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短編小説

前世の記憶

作者: 歌池 聡
掲載日:2026/03/14


※しいなここみ様主催『無謀! 瞬発力企画2』に参加しています。

ラスト、7つ目のお題は『愛のお化け』『ねぎ塩焼きうどん』と『漆黒の翼を喪失せし者』。



 最近、ウチのバンドは登り調子だ。

 念願のメジャーデビューを果たしてから5年。これと言ってバズることもなく、あまりパッとしない時期が続いていたんだが、ようやくブレイクするチャンスが巡ってきたのだ。


「あ、じゃあ、あのアニメ主題歌の話、決まりそうなんだ!」


 夕食のねぎ塩焼きうどんをテーブルに置きながら、妻の香澄が聞いてくる。


「ああ。原作者がインディーズ時代からのウチの大ファンだったらしくてさ。

 第二期の主題歌は絶対にあのバンドで、と猛プッシュしてくれたらしい」

「凄いね。あのアニメは社会現象にまでなってたし、拓ちゃんのバンドもこれで一気にのし上がれるんじゃない?」

「だといいな」


 香澄にはインディーズ時代からだいぶ苦労をかけてきた。ひとり息子の大介のこともしっかり育ててくれているし、これからはもっといい生活をさせてあげたいものだ。


「じゃあ、いいタイミングかな。実は私、拓ちゃんに報告したいことがあるんだけど」


 香澄がテーブルの向かいに座って、満面の笑みを浮かべて切り出してくる。

 うーん、何だろう。こういう言い方をする時は、思いっきりいい話か、逆に思いっきり厳しい話かのどちらかなのだ。

 まさか、アレがバレて? ──いや、そんなことはないはずだ。慎重に慎重を重ねて、尾行にも十分警戒していたのだ。


「実はね。私、前世の記憶をすべて思い出したの」

「──はあ?」

「私の前世はね────北条(ほうじょう)政子(まさこ)だったみたい」

「何だとぉぉぉっ!?」






 北条政子。言わずと知れた、あの鎌倉幕府を開いた(みなもとの)頼朝(よりとも)の妻だ。俺も大河ドラマで見たくらいの知識しかないけど。


 ──源氏は平家との戦に惨敗し、源氏の頭領の嫡男・頼朝は伊豆に流罪となった。その監視役だった北条氏の娘が政子だ。

 政子はいつしか頼朝と恋仲になったものの、平家方である父親は猛反対して、政子を他の者に嫁がせようとした。それでも政子は屋敷を抜け出して頼朝の元に走り、駆け落ち同然で夫婦となったのだ。


 ──と、ここまで聞くと、政子は『意志が強く、ひたむきな愛を貫いた女性』のように思えなくもないんだけど。


 政子の頼朝への執着は異常だった。

 昔は、名のある家の男は正妻以外にも側室や妾を持ち、子を多く作るのが当たり前だった。別にスケベだからとかいうことじゃなく、子どもが無事に育つ確率が低かったので、そうでもしないと家系が絶えてしまうからだ。いわば『義務』だったのだ。

 でも、政子は頼朝が側室を持つことを絶対に許さなかった。こっそり妾を作ったりもしたけど、その存在を知った政子は家臣に命じてその屋敷を叩き壊させたんだとか。

 あと、他の女性との間にこっそり子どもも作ったけど、その女性は追放され、子はすぐに出家させられたそうだ。


 つまり、北条政子とは異常なまでに嫉妬深くて愛が重い、いわば『愛のお化け』だったのだ。


 ──まあ、だからこそ頼朝の血筋の将軍は3代しか続かなかったわけだけど。






「ほら、これから音楽の世界で天下を獲ろうっていう拓ちゃんを支えるには、『尼将軍』とまで言われた北条政子の記憶って、頼りになると思わない?」

「あ、ああ、そうだな」

「でね、そんな妻からのアドバイスなんだけど──」


 そこで香澄は一呼吸おいて、にっこり笑ってこんな恐ろしいことを言ってきたのだ。


「拓ちゃんもこれからもっと有名人になるんだし、そろそろ身辺は綺麗にしておいた方がいいんじゃない?」

「は? 何のことだ? まったく心当たりないぞ」


 ──落ち着け、俺! バレているはずがない、これはカマをかけてきているだけだぞ。少しでも動揺した素振りを見せたら終わりだ!


「ほら、昔からの追っかけのミーナとか、マネージャーの綾さんとか──。

 こんな大事な時期に『文秋砲』とかくらっちゃったら、マズくない?」


 ぜ、全部バレてたぁぁぁっ!


「ちゃあんと関係を清算しておかないと──私の中の嫉妬深い『政子』ちゃんが何をするか、わかったもんじゃないわよ?」


 満面の笑みが恐ろしいっ!

 くぅっ──かくなる上は!


「ふ、ふふ──そうか、そろそろ我の前世の秘密についても明かす時が来たようだな……」

「え、何のこと?」

「我の前世は『魔王』! こことは異なる世界で『漆黒の翼を持つ超越者』として、全ての魔族を率いる王であったのだッ!」

「えええええっ!?」

「ニンゲンによって魔力を封印され、『漆黒の翼を喪失せし者』とはなってしまったが、今はこの世界で力を取り戻すべく、音楽活動を使って人々の生命エネルギーを集めていたのだ!」

「何ですってぇぇ!」

「うぬは浮気を疑っているようだが──断じて否ッ! 我は失われた魔力と翼を取り戻すため、我に絶対の忠誠を誓う眷属(けんぞく)を増やさねばならぬ。決して下劣な下心があってのことではないのだッ!」


 だが、俺がそう宣言した時──かすかに開いた寝室のふすまの隙間から、小さく深ーいため息が聞こえてきたのだった。


「はぁぁ……。両親がそろって『中二病』とか、カンベンしてほしいよなー……」



企画の趣旨を簡単に説明しますと──。

朝8時に出されたお題を使って24時間以内に作品を書き、瞬発力を鍛えよう!というというものです。


下に企画のリンクを貼りますので、よろしければ他の方の作品もお楽しみください。




『愛のお化け』というお題から、そう言われるほど愛が重い人って誰がいるかと考えて、真っ先に思いついたのが『北条政子』。

でも、あと2つのお題を入れ込んで歴史ものはさすがに書けそうになかったので、こういう形になりました(^^;


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