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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

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3.オータムコンサート 第一部・第二部

 オータムコンサートが始まった。


 最初の曲は『FIESTA!』。

 オープニングに相応しい、華やかで明るい曲だ。タイトルの「FIESTA」は、スペイン語で「祭り」や「祝日」といった意味がある。容易ではない曲を、Aチームは簡単に吹く。

 指揮者の黒田宙矢(くろだひろや)は、全体のバランスを聴きながら表情を変えつつ指揮をしている。いくら日本一上手い大学の吹奏楽部でも、百回演奏してその百回全てを全く同じように奏でることはできない。そんな中でも、本番で奏者が一番気持ち良く演奏できるように、黒田はひとりひとりをよく見て指示を出した。


 第一部は、ここからコンクール曲に移る。

 本来は第三部に持ってくる構成が普通だが、ネロはあえて第一部に持ってきた。


 二曲目は、コンクールの課題曲だ。

 大三東(おおみさき)とは別の曲を選択した。今年度の課題曲の中では一番難しいが、大学生が演奏するとそのようには感じられない。


 三曲目は『フェスティバル・ヴァリエーション』。

 一曲目がイギリス人の作曲家で、こちらはアメリカ人の作品である。そして、超難曲だ。かつてホルン奏者であった作曲家が作っただけあり、ホルンパートの楽譜がかなり難しい。ほかの楽器も高度な技術が要求されている。ベテランの軍楽隊用に作られた曲のため、当然である。

 去年のコンクールでは、同じ作曲家の『華麗なる舞曲』を演奏した。もちろん、これも高難度の曲だ。

 いくら難しい曲を演奏したからといって、コンクールで評価されるというわけではない。「難しい」にもいろいろある。指遣いが速いわけでもない『エルザの大聖堂への行列』で、全国大会金賞を取る団体もいる。審査員は、「高音が出せること」や「速く指を動かせること」や「速いタンギングができこと」などで判断をしているのではない。ソロではなく、団体としての曲の完成度を聴いている。

 それでも、島原大学の選んだ自由曲の『フェスティバル・ヴァリエーション』のような曲は、やるだけの価値がある。これを演奏できるだけで、技術力があると言っているようなものだ。ゆえに、相当な自信のある団体でなければ、これを選曲しない。

 今回のコンクール曲については、ネロは関わっていない。前音楽監督が決めたものだからだ。だが、指導を引き継いだ彼は、この難曲をひとりで見事完成させた。元々の個人の力もあるが、それをまとめるには自身の圧倒的な実力を示し続けると同時に、豊富な知識も必要となる。

 上級生をも上回る技術と指導力のあるネロと、彼の奏でたい音楽を理解した上で、的確な指揮をすることができる黒田。ふたりによって、非常にレベルの高い演奏会を作り上げた。









 楽屋の備えつけのテレビで見学中の(うみ)たちは、立て続けに披露されるその高レベルな演奏に、手が止まっていた。

 この時間は、予定では指の練習をするはずだった。だが、こんな演奏を聴ける機会はそうそうない。勉強のためにも、大三東(おおみさき)の部員たちは映像に釘づけになった。同じく楽屋に待機中のBチームも、高校生たちと一緒に映像を眺めた。


「ネロさんって、すごか人?」


 海が漏らした言葉に、近くにいた大学生が答えてあげる。


「まぁね。あいつは天才だよ」

「性格はアレだけどな」

「ほかの楽器のことをよく勉強してるしね。逆らえないよ」

「あの人、なんでプロに行かなかったのか不思議でしょうがないよね」


 そんな発言の数々には、彼に対する尊敬が窺える。


「でもさ、あの子もすごいよね」

「あの子?」

「ほら、雅楽川(うたがわ)ちゃん。だって、ネロの指導についていけてるだろ? あいつも楽しそうだし」

「あと、めちゃくちゃ可愛い」

「それな」


 友人を褒められて、海は鼻が高い。つい鼻の穴を広げて「すごかでしょ!」と言ってしまう。


「どうして海が威張るん?」

「海は関係なかよ」

「バカやけん、仕方なか」


 同じパートの、紣谷秀奈(くけやひいな)隈部満(くまべみつ)縫壱月(ぬいいつき)の三人からのツッコミが入る。


「ヌイヌイ、『バカ』ってどういうこと! ネロさんもだけど、言うほどわたしバカじゃなかよ! ねぇ?」


 彼女は後輩の松崎萌季(まつざきもえぎ)に縋る。

 話を振られた松崎は、内心「面倒くさい」と思いながらも海をフォローすることにした。


「そうですね。先輩は結構ちゃんとしてますよね」

「もえちゃん、いい子!」


 わしゃわしゃと頭を撫でて、海は出来の良い後輩を可愛がった。


(うわー。せっかく髪整えたのに。最悪だぁ)


