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霖雨蒼生(りんうそうせい)の姫君にはなれない。  作者: 小花衣いろは


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第十九話 異なる重さ



「シルヴァさんは、お若いのにすごいですね」

「そうか? まぁ俺は、この国の民が幸せに過ごせるように、大平な世を作るのが夢だからな。そのためなら、どんな苦難も乗り越えてみせるさ」


 そう語るシルヴァの横顔が、離れてからまだ数日ほどしか経っていない与人の顔と、重なって見えた。


「シルヴァさんは……私の知り合いの方に、少し似ています」

「俺が雫音の知り合いに? それはどんな奴なんだ?」

「あ、えっと……私がつい最近までお世話になっていた、緑之国の領主の方、なんですけど」

「緑之国か。確かあそこの領主も、まだ若かったはずだ。俺は長になってから日が浅いから、相見えたことはないがな」

「はい。まだお若いのに、国の人たちのことをとても大切に思っていて……そういう優しいところが似ているなって、そう思ったんです」


 雫音の言葉に瞠目したシルヴァだったが、すぐに眦を下げて、嬉しそうに笑った。


「……そうか。緑之国の長とも、いつか会って話してみたいな」


 シルヴァと与人。

 己が国を、民を愛する心を持つ二人は、きっと仲良くなれるだろうと、そう思う。

 しかし戦乱の時代が、この環境下が、それを簡単には許してくれない。それが雫音には、少し、悲しいことのように思えた。


「雫音は、風之国にいた時から、あんな対応をとられていたのか?」

「え?」

「今朝方、忍びの一人に冷たく当たられていただろう?」


 シルヴァは今朝方のことを思い出しているのか、不機嫌そうに眉根を寄せている。どうやら、八雲の雫音に対する態度を気にしているようだ。


「いえ、あれは……私が悪いんです。私が無知で、役立たずで……皆さんに、迷惑をかけてばかりいるので」


 雫音が本音を吐露すれば、シルヴァは怒りと悲しみを綯い交ぜたような顔をして、その言葉をきっぱりと否定する。


「それは違う。雫音は役立たずなんかではないぞ。こうして、この地に雨を降らせてくれた。この国の民たちを救ってくれた。大勢の役に立っているだろう? 雫音は雨女神様としての責務を全うしてくれている」


 シルヴァは、真っ直ぐな目で雫音を見つめる。それらの言葉全てが、雫音を元気づけるためだけに紡がれたものだということは、理解していた。

 けれど雫音は、何故かその言葉を素直に受け取ることができなかった。


 “雨女神様”


 そう呼ばれて、感謝されて。誰かの役に立てることは、嬉しいはずなのに。

 ――日を増すごとに、何故だか心が、ずしりと重たくなる。


 自分と雨女神様を、どうしても結び付けられない。受け入れることができない自分がいた。

 これまでの人生、不遇な環境下で息を潜めて生きてきた雫音にとって、あまりにも大きすぎる感謝の念は、却って雫音の心を押しつぶす。

 自分は、神様などではない。清らかに澄んだ目を向けてもらえるような、崇高な存在ではないのだと。


 しかしそんな些末な事情を、この世界の者たちが知るはずもなかった。


「……はい。ありがとうございます」


 だから雫音は、固くなっている表情筋を駆使して、下手くそな笑みを浮かべる。そして、受け入れた振りをする。そうすることしか、できなかった。



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