ep.9『A Hard Day's Night』
野田の「キラキラ☆パラダイス」が終わり、会場には微妙な笑いと軽い拍手が漂う中、礼堂の視線が一人の男に釘付けになる。
その男は、全身黒いスーツに身を包み、視線を鋭く巡らせながら会場内を見渡していた。明らかに場違いな雰囲気だ。
礼堂(心の声):「なんだこの男……ジャンク・バスターズのファンって感じじゃないぞ。」
礼堂は、近くにいる冬月にこっそり耳打ちする。
礼堂:「おい、冬月……あのスーツの男、なんか怪しくないか?」
冬月:「ん?どこ?」
礼堂が目で合図を送り、スーツの男を示す。冬月もその方向を見ると、眉間に軽くシワを寄せる。
冬月:「あー、確かに……この雰囲気、どう見てもただのファンじゃないな。」
礼堂:「だろ?ファンなら普通、もっと和やかに他の人と話したりしてるだろ。あいつ、一人でずっとキョロキョロしてる。」
冬月(心の声):「このオフ会に何か目的があって来てるのか……それとも単なる不審者か。」
礼堂:「なぁ、ちょっとあいつの様子見てみないか?」
冬月:「バカ言うな。目立つ行動はするなっていつも言ってんだろ。まずは観察だ。」
礼堂:「観察って……この会場、狭いんだからバレるだろ。」
冬月:「だからこそ、自然に動けってことだ。」
冬月はそう言うと、さりげなくドリンクを取りに行くフリをして、スーツの男の近くに移動した。
冬月(心の声):「さて、あいつ……何者だ?」
スーツの男は気づいた様子もなく、視線を動かし続けている。しかし、その目は野田がいる方向に時折向けられていることに気づく。
冬月(心の声):「……野田さんを見てる?目的はなんだ?」
一方、礼堂も不自然に動かないよう気を配りつつ、男を横目でちらちらと観察していた。
礼堂(心の声):「あいつ……手に何か持ってる。メモ帳?いや、違う……スマホか。」
男がポケットからスマートフォンを取り出し、何かを入力している。画面をちらりと覗き込もうとする冬月だったが、男はすぐにスマホをポケットにしまった。
冬月:「どうも、ただのファンじゃなさそうだな。しかも、野田さんに興味があるようだ。」
礼堂:「野田さんがターゲット……ってことか?」
冬月:「かもしれん。ただ、あまり急に接触しない方がいいな。」
礼堂(心の声):「何者だ……?このオフ会に忍び込む理由なんてあるのか?」
その時、突然、野田がまた会場の中央に立ち上がった。
野田:「よっしゃー!次はみんなで一緒に歌うターンだ!『Junkie Boys Go』の大合唱行くぞー!」
スーツの男がその声に反応し、一瞬だけ口元をゆるめたのを、礼堂は見逃さなかった。
礼堂(心の声):「……あいつ、野田のファンか?」
二人の緊張が増していく中、会場は再び野田の音楽に包まれていく。
再びスーツの男が周りを見渡し、立ち上がりゆっくりと店を出ようとする姿を見て、礼堂はすかさず動いた。
礼堂:「あの、失礼ですが……何かお探しですか?」
スーツの男は足を止め、ニコリと笑みを浮かべた。
スーツの男:「いや、特に。そろそろ会社に戻らなきゃいけないんです。」
礼堂:「そうだったんですね。お忙しい中、本日は来ていただきありがとうございます。」
スーツの男:「いえいえ、楽しかったですよ。懐かしい話も聞けましたし。」
礼堂:「お時間がない中わざわざありがとうございます。駅までお送りしましょうか?」
スーツの男:「お気遣いなく。会社、近いので大丈夫です。それでは失礼します。」
スーツの男は軽く会釈し、店を後にした。
礼堂(心の声):「……会社近いって?この辺りにそんなオフィスあったか?」
疑念が晴れない礼堂は、冬月にさりげなく目配せをする。
