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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
10月

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7.今更な指摘

 体育祭で注目を浴びてしまった東柊(あずましゅう)

 九月に大三東(おおみさき)に来た時も運動部からの誘いはいくつかあったが、再び勧誘を受けてしまう。


「だから、バイトで忙しいし無理」


 声をかけられる度に、彼はピシャリと断った。みんな落ち込んで帰っていく。昼休みに一応大護(だいご)も野球部へ誘ってみたが、予想どおり撃沈した。

 そんな幼馴染を励ますことはせず、(うみ)は個人的に撮った体育祭の写真を眺めていた。厳密に言うと、そこに小さく映る東のことしか見えていない。


「本人見ればよかろ」


 画面を覗き指摘する大護から、素早くそれを隠す。


「至近距離で見たら、怪しまれるでしょ!」


 後ろを振り向けばすぐそこにいる東に、海はなかなか話しかけることができないでいた。

 そこに、どこかへ行っていた実音(みお)が帰ってきた。


「あれ? 今日は早かったね」

「うん。生徒会と軽く打ち合わせしてきただけだから」


 十二月に、生徒会と吹奏楽部でボランティア活動を行うことになっている。

 初めての試みのため、何度も彼らと連絡を取り合う実音。近々現地視察もする予定だ。


「お疲れー」

「海。さっきネロさんから連絡があってね、海たちも『ダッタン人』吹いても大丈夫だって。だから練習しといてね。メンバーは今のところこんな感じ」


 実音は送られてきたリストを海に見せる。

 その報告に、海は全く嬉しくない。彼女はネロが苦手だ。それなのに、合奏で会う機会を増やされてしまった。


「……ネロさんかぁ」

「誰それ?」


 海は大護に、島原大学と練習をしていることや、そこで指導もしているネロについて簡単に説明した。


「へぇー。大学生って、派手な奴もおるんだな」

「派手だけど、それだけじゃなか! とにかく、恐い! 本当に! すごく!」

「でも、技術は確かだよ。言ってることも、結構勉強になる。それに、リードの調整してくれるし」

「実音が喜んどるなら、いい奴なんだろ?」

「違う! あれはただの暴君! 大学生の人たちがみんな言っとった!」

「はいはい」


 海の言い分より、大護は実音のことを信じる。恐いと言っても、三年生の井上夕映(いのうえゆえ)のような人なのだろうと彼は思っている。「暴君」というワードが出てきても、彼はその相手が女性だと勘違いした。


「そのオータムコンサートって、いつ? 絶対行く!」


 実音から日程を聞き、彼はしっかりその日をメモしておいた。


「東もどう?」


 後ろの席の実音に身体を向けていたついでに、大護は東も誘ってみる。

 参考書を広げていた彼は、一度顔を上げたが「無理」と一言だけ返した。想像どおりの答えで、それを聞いた三人は傷ついたりしない。


「そういえば、生徒会が『生徒会だより』で東君の特集組みたいとか言ってたよ」

「は? なんで?」


 隣の席の実音の報告に、東は思わず反応した。とても嫌そうな表情をしている。


「一丸君と対談させたら面白そうって思ったみたい。『あんなに足が速いなら、きっと前の部活でも活躍していただろうし』とも言ってたよ」

「部活は入ってない」

「そうなの?」

「……ユース。地元のサッカークラブの」

「あー、そっか。ブラジルにいたんだもんね」

「その時は遊んでただけ。周りみんなそう。本格的にやったのは日本に戻ってから」

「そうなんだぁ」


 このやり取りに、海と大護はついていけない。

 いつの間に親しくなっている実音たちに、ふたりは驚いた。


「実音。いつから東君と仲良くなっとったの!」

「東。お前、普通に会話できるのかよ!」


 勢いよく詰め寄るふたりに、実音は事情を話した。

 「母親同士が知り合いであること」「幼い頃に会っていたこと」。それから、後で母親伝手に聞いたことだが「東がその後父親の仕事の関係でブラジルに行っていたこと」も教える。

 そんな運命再会のような話に、島原の幼馴染コンビはショックを受けてしまう。


「そんな奇跡、ある?」

「親公認ってやつか?」


 当の本人たちは、再会を別になんとも思っていない。

 今は黙っているが、ここまで東が喋ったのは初めてのことだった。実音に心を開きかけているようにしか、海たちは思えなかった。


「それで、生徒会の件はどうする?」


 実音に尋ねられ、東は更に嫌そうな顔をした。


「話すことなんかない」

「まぁ、無理に受け入れることないもんね。私から言っとくね」

「頼む。……やっぱこの格好のせいか?」

「何が?」

「ほかと違う制服だから、変に目立ってるのか? 注目されるの、面倒くさいんだけど」


 彼は周りから勧誘を受けたりしている原因を、自分の着ているものの違いからだと思っている。体育祭でも前の学校の体操着を着ていて、今もひとりだけ学ランではなくブレザーだ。

 しかし実際は、高身長のイケメンで、運動神経も抜群であることが理由である。


「でも、この時期に新しい制服を買うのはなんだかもったいないもんね」


 実音も東の考えるとおり、制服のせいだと思った。

 自分が大三東(おおみさき)の制服で転校してきても目立っていたことを、彼女は知らない。


「なら、(りく)は? ここの卒業生だし、もらえば