ep.24『I Don't Want to Miss a Thing』
その夜、二人はバー「夜魔」に集まった。
冬月は開き直った様子で、満足げに礼堂に話し始める。
冬月:「いやー、なんだかんだで管理人との約束取り付けたわ。これで俺の勝ちだな。」
礼堂:「おお、すごいじゃないか!さすが冬月、交渉術が冴えてるな。で、どうやったんだ?どんなやり取りしたのか教えてくれよ。」
冬月はドヤ顔を見せながらも、どこかぎこちない口調で説明を始めた。
冬月:「いや、まあ…最初は軽く圧かけて、それであっちが折れてきたから、こっちはちょっと揺さぶりかけてさ。そしたら向こうがもう諦めたって感じ?」
礼堂:「ほうほう、さすがさすが。勉強になります。んで具体的には?」
冬月は少し汗をかきながら、適当な言葉を並べ立てる。
冬月:「そ、そうだな…まあ、“誠意を見せろ”っていうのをやんわり言ったら向こうがすぐ降参してきて…。」
だが、礼堂はその話のあちこちに疑問を感じ始めていた。
礼堂:「ふーん、なるほどな。それで、どんなメール送ったんだ?ちょっと文面見せてくれよ。」
冬月は一瞬動揺し、慌てた様子で答えた。
冬月:「いや、パソコンでやり取りしてたから、ここにはメールないよ。」
礼堂:「はぁ?お前いつも、パソコンとスマホ共有できるアドレス使ってるって言ってただろ。何で急に見せられないんだよ?」
礼堂の指摘に、冬月は返す言葉が見つからず、目をそらす。
冬月:「そ、それは…あれだ、なんか今回は特別なアドレス使ってて…。」
礼堂:「特別なアドレス?嘘つけ。早く見せろって。」
観念した冬月は渋々スマホを取り出し、礼堂にメールを見せた。
礼堂はメールの内容を確認し、呆れたように苦笑いしながら言う。
礼堂:「これが社会人のやり方かよ。お前、ただのクレーマーじゃねえか!」
冬月は顔を赤くしながら反論する。
冬月:「いやいや、これでも相手にプレッシャー与えた結果だから!勝ちだろ、これ!」
礼堂:「まず勝ちってなんだよ…さすがに相手に失礼だろこれ。」
礼堂は肩をすくめながらビールを一口飲む。冬月は不満げな顔をしつつも、どこか心の中で自分のやり方を少しだけ反省していた。
だが礼堂は呆れた表情を浮かべながらも、冬月の努力を認めるように言葉を続けた。
礼堂:「まあ、何にせよ、こうやって管理人と会う機会を作ったのはすごいよ。普通の人間ならメール送るところで終わりだ。」
冬月:「だろ?俺だってやるときはやるんだよ。」
冬月は得意げに言いながらも、少し安心したように肩を落とす。
礼堂は冬月の表情を見て微笑むと、真剣な口調に変わった。
礼堂:「で、日にちと時間はどうするんだ?管理人からは『指定してくれ』って来てるんだろ?」
冬月:「ああ。じゃあ、今週末の土曜日にしようか。昼間の方が安全だし、こっちも冷静に話ができるだろ。」
礼堂は頷きながらスマホでカレンダーを確認する。
礼堂:「それでいいな。場所はどこにする?あまり怪しい場所は避けたいけど…。」
冬月:「まあ、人目がある場所がいいよな。駅前のカフェとかどうだ?」
礼堂:「それが無難かもな。とりあえず、設定した日にちと場所を送ってみろ。」
冬月はその場でスマホを取り出し、管理人にメールを送信した。数分後、返信が返ってきた。
冬月:「よし、OKだってさ。土曜の昼、駅前のカフェで確定だ。」
礼堂:「いいな。それで準備万端だ。ただ、相手がどんな人間かも分からない以上、慎重になれよ。」
礼堂はさらに念を押すように言葉を続ける。
礼堂:「お互い、今回の話し合いが事件の真相に近づくきっかけになるかもしれない。軽く考えない方がいい。」
冬月:「わかってるさ。そこで出た情報が今後を左右するくらい重要かもしれないんだろ?ちゃんと頭に入れておく。」
二人は真剣な表情で頷き合った。ふざけ合うことの多い二人だが、この時ばかりは目の前の事件に向き合う覚悟が伝わってきた。
その夜、二人は次の一手をどう打つか話し合いながら、静かにグラスを傾けた。