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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
10月

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8.弱気な副部長と乙女な学指揮

 ある日の放課後ーー。

 実音(みお)(うみ)造酒迅美(みきはやみ)法村風弥(のりむらかざみ)大三東(おおみさき)高校吹奏楽部の役員と、一年生のプリンスこと野田ライオネル武士(たけし)の五名は、生徒会役員と共にいくつかの施設を訪問した。


「次がラストだよ」


 生徒会長の男子生徒に連れてこられたのは、地元の公民館だった。その中の大ホールへと案内される。


「ちっちゃい時はもっと広く感じたんだけどなぁ。こんなもんだったっけ?」


 入るなり、海は両手を広げて走り回る。まるで、解き放たれた動物のようだ。


「海! まずはいろいろ測らんと!」


 造酒が注意し、実音から借りたメジャーを使ってステージの距離を測定する。それを、プリンスが率先して手伝った。彼は本当に役に立つ。実音は連れてきて正解だと思った。

 その間に、実音と法村で施設の使い方や荷物の置き場所などを確認した。


「ほかの施設より、スムーズに楽器の用意もできそうだね」

「そうだけど……。ねぇ、雅楽川(うたがわ)さん。この日程で本当にやるの? 今からでも変更しない? それぞれずらそうよ」

「これでいいの。それがベストだから。法村さんは何が不安?」

「もう全部! 全て! 全体的に!」


 必死に交渉しようとする法村を、実音は笑いながらあしらった。


「この辺で生徒会には踊ってもらおうかな。後で練習の計画も立てないと。席はどうしよっかな? フリースペースも欲しいよね。今のところ、何人参加予定なのかわかる?」

「えー。生徒会も踊るの? 俺たちにできるかなぁ」


 生徒会と話し始める実音に、法村は置いてけぼりだ。

 今回のイベントは、保育園と老人ホームと障がい者向けの集まりの三カ所に分かれて同日に行う。この公民館では、障がいを持つ子供とその親が一緒に楽しめる演奏をする予定になっている。

 実音がこのイベントを同日開催にしたのには、ちゃんと理由がある。

 まず、大勢で施設に押しかけると、聴く側を驚かせてしまう。それほど広くない場所で大人数が大音量を鳴らすと、楽しむどころではなくなる。そこで、部員を三つに分けて派遣することにした。

 次に、部員のレベル上げのためだ。普段の合奏では、どうしても各楽器のトップに頼った演奏になる。全員が責任を持って演奏するには、強制的に目立つように編成を変える必要があった。少人数のアンサンブルでもアリだが、同じ楽器の編成の曲は飽きられやすい。曲の変化をつけるには、楽器の種類は多い方が良い。

 最後に、これは生の音楽に触れてもらうイベントだ。コンクールのような上手さよりも、求められるのはいかに楽しませられるか。近い距離で自由に聴いてもらうことを第一に考えた。優先すべきは観客である。

 生徒会との打ち合わせを重ねたことと今日の各施設巡りの結果、この形で進めることに決定した。そして、曲についてはそれぞれの施設の職員からの意見を参考に候補を絞った。


「計測、終わったよ」

「造酒さん、ありがとう!」


 得たデータを基に、学校での練習を本格化しなければならない。

 オータムコンサートもあるが、その先の本番も並行で取りかかる。


「終わった?」


 別の部屋の探索に出かけていた海が、入り口から顔を覗かせる。


「海、どこ行っとったの!」

「あのね、あっちに遊べそうな所があっーー」

「遊びに来たんじゃなか!」

「……はーい」


 造酒に叱られ、部長の海はシュンとする。


「ねぇ、実音。わたしはどこ担当?」


 海の顔には「ここ楽しそうだから、ここがいいなぁ」と書いてある。


「海は保育園かな」

「そっちかぁ。まぁ、よく知っちょるけんよかね」


 海の配属先を聞いて、生徒会も含めた彼女以外の全員が「精神年齢が近いからだろうな」と思った。


「ここは、法村さんにお願いしようと思ってる」

「え、私? っていうか、私だけ? 造酒は?」

「造酒さんは、海の面倒見てもらわないと」

「じゃあ、ホルンのほかのメンバーは?」

「ひとりでお願いね。(かなどめ)さんと野田君とは、別でやってほしいから。馬渡(まわたり)さんは、京さんのとこかな」

「……え、無理。心細すぎるよ!」

(かざり)先生、つけるよ?」

「嬉しくなか!」


 人数的に、今回は指揮者なしで行うつもりだ。

 だから顧問の文は、ただの付き添いである。生徒会の方がしっかりしているため、いてもいなくても正直どちらでも良い。

 法村は自分の演奏も、副部長としての統率力も、全てに自信が持てない。実音もプリンスもいない中、イベントを成功させる未来が見えないでいる。

 