 笑顔でいるが、松崎は心の中でイライラした。


「あ! Aチームさん、休憩でそろそろ戻ると思いますよ。場所空けてあげましょ」

「ん? 本当だ。ステージからいなくなっとる!」


 上手いこと海から離れることに成功し、彼女は手持ちの鏡で髪型を整えるのだった。








 

 休憩を挟み、第二部が始まった。


 Bチームのメンバーが、入れ替わりながら参加する。部員数が多いが、どんな奏者でもなるべく本番の舞台に出られる機会を作っている。

 この大学の今までのオータムコンサートは、クラシック曲を中心に行なっていた。観客も、大学の指導者たちに関係のある団体の生徒などが多く、一般の吹奏楽にあまり馴染みのない者は少なかった。勉強するために聴きに来る者ばかりだった。

 だが、今年は違う。そういった関係者は例年より少ない。ネロが音楽監督やコーチ陣を追い出したからだ。だから、チケットを売るのに苦労した。今まで呼んでこなかった地域の人々や大学の友人を招き、SNSでも宣伝をした。その結果、客席の九割を埋めることができた。

 ただし、選曲が難しくなる。これまでの、吹奏楽のオリジナル曲やクラシックで構成すると、観客がつまらないと思って寝てしまう。だからといって、簡単なポップスだけだと部の技術力が衰えてしまう。

 そこで、ネロはこの第二部の曲選びにテレビを使った。貴重な休みの日に、大学の課題をこなしながら一日中テレビをつけた。そして、そこから聴こえてきたバラエティ番組などのBGMから良さそうなものを探し、サウンドトラックCDを入手して自分で編曲した。

 この第二部の裏テーマは「たぶんどこかで聴いたことあるかもシリーズ」だ。


 一曲目は『天国の島』。

 これは、二〇一一年度のコンクールの課題曲だ。

 もちろんネロはこの曲を以前から知っていた。テレビから聴こえてきた時、出だしの音ですぐにわかった。

 吹奏楽とは関係のない番組で流れていることを嬉しく思ったのだが、ひとつだけ納得できないことがあった。それは、オーボエのソロがカットされていた点だ。ダブルリード楽器が珍しく活躍する課題曲なのに、それが丸々削られていたのだ。

 このコンサートでは、しっかりフルサイズで演奏をした。客席にいる人々の中には、無人島を思い浮かべる者もいるだろう。そして、オーボエらしくない音域で奏でるソロがあるのを、初めて知ることとなる。


 二曲目は『私、パイロットになりたい』。

 飛行機が出てくる映像のBGMとして、流れていたものだ。迫るような力強いリズムは、黒田の指揮で完璧に揃えた。

 ここから先の曲は、ドラマや映画で使用されたものなのだが、ネロはそれを知らない。普段はテレビを見ないため仕方がない。彼は直感で良いと思ったものを選んだ。


 三曲目は『《鎌倉ものがたり》より』。

 神社仏閣が登場した時に、聴こえてきたものだ。

 ファンタジーらしさを感じることができる曲である。それを吹奏楽版に編曲するのは、ネロにとってとてもやりがいのある仕事となった。


 最後は『一八〇〇年の恋』。

 鹿を正面から撮った写真が目印のサウンドトラックCDの中身は、どれも良い曲で迷った。

 ネロはオーボエが目立つほかの曲を本当はやりたかったが、悩んだ結果これになった。

 彼の編曲した中で、今年一番のお気に入りの曲となった。


 観客の中には、懐かしいと思う人もいたようだ。反応もよかった。

 高校生のような若々しいダンスや劇をすることはないが、これまでのコンサートよりも観客を楽しませることに成功した。


 第一部と第二部の島原大学の大学生のみのコンサートは以上となる。

 この後は、いよいよ大三東(おおみさき)高校吹奏楽部との合同演奏だ。

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