道中
街道は、広かった。
森の圧迫感が消えて、空が開ける。
遠くに山が見える。
その手前に、小さな町の輪郭。
「あそこで補給できる」
ライラが言う。
「帝国の駐屯はあるが、少数だ。昨日時点の情報だけど」
「昨日と今日で変わることは?」
ガイウスが問う。
「ある。ただし急に増援が来るほどの町でもない」
「……根拠は」
「この町は帝国にとって、戦略的価値が低い。交易路の通過点に過ぎない」
ガイウスが少し考えて、頷く。
「合理的な判断だ」
「当然」
ライラが淡々と返す。
リオが隣を歩きながら、ライラに言う。
「……あんた、どこで情報収集を覚えたんだ」
「必要に迫られて」
「誰かに教わった?」
「昔、世話になった人がいた」
昨夜と同じ言葉。
「その人に?」
「……似たようなことを、ね」
少しだけ、間があった。
リオはそれ以上聞かなかった。
聞いていいかどうか、分からなかったから。
メイラが前を歩くセリスに小声で言う。
「ライラさん、リオくんと話してますね」
「そうね」
「意外です。もっと人を寄せ付けない人かと思ってた」
「……私も、少し思ってた」
セリスが答える。
「でも、ああいう人って——話しかけやすい相手には話すのよね」
「リオくんが話しかけやすいんですか」
「……深く考えないから、かな」
メイラが小さく笑う。
「それ、リオくんに言ったら怒りますよ」
「言わないわよ」
昼前に、町に着いた。
帝国の兵士が二人、入口に立っている。
全員が自然に動きを合わせる。
帽子を深く被る。
剣を外套で隠す。
顔を伏せる。
——通り過ぎる。
声をかけられなかった。
「……息が合ってきた」
ライラが小声で言う。
「練習した?」
「してない」
リオが答える。
「なんとなく、分かるようになってきた」
ライラが「そう」と言う。
その口調が、少しだけ柔らかかった。
補給を済ませる。
食料。水。包帯。
メイラが薬草を選んでいる。
リオが干し肉の値段を交渉している。
ガイウスが地図を広げて次の経路を確認している。
セリスは、その様子を見渡した。
(……チームになってきた)
じわりと、そう思う。
「セリス」
ライラが隣に来る。
「少し、いい?」
「うん」
二人で、少し離れた場所に移動する。
「次の目的地、ヴァレン王国でいいのね」
「そのつもり。情報が欲しいし、安全な拠点も必要だから」
「ヴァレンには、私にも伝手がある」
「……本当に?」
「使えるかどうかは、着いてみないと分からないけど」
ライラが街の方を見る。
「帝国がヴァレンに圧力をかけ始めてる。最近の話」
「どの程度?」
「まだ軍事行動には出ていない。ただ——」
少し、間があく。
「物資の徴収が増えている。人も、少し」
セリスの胸が、重くなる。
「……また、徴発」
「帝国のやり方はどこでも同じよ」
ライラが淡々と言う。
感情がない、というわけではない。
慣れているから、淡々と言える。
そういう声だった。
「ライラ」
セリスが呼ぶ。
「なに」
「……なんで、ここまで教えてくれるの」
ライラが少し、目を細める。
「取引、って言ったでしょ」
「それだけ?」
間。
「……今は、それだけ」
また、その言葉。
「今は、ってよく言うのね」
「そう?」
「三回目よ」
ライラが、わずかに目を丸くする。
「……数えてたの」
「気になったから」
セリスがまっすぐ見る。
「あなたには、まだ言えないことがある。そうでしょう」
沈黙。
長くはなかった。
「……賢い子ね」
ライラが小さく笑う。
本物の笑いだった。
「いつか、話す。それでいい?」
セリスは少し考えて——
「いつか、聞く。それでいい?」
ライラが、少しだけ目を細める。
「……ええ」
短く、確かに言った。
二人が戻ってくる。
リオが干し肉を袋に詰めながら「何話してたんだ」と聞く。
「次の目的地の話」
「そっか」
それ以上は聞かない。
ガイウスが地図を畳む。
「出発する。ヴァレンまで二日。今日中に峠を越えたい」
「了解」
「分かった」
「はい」
「……ええ」
五人が、歩き出す。
セリスは少しだけ、ライラを見た。
(いつか、話す)
その言葉が、まだ耳に残っていた。
(……待てる)
理由は、分からない。
だが、そう思った。
街道が、続いている。
山が、少しずつ近づいてくる。
旅は——まだ、続く。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回は**【本日8時】**に更新予定です。
メンバーそれぞれの旅の目的を確認し合うという展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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