礼堂:「冬月、お前は店の後片付けやっとけ。俺はちょっと用事がある。」
冬月:「……は?お前、人任せにすんじゃねえよ。」
礼堂:「後でちゃんと奢るから!頼む!」
冬月:「……はいはい、分かったよ。」
礼堂は店を出て、スーツの男を尾行し始めた。
礼堂は少し距離を取りながら、スーツの男を追いかけた。男は特に挙動不審な様子もなく、ただ歩いているだけだった。
しかし、途中で男がスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかけるのを見て、礼堂は足を止め、物陰に隠れる。
スーツの男:「……あぁ、普通のオフ会だったよ。野田さんのギターも聴けたし、よかったよ。」
礼堂(心の声):「……野田さんのギター?ただのファンなのか?」
スーツの男は電話を切り、そのまま歩き続けた。少しして、一つのオフィスビルの中に入っていく。
礼堂:「ここが会社か……?」
オフィスの看板には「リバサイド株式会社」と書かれている。
礼堂:「リバサイド……何の会社だ?」
スーツの男がビルの中に入ったのを確認した礼堂は、そこで尾行を中断し、夜魔に戻ることにした。
礼堂はスーツの男を尾行し終えた後、急いで店に戻った。店内はまだオフ会の熱気に包まれており、ファンたちが和気あいあいと盛り上がっている最中だった。
礼堂:「おう、オフ会、まだ盛り上がってるな。」
冬月:「遅ぇよ!まぁ、俺の計画通りだしな!みんな楽しそうで良かったじゃん。」
礼堂:「いや、それはそうなんだけどさ、ちょっと気になることがあったんだよな。」
冬月:「なんだよ、またなんか疑ってんのか?」
礼堂:「さっき、スーツの男を尾行してたんだよ。リバサイド株式会社って会社に入っていった。」
冬月:「リバサイド株式会社?」
礼堂:「うん、広告代理店っぽい感じだったけど、あの男がなんでオフ会に来ていたのか、ちょっと引っかかるんだ。」
冬月:「ふーん、気になるってことは、もしかしたら何か絡んでんのかもな。でも、今はオフ会だろ?それより、ちゃんと楽しもうぜ。」
礼堂:「あぁ、もちろんだ。でも、後でちょっと調べてみる必要がありそうだな。」
その後もオフ会は続き、参加者たちは盛り上がりながら次々と席を立っていった。礼堂と冬月もその後、帰宅した。
ーーー翌日、運転中の礼堂。
礼堂は運転しながら冬月からの電話を受け取る。
礼堂:「ん?冬月か。どうした?」
冬月:「礼堂、ちょっと確認しておきたことがあるんだ。」
礼堂:「今運転中だぞ。後でかけ直すか?」
冬月:「いや、すぐに話せるからさ。リバサイド株式会社調べたんだけど、あのスーツの男、そこの社長だよ。」
礼堂:「社長?あの男が?」
冬月:「そう。名前は川端健太郎って言うんだ。経歴も順風満帆で、普通の社長って感じ。」
礼堂:「ああ、なるほど。それだけなら、普通にファンだったってだけで…。」
冬月:「うん、そうなんだ。で、さらに調べたら、ジャンク・バスターズのファンだっていう情報も出てきたんだ。」
礼堂:「ファンね…。なんだ、ただのファンか…。」
冬月:「そう、ただのファンかもな。」
礼堂:「うーん…、まあ、ファンがオフ会に来るのは普通だし、、、、、」
冬月:「だろ?結局、オフ会も特に不自然なことはなかった。」
礼堂:「うん。でも、なんだかちょっと気になることがあるんだよな。後で夜魔に集まろう。今夜、情報整理しよう。」
冬月:「了解。じゃあ、今夜集まるか。」
礼堂:「ああ、そうしよう。」
冬月:「じゃあ、後でな。」
電話を切った後、礼堂は運転を続けながら、ふとした不安が胸に残るのを感じていた。
キャラクター紹介
川端健太郎
職業: リバサイド株式会社 代表取締役社長
•年齢: 43歳