崩落の音
最近本を読むようになり、興に乗ったので初めて小説を書いてみました。
日記同然のとりとめもない内容ですが、何か感じていただければ幸いです。
一月。青い夕暮れにカラスの鳴き声がこだましている。
世間一般の家族、カップル、友人付き合いの面々は、こぞってレジャー施設や繁華街、映画館、レストランといった行楽地へと赴き、手と手を繋いで言葉を交わし、さぞ有意義なひと時を過ごしているであろこの週末、私は一人、自宅に籠っていた。
といっても、特別な理由あってのことではない。元来、私とはそうなのだ。
幼少期からの生粋のゲーマーで、家族の文句も、友人たちの冷笑も、世間の喧騒も、全てに背を向けて、ポリゴンで構築された世界の中に身を置いてきた。それ以外の趣味といえば絵を描くことや映画やアニメを観ること。筋金入りの出不精なのである。それで十分事足りていた。幸せなはずだった。
しかし、そんな輝ける黄金比は、時が経つほどに綻びを大きくし、今となっては脆くも崩れ去ろうとしている。いや、とうに崩れ去ってしまった痕に、かつての輝きを未だ見出そうとして、一心に目を凝らしている、そんな状態なのかもしれない。
テクノロジーの進化に歩みを並べて、テレビゲームもまた表現力を着実に押し上げ、毎年のように私たちゲーマーの胸を高鳴らせてきた。季節ごとのイベントでトレーラーがお披露目されては、アートスタイルを新たにした往年の名作の帰還に涙したり、謎の新作が発表されれば、物語やシステムについてあらゆる妄想を搔き立てた。
必死に貯めた小遣いと予約券を握り締め、発売日には早起きして近所の小売店へ駆け込んだ。中古を買う時と変わらない包装紙のパリパリとした感触が、その時ばかりは不思議なぐらい新鮮だった。
ネットインフラが整えば、事前購入と事前ダウンロードを済ませ、バイトのシフトを空け、プレイが解禁される深夜〇時までじっと待機した。社会人になってからは、このためにと言わんばかりに有休をねじ込んで、ネットに溢れる同志たちの声に耳と心を傾けながら、プレイ開始を待ち構えた。
ついに発売日を迎えると、時には手を震わせながら「ニューゲーム」の綴りにカーソルを合わせた。
期待外れの作品も少なくなかったが、数年に一度はこれ以上にないほどの名作にノックダウンを食らい、文字通り寝食を忘れて没頭した。横目に見た夕暮れに、気づけば朝日が昇っていた。
こんな瞬間がいつまでも続けばいい。ずっとあればいい。自分がこれに「ノー」を言う日は来ない。
そう信じていた。
青い夕暮れも、カラスの鳴き声も、もうすっかり暗闇に吸い込まれて消えていた。
この部屋には私一人。パソコンの空調と、キーボードの打鍵音だけが静かに響いている。
腹が空いてきたから、夕飯でも買ってこよう。スーパーの総菜の方が安くつくけれど、歩くのも面倒だからきっと近所のコンビニで済ますのだ。帰ってきたらどうしようか。ウィッシュリストの中から何か映画を選ぼうか。いや、やっぱりユーチューブで誰かのおしゃべりでも聞いて過ごすのだろう。
この心の渇きを紛らわすには、今はこれぐらいでちょうどいい。そして一言つぶやいて、私は席を立った。
「明日は早いし、今日は早く寝なきゃな」




