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霖雨蒼生(りんうそうせい)の姫君にはなれない。  作者: 小花衣いろは


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第十五話 足手まとい



 強く降り続いていた雨は勢いを弱め、小雨になった。時折雲間から覗く太陽が木々を照らし、雨に濡れた緑が色濃く光っている。


 そんな、深い深い緑に囲まれた山の中。雫音は千蔭の馬に共に乗せてもらいながら、裾野に広がる岩場をぼんやりと眺めていた。

 湿気を帯びた(こけ)が岩肌を埋め尽くしている。けれどそれは、青みがかった緑色や薄紫色、菜の花色をしたものもあったので、雫音の知る“苔”とは少し違うのかもしれない。


「この先は道幅も狭いし傾斜があるから、馬から下りて歩いていこう」


 千蔭の言葉で、各々馬を下りて急な斜面を登っていく。

 雨が降っていた影響で、地面はぬかるんでいる。足場はかなり悪い。ただでさえ険しい山道を歩いた経験などない雫音は、三十分ほど歩いたところで、すでに限界を迎えそうになっていた。


「……おい。もっと早く歩けないのか」

「す、すみません」

「お前の歩みに合わせていたら、いつ緑之国に辿り着けるのか分からないな」


 雫音の後ろを歩いていた八雲は、小馬鹿にしたように鼻を鳴らしながら嫌味をぶつける。

 雫音は背中に突き刺さる視線に委縮しながら、重たい脚を懸命に前へと踏み出した。しかし足を滑らせて、体勢を崩してしまう。

 転ぶ、と思い反射で目をつぶったが、誰かに腕を掴まれて難を逃れた。


「大丈夫?」

「っ、はい。ありがとうございます、天寧くん」

「滑りやすいから、気をつけて」


 腕を掴んでくれたのは、雫音の前を歩いていた天寧だった。先頭を歩いていた千蔭も足を止めて、雫音の様子を窺っている。


(どうしよう。私のせいで、皆さんに迷惑がかかっちゃう)


 三人からの視線を一身に受けた雫音は、ますます体を縮こませながら謝った。


「すみません、ご迷惑をお掛けして……あの、大体の道を教えてもらえれば大丈夫なので、皆さんで先に行ってもらっても大丈夫です」


 正直、土地勘も分からない慣れない山道を独りきりで歩くなど、不安しかない。心細くて堪らない。けれど、非難の目で見られる方がもっと嫌だ。せっかく自分を必要としてくれているのに、迷惑を掛けたくない。……これ以上、嫌われたくない。


 雫音は口角を無理に持ち上げて、下手くそな笑みを作る。そして、一行(いっこう)の先陣を務める千蔭の了承を得るべく視線を向けた。


「千蔭さん、それでもいいです…「お馬鹿」


 その声を遮った千蔭は、一瞬で雫音の前に移動してきたかと思えば、額を指で突いた。所謂、デコピンだ。そして、何が起きたのか理解できずに目を白黒させている雫音を、呆れたまなざしで見下ろす。


「俺たちは、与人様に頼まれてるんだよ。アンタを守るようにって。それなのに、守るべき対象のアンタを一人で置いて行くわけないよね? そんなことしたら、俺らの首が飛ぶよ」

「えっと、でも……」

「それにアンタが俺らの速度についてこれるだなんて、初めから思ってないから」


 沈んだ表情をしている雫音に、千蔭は淡々と事実を告げる。慰めなどではなく、忍びとしての鍛錬を続けてきた千蔭たちと、平和な世界でぬくぬくと育ってきた雫音の身体能力に歴然とした差があることなど、当然のことなのだ。

 千蔭は雫音が生きていた世界のことなど知らないが、それでも雫音の普段の様子を見ていれば、雫音の体力がそこらの平民以下なのだろうということには薄々気づいていた。


「ですが、この女のせいで到着が遅れるのは事実です」

「でも、この子が居る土地に雨が降るわけでしょ。俺たちの速度で進んで、その土地に雨が降らなかったら意味がないからね」

「……頭がそう仰るなら」


 八雲は渋々納得した表情を見せるが、雫音を見つめるまなざしは、依然として冷たいままだ。雫音はじくじくと痛む胸の辺りを手で抑えながら「……すみません」と、蚊の鳴くような声で謝罪した。



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