境界の森
ガイウスたちは、少し後方で待機している。
森は、静かすぎた。
風の音すら、どこか遠い。
「……妙ね」
セリスは足を止めた。
鳥の気配がない。獣の気配もない。
まるで——この一帯だけ、世界から切り離されたような静寂。
腰の剣が、微かに震える。
『環境異常を検知』
「やっぱり……」
小さく呟く。
セリスは、ゆっくりと周囲を見渡した。
ここは帝国領との境界付近。森は深く、視界も悪い。
だが——だからこそ、動きやすい。
「本隊との距離は?」
『約二・一キロメートル』
即答。
『現在の地形および敵配置を考慮した場合、支援到達には最短でも七分を要します』
「……十分ね」
セリスは息を整えた。
——先行偵察。
少人数の方が動きやすい。
そう判断したのは、自分だ。
ガイウスは渋ったが、最終的には許可した。
「無茶はするなよ」
そう言って。
(……してるわね、これ)
内心で苦笑する。
だが。
止まる理由にはならない。
『生体反応を検知』
空気が、張り詰める。
『半径百八十メートル以内に三。こちらへ接近中です』
「……やっぱり来たわね」
『帝国兵と推定されます』
セリスは、ゆっくりと剣の柄に手をかけた。
鼓動が、少しだけ速くなる。
傷は、まだ完全ではない。
それでも——戦える。
「回避は?」
『非推奨です』
間髪入れずに返る。
『現在位置から最短経路を維持した場合、接触確率は四十二%。
しかし回避行動を取った場合、敵との遭遇確率は六十八%まで上昇します』
「……つまり」
『迎撃、あるいは強行突破が最適解です』
淡々とした声。
そこに躊躇はない。
セリスは一瞬だけ目を閉じる。
森の匂い。
湿った土の感触。
そして——
遠くで、枝が踏み折られる音。
——時間はない。
目を開く。
迷いは、消えていた。
「……迎え撃つ」
『了解しました』
ほんのわずかも間を置かない返答。
『戦闘補助を開始します』
その瞬間。
気配が、はっきりとした。
一人。
また一人。
木々の影から、姿が現れる。
帝国兵。
無言で、距離を詰めてくる。
逃げ場は、ない。
「……来なさい」
セリスは剣を抜いた。
黒い刃が、光を吸い込む。
その静かな輝きが、森の闇に溶ける。
『敵三。装備より軽装兵と推定。
個体戦闘能力は平均値を上回ります』
「上等よ」
セリスは、足を一歩踏み出す。
恐怖は、ある。
だが——それ以上に。
引く理由が、ない。
『推奨戦術を提示します』
「後で聞くわ」
短く言い切る。
そして——
地を蹴った。
風が裂ける。
一瞬で間合いに入る。
帝国兵の目が、わずかに見開かれる。
——遅い。
刃が、振り抜かれる。
戦いが、始まった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回は**【本日22時】**に更新予定です。
ノイエの合理性が……という展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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