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礼堂と冬月の不完全な作戦〜愛は勘違い編〜  作者: A gyousya
殺されたロックミュージシャン ボウについて
38/59

ep.38『プライマル。』

ツアー初日は大成功に終わり、最高の滑り出しとなった。

「Junkies Break the Horizon」というタイトルを掲げたこのアリーナツアー。


半年間の準備が実を結び、初日のステージでは新曲をオープニングに据えた大胆なセットリストが観客の心を掴んだ。


広大なアリーナが熱狂の渦に包まれ、メンバーの演奏とパフォーマンスは、まさに「これから先の地平を打ち破る」勢いを感じさせた。


ファンからの支持は高まり、誰もが「このツアーは大成功を収めるに違いない」と確信した夜だった。


、、、しかし、年間100本という高密度の公演をこなすうちに、ツアー中盤からはメンバーにも疲労の色が見え始める。

アリーナだけでなく、各地のライブハウスも巡るため、移動とリハーサルと本番が連日続く。


体力的にも精神的にも余裕がなくなっていく中、特に、曲作りやステージ演出の検討など業務量の多いボウは、次第に笑顔を見せなくなっていった。 


もともとストイックな性格だったボウは、演奏のクオリティを追求するあまり、楽屋でも休む暇なくセットリストを再考し、少しのミスにも神経を尖らせるようになる。


ツアー序盤で見せていた自信に満ちた表情は薄れ、代わりに「もっと、もっと」という焦りのような意識が前面に出はじめた。


周囲のメンバーやスタッフも、ボウの変化に気づきつつあるものの、彼ら自身も激務と体力の消耗で手一杯な状況であった。


そして、みんな満身創痍で力尽きそうになりながらもこのツアーの終わりを迎えることができたのであった。


「とまぁ、俺たちは疲労感を抱えたままツアーをやり遂げたが、このツアーをきっかけにバンドはおかしくなり、活動休止することになった。そして休止を経てジャンク・バスターズは解散することとなった。」


こうして野田がバンド解散までの経緯を語り終えた。



礼堂は野田の表情を見て、深く頷く。


礼堂:「そうだったんですね。」


微妙な空気が漂う中、紗和がテーブル越しに視線を上げ、口を開いた。


紗和:「バンドの状態と重なって、私とボウの関係も悪くなってしまい、その後私たちも別々の道を歩むこととなりました。」


冬月が少し肩をすくめるようにして、静かな声を返す。


冬月:「バンドだけじゃなく、ボウさんと紗和さんも追い詰められてたんですね。」


野田はうっすらと苦笑いを浮かべ、視線をやや伏せて言葉を継ぐ。


野田:「バンドも、ボウも俺も、未熟だったんだよ。きっと。」


しばしの沈黙が生まれ、礼堂が遠慮がちに質問を挟む。


礼堂:「ボウさんは、どのタイミングで解散を考えたんですかね?」


野田は天井を仰ぎながら思い返すように口を開いた。


野田:「具体的には分からないけど、解散の話をされたのは休止してから結構経っていたな。でもその時ボウは新曲を作ってる話をしていたし、すっきりとした顔をしてたんだよね。だからその感じで解散ってのもなんか不思議だったよ。」


冬月が黙っていた気配を破るように、少し身を乗り出して尋ねる。


冬月:「誰も止めなかったんですか?」


野田は淡々とした様子で首を振った。


野田:「なんか呆気なく言われたから、止める気にもならなかったかな全員。まぁボウらしいっちゃらしいのかな〜。」


周囲の雰囲気が一段と沈む中、富士田がずっと押し黙っていた唇を動かす。


富士田:「ボウさんは解散したあとは、どうするつもりだったんですかね、、、?」


野田は少し笑みを浮かべるが、その声には複雑さが混じる。


野田:「そういえば、その話は出なかったね。まぁ曲も作ってたし、ソロで気ままに音楽やってたかもな。それか他のバンド組んでたかもしれないし。」


紗和が小さく首を振るようにして、野田へ目を向ける。


紗和:「他にバンドを組むのはありえないと思う。あの人はジャンク・バスターズのみんなを本当に信頼していたから。野田っち達以外と音楽やる気はないじゃない? ソロは分からないけどね。」


野田は照れくさそうに肩をすくめ、微かに笑う。


野田:「へへ。嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか紗和ちゃん。」


一瞬だけ、空気が和んだように見えた。しかし礼堂や冬月の視線は、ジャンク・バスターズ解散という重い現実を思い返させる。紗和も、その事実から目を背けることはできなかった。

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