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ep.61『Billie Jean』

礼堂:「おい冬月。あの人か?」

礼堂が小声で指を差す。

街灯の向こう、ロングコートにサングラス。

そして美のオーラを醸し出した女性が静かに歩いていた。


冬月:「距離が遠くて分からないな。サングラスしてるし。」


礼堂:「とりあえず末吉さん。俺たちはあの隙間に隠れてるんで、適当にこっち向かってきてください!」


末吉:「分かった。なんとかやってみるよ。」


礼堂と冬月は陰に身を隠し息を潜めた。

その間に末吉は、さりげなく女性と反対側の歩道へと渡る。


礼堂:「なるほど……。さすが末吉さん。

敢えて反対の歩道に行くことで距離を取りつつ、逃げながらこっちへ向かう算段だな……。」


冬月:「あの変装のクオリティであれば確実に気づくはず。

あとは末吉さんが上手くやってくれる。さすがは器用なモテ男だぜ。」


段々と近づく末吉と女性。

一歩ごとに距離が縮まるたび、礼堂と冬月の胸の鼓動が速まっていく。


礼堂:「……そろそろだぞ。」

冬月:「あぁ。」


そしてついに、末吉と女性が道路を挟み同じラインに並んだ。

その瞬間、末吉が立ち止まり女性の横顔を見つめる。


だが女性は――まるで何も気づかないように歩き続けた。


礼堂:「え……?」

冬月:「気づかなかった?」


わずかな沈黙。末吉が口角を上げ、低くつぶやく。


末吉:「ふっ。なるほどね。」


そのまま彼は――なぜか後ろに滑るように歩き始めた。


冬月:「え?末吉さん……また歩き出してる?」

礼堂:「いや……でもなんか変だぞ? こっちに戻ってきてないか?」

冬月:「確かにそう見えるな。あれ? おかしいな。重力無視してないか?」


礼堂と冬月が顔を見合わせ、同時に叫ぶ。


礼堂 & 冬月:「ムーンウォーク!!!」


末吉は片手を軽く上げ、指をパチンと鳴らしクールな表情で一言。


末吉:「ふふっ。時を戻すよ。」


礼堂:「末吉さん!なんでムーンウォークできんだよ!いらねーよそんな器用さ!!」

冬月:「しかもちょっと速ぇし、なんか動き気持ち悪い!」


また女性の視界に入る位置まで、末吉は得意のムーンウォークで滑るように戻ってきた。

靴底がアスファルトを擦る音がやけに軽やかに響く。


末吉:「時を戻したよ。」


末吉は再び女性の視野内に入り、片足を後ろに引いて軽くポーズを決める。

その顔にはなぜか“任務を遂行する男”のような真剣さが宿っていた。


末吉:「ちょっと本気出しちゃったかな。」


ーーーだが。女性は歩みを止めるどころか、まるで何事もなかったかのように通り過ぎた。


礼堂:「おいおい。。ガンスルーじゃねぇかよ!」

冬月:「なんだよあのポーズ!これ以上末吉さんのダサい姿見たないわ!」


女性が通り過ぎては、末吉がムーンウォークで戻り、

通り過ぎては戻り……。


その奇妙なやり取りがまるで“無限ループ”のように繰り返され、

遂には女性の歩くリズムに合わせて末吉が常に視界内をスライドしていた。


末吉:(……なんで気づかないんだ?)

なかなか気づかれない末吉は焦りの色を見せる。


礼堂:「俺達は何を見せられてるんだ……?」

冬月:「なんなら復活ライブより珍しいもん見てるかもな。」


その時、女性の表情が一変した。

眉をひそめ、視線を上げた先――

道の反対側で、月明かりに照らされながら不自然に滑ってくる男。


女性:「きゃっ!! えっ?生き返った!? なんでいるの!? てかなんでムーンウォークしてるのー!?」


叫び声を上げ、女性は一気に走り出した。


冬月:「気づいた!!なんか気づいたぞ!!」

礼堂:「そりゃあ気づくだろ!冬月行くぞ!ここしかない、捕らえるぞ!!」


礼堂と冬月は一斉に飛び出し、女性の進行方向へ回り込む。

足音がアスファルトを打ち、息が白く散った。


走る女性の姿が見える――

やがて、彼女は荒い呼吸をしながら、礼堂と冬月の目の前で立ち止まった。


街灯の下、彼女の頬にかかる髪が揺れ、サングラスの奥で目が大きく見開かれている。

そして3人の間に、静寂が落ちた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次回もどうぞよろしくお願いします!

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