それぞれの理由
街道を歩く。
五人と一羽。
空は晴れていた。
「ヴァレンまで、あと一日半」
ライラが言う。
「このペースなら明日の夕方には着く」
「検問は?」
ガイウスが問う。
「峠を越えた先に一箇所。ただし——」
「ただし?」
「ヴァレンの衛兵が管理してる。帝国じゃない」
「……交渉できるか」
「私に伝手がある。多分」
「多分、か」
「確実なことは言わない主義なの」
ガイウスが何も言わない。
否定できないから、だった。
——
昼前。
小川のそばで休憩を取る。
メイラが水を汲む。
リオが——川面を見つめている。
「……リオ」
セリスが声をかける。
「なに」
「何を考えてるの?」
「別に」
「そう」
しばらく、川が流れる。
「……なあ、セリス」
「なに?」
「守るって——何だと思う」
セリスが、リオの隣に座る。
「急にどうしたの」
「急じゃない。ずっと考えてた」
「……そう」
「お前は守るために戦うって言ってた」
「言った」
「俺には——まだ、よく分からない」
「何が?」
リオが、川を見たまま言う。
「守りたいものは、ある気がする」
「うん」
「でも、何を守りたいのか——はっきりしない」
「それでいいと思う」
「よくないだろ」
「なんで?」
リオが、セリスを見る。
「はっきりしないまま戦ったら——判断が鈍る。迷う。誰かが死ぬ」
セリスが、少し間を置く。
「……あなたは」
「なに」
「怖いの?」
「……何が」
「守れなかった時のことが」
リオが——黙る。
川が、流れる。
「……怖い、のかもしれない」
小さく言う。
「だから——はっきりさせたい」
「守りたいものを?」
「ああ」
セリスが川を見る。
「私もね、最初ははっきりしなかった」
「今は?」
「今は——少し、分かる気がする」
「何が守りたいの」
セリスが、少し考えてから——
「泣かずに済む人が、増えること」
リオが、その言葉を黙って聞いた。
しばらくして——
「……それ、でかすぎないか」
「でかい」
「なのに、やるのか」
「やるしかないから」
リオが「……お前らしいな」と言う。
「そうかしら」
「そうだ」
リオが立ち上がる。
「……俺も、考えてみる」
「うん」
「答えが出たら、教える」
「楽しみにしてる」
リオが「教えるとは言ってない」と言う。
「言ったわよ」
「……考える、とは言った」
「同じじゃない」
「違う」
——
「出発するぞ」
ガイウスが言う。
全員が立ち上がる。
歩きながら。
メイラがセリスの隣に並ぶ。
「……セリスさん」
「なに?」
「さっき、リオくんと何を話してたんですか」
「守ることについて」
メイラが、少し目を伏せる。
「……そうですか」
「メイラ」
「はい」
「あなたは、大丈夫?」
メイラが、少し考えてから——
「……大丈夫ではないですけど」
「うん」
「でも、歩けます」
「それで十分よ」
メイラが、小さく笑う。
「……セリスさんは?」
「私も」
「大丈夫ではない?」
「歩ける」
二人で、少し笑った。
——
午後。
ガイウスがセリスの隣に来る。
珍しかった。
「……ヴォルフに聞いた」
唐突に言う。
「何を?」
「魔界について」
セリスが、少し目を細める。
「……なんで?」
「気になったから」
「何が?」
ガイウスが、前を向いたまま言う。
「封印を解く方法が、魔界にあると聞いた」
セリスは、足を止めない。
「……そう」
「詳しくは教えてもらえなかった」
「そうね。まだ早いから」
「……まだ早い、とは」
「今は必要ない、ってこと」
ガイウスが、少し間を置く。
「……必要になる時が来るのか」
「来るかもしれない」
「来るかもしれない、ではなく」
セリスが、ガイウスをちらりと見る。
「……しつこいわね」
「俺は確認したいだけだ」
セリスは少し考えてから——
「来る、と思ってる」
「……なぜ」
「ノイエを使い続ければ、いずれ必要になる」
ガイウスは、何も言わなかった。
「……それだけか」
「それだけよ」
また、沈黙。
ガイウスが「分かった」と言って、前に戻る。
セリスは、その背中を見た。
(……気づいてる?)
心の中で問う。
答えは、出なかった。
——
夕暮れ。
野営の準備をしながら。
ヴォルフが、セリスの隣に降りてくる。
「……ガイウスが聞いてきた」
小声で言う。
「知ってる」
「何も言っていない」
「ありがとう」
「……いつまで黙っているつもりだ」
セリスが、焚き火の準備をしながら言う。
「方法が使えるようになるまで」
「……それまで、使い続けるのか」
「ええ」
「……お前は」
ヴォルフが、何か言いかけて——止まる。
「なに?」
「……父上に、似てきた」
セリスの手が、止まる。
「……そう?」
「ああ」
「……それは」
セリスが、小さく笑う。
「嬉しいわ」
ヴォルフは、何も言わなかった。
ただ——どこか、遠くを見ていた。
——
夜。
焚き火を囲む五人。
「明日、峠を越える」
ガイウスが言う。
「ライラの伝手で検問を抜ける」
「任せて」
ライラが言う。
「多分、大丈夫」
「多分、ね」
リオが「多分って何だよ」と言う。
ライラが「確実なことは言わない主義」と返す。
「さっきも聞いた」
「覚えてるならいい」
リオが「……分かったよ」とぼやく。
五人の声が、夜に溶けた。
焚き火が、静かに燃えていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ヴァレン王国へ向かうメンバーに待ち受けるのは・・・展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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