅びる少し前に、似てる」




メイラが、周囲を見渡す。


人はいる。生活もある。


だが——笑顔の奥に、何かがある。




「……帝国の影ね」




ライラが言う。




「徴収が増えてから、街の空気が変わった。みんな、分かってる。このままでは——って」




「でも、動けない」




「そう。動いたら、次はどうなるか——みんな、知ってるから」




セリスは、その言葉を黙って聞いた。






「手分けして情報を集める」




ガイウスが言う。




「ライラは伝手を使え。俺とセリスは市場へ。リオは市場の外周を見ておけ。帝国兵の動きを確認しろ」




「分かった」




リオが頷く。




「メイラは——」




「私は、少し用があります」




メイラが言う。




全員が、メイラを見る。




「……家族に、手紙だけ出したい。会いには行かない。ただ、無事を知らせたい」




「行って来て」




セリスが言う。




「でも——」




「一人で行ける?」




「……はい」




「じゃあ、行って来て」




メイラが少し迷ってから——




「……ありがとうございます」




小さく言って、歩き出す。




ライラがその背中を見て——




「……いい子ね」




「そうでしょ」




セリスが答える。




「うちの自慢」




ライラが、わずかに笑う。






市場。




セリスとガイウスが歩く。


外套を深く被って。顔を伏せて。




「……帝国の兵、いる?」




「三人。入口付近に」




ガイウスが答える。




「少ないわね」




「監視より、見せしめ用だろう。いるだけで、人が萎縮する」




露店を見ながら歩く。


食料の値段が、高い。




「徴収の影響か」




ガイウスが小声で言う。




「そうね」




「……この街は、あとどのくらい持つと思う?」




セリスが答える前に——




「半年、ないかもしれません」




後ろから、声がした。




振り返る。




老人だった。


白髪。痩せた身体。だが目が、鋭かった。




「……聞こえていたの?」




「聞こえましたよ。耳は達者なもので」




老人が、セリスをじっと見る。




「あなた方は、旅の者ですか」




「ええ」




「帝国の者ではない?」




「違います」




老人が少し考えて——




「……少し、話を聞いてもらえますか」






街外れの小さな家。お茶を出される。




「私はこの街で長年、商人をしています」




老人が言う。




「帝国が本格的に圧力をかけてきたのは、一年前から」




「具体的には?」




ガイウスが問う。




「物資の三割を帝国へ。若者の徴発。そして——」




老人が、少し声を低くする。




「最近、ヴァレン王が病に臥せっています」




「……病?」




「不思議な病で。急に倒れて、意識が戻らない」




セリスとガイウスが、目を合わせる。




「王が倒れたのは、いつ頃ですか?」




「三ヶ月前です。ちょうど、帝国の使者が来た後に」




「使者が来て、その後に王が倒れた?」




「ええ」




「……偶然ではないかもしれない」




「私もそう思っています」




「王が倒れてから、帝国の動きが一気に加速しました。まるで——待っていたかのように」




「今、政を仕切っているのは?」




「王の弟です。ただ——帝国に近い人物で」




ガイウスが地図に何かを書き留める。




「ありがとうございます。参考になりました」




老人が「あなた方は——」と言いかける。




セリスが「旅の者です」と言う。




「……そうですか」




老人が、セリスをもう一度だけ見る。




「……どうか、この街を——」




言葉が続かなかった。




「……覚えておきます」




セリスが言う。


約束はしなかった。できなかったから。


だが——その目は、まっすぐだった。


老人が、小さく頭を下げた。






合流場所に戻る。




ライラが先に来ていた。




「どうだった?」




「思ったより、まずい」




「帝国の本隊が、来月にも動く可能性がある」




「ヴァレンを正式に制圧しに?」




「そう。今は圧力だけだが——王が倒れてから、帝国の動きが変わった」




「王の病のことは知っている。老人から聞いた」




「……情報が早いわね」




「ガイウスの聞き方が上手かった」




ガイウスが何も言わない。




少し遅れてリオが戻ってくる。




「外周、見てきた。帝国兵は三人。交代のタイミングも確認した。夕方に一度、動く」




「……さすがね」




ライラが言う。




「俺にできることはそれくらいだから」




「十分よ」




セリスが言う。




「十分すぎる」




リオが「……そうかな」と言う。


少し、照れた顔だった。






メイラが戻ってくる。


少し、目が赤かった。




「……大丈夫だった?」




セリスが聞く。




「……手紙、出せました」




「よかった」




「家は——無事みたいで」




「よかった」




メイラが、小さく息を吐く。




「……帰りたい、と思いました」




「そうね」




「でも」




メイラが、セリスを見る。




「帰ったら——この街が、なくなるかもしれない」




「……そうね」




「だから——まだ、行きます」




セリスは、メイラの頭に手を置いた。




「ありがとう」




メイラが少し目を丸くする。




「……なんで、お礼を言うんですか」




「一緒にいてくれるから」




メイラが、また少し目を赤くした。




「……泣かないでよ」




「泣いてないです」




「目が赤い」




「……花粉です」




セリスが笑う。メイラも、少し笑った。






全員が揃う。




ガイウスが情報を整理する。




「帝国の本隊が来月にも動く可能性がある。ヴァレンに留まる時間はない」




「次は?」




「情報をもう一つ取りたい。帝国の本隊がどこから来るか」




「それは——」




ライラが言いかけて、止まる。




「……私のネットワークで確認できる。少し時間をくれれば」




「いつ分かる?」




「明日の朝までには」




「分かった。今夜、ここで待つ」






夜。宿を取る。




ライラが一人で出ていく。「情報収集に行く」と言って。




セリスは、その背中を見送った。




リオが「……どこへ行くんだろうな」と小声で言う。




「情報収集よ」




「それだけか?」




「……今は、それだけ」




リオが「そっか」と言う。


それ以上は聞かない。




(ノイエ、ライラのことどう思う?)




(……信頼性は、未確認のままです)




(それは最初から知ってる)




(……ただ)




(ただ?)




(彼女は、あなたを守ろうとした場面が複数あります)




(行動が、言葉より先に出る人ね)




(……そういう表現もできます)




セリスは、窓の外を見た。




夜の街。灯りが、点いている。


生活が、ある。


守りたいものが——ここにも、ある。




(……覚えていよう)




セリスは思う。




(ここも、守りたいから)




夜が、深まる。


ライラは、まだ戻らなかった。


守りたいものが、また一つ増えた。


増えるたびに——重くなる。


でも、それでいい。


重さが——前へ進む理由になるから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます!


ヴァレンの首都。重い空気。老人の言葉。


「覚えておきます」——セリスはそう言いました。


守りたいものが、また増えています。


次回も続きをぜひ見届けてください。


【ブックマーク】と【評価(☆)】をいただけると励みになります!

よろしくお願いします!


29話の部分修正も必要でしたね。準備ができたらお知らせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