「まだ時間はあるし、法村さんなら平気だよ」


 実音からそんな言葉をかけられるが、既に法村は不安で押しつぶされそうだった。


「先輩、そんなに心配する必要ないですよ。いつも、パートではちゃんとまとめてくださってますし」

「あのね、ホルンパートはプリンスで成り立ってるんだよ。私なんかが、たったひとりでやっていけるわけがないでしょ」

「考えすぎですよ」


 同じパートの後輩であるプリンスが励まそうとするが、効果はない。

 彼の鼓舞は、ほかの女子部員なら効き目は絶大だ。しかし、不安でいっぱいの法村には通用しなかった。


「のりちゃん、深く悩みすぎ。それより、今度のネロさんの合奏の方がわたしは心配だよ。だから早く戻ろ! で、練習しよ!」


 海が両手で肩を抱き、ブルブル震える動作をして見せる。

 すると、法村もネロの地獄の練習を思い出した。彼女に更なる危機感が生まれた。


「そうだね。練習しなくちゃ!」


 そして、確認すべきことは済んだため、生徒会と共に公民館を去ることにした。








「ーーということで、(あずま)君は一丸(いちまる)君との対談には応じられないって」


 学校への帰り道、実音は生徒会へ転校生からの言葉を伝えた。


「そうか。まぁ、無理強いは良くないしな。わかったよ。それなら、造酒は? 一丸とその幼馴染ってことでどう?」

「絶対無理!」


 速攻で造酒は断った。

 一丸ファンからの反感も買いそうで、そんなことに応じるわけにはいかない。

 体育祭の一件で、全校生徒に「なんでお前が」という目で見られてしまい、彼女にとって迷惑でしかなかった。


「はやみん、あれから一丸となんかあった?」


 そんな彼女の気持ちより、好奇心を優先させて海は尋ねる。


「あるわけなか!」

「幼馴染でしょ? 前から仲良さそうだったのに」

「海。そっちこそ、(あさひ)とはどうなのよ!」

大護(だいご)? あんなの、ただの幼馴染よ」

「それと一緒!」

「あー、なるほど!」


 海と造酒は、中学からの友人である。

 スーパースターの一丸が、ほかの女子よりも造酒に話しかける場面は何度も見てきた。まさかそこに恋心があったことは知らなかったが、彼女にその気があるのなら海は応援しても良いと思っている。


「実音。はやみんね、元々バスケやっとったんだよ。去年の球技大会、すっごく活躍したの! ドリブル速くて、味方にどんどんパスしてて、わたしのクラス全然勝てなかった!」

「へー。そうなんだぁ。造酒さん、運動神経いいもんね」


 自分にはないスポーツの才能を持つ造酒が、実音には格好良く見えた。


「小学生までだけどね。怪我でやめたんだ。飛竜(ひりゅう)は、それを心配しとるだけ。ただの勘違いだよ。あいつは間違いなくプロに行くし、活躍もする。その頃には、ウチのことなんか忘れとるよ」


 どこか寂しそうに言う造酒。

 それは、怪我がなければきっと、今よりもっと近くにいたかもしれない幼馴染を想っているように聞こえる。


「あの言葉って、もしかして……」


 そこに、法村が考えを述べる。


「造酒を大切にしたいからじゃなかかね? ほら、プロになるだけじゃ、家族を養えるかわからんでしょ。だから、充分稼げるようになってから想いを伝えるっていう。そういうやつなんだよ。いいなぁ。羨ましいよ」


 それに、実音も賛同する。


「ちょっと、ううん、かなり固い考えかもしれないけど、あそこで告白しないってこと自体が、一丸君の想いの強さだと思うよ」


 ふたりの意見を聞いて、造酒はまた顔を赤くする。

 一丸のことは嫌いじゃない。むしろ尊敬している。そして、幼い頃から彼だけが自分のことを女の子扱いしてくれた。

 これまでのことを思い出すと、あの言動に納得はできる。だが、それを受け入れてしまうのが恐い気もするし、何よりそんな自分が恥ずかしいと思った。


「ま、まぁ、今は告白? しないんだし、ウチにはどうにもできんよね。あいつに振り回されとる場合でもなか」


 少し強気を装って喋ることで精一杯の造酒に、その場にいた者たちはニヤニヤした。


「それなら、対談は雅楽川さんとプリンスもどう? 人気あるからさ」


 生徒会からの更なる提案に、実音とプリンスは「無理」と即答する。

 「それなら自分は?」と売り込もうとする海は、見向きもされなかった。それを見ていた法村が、落ち込む海の肩に手を置いて励ました。

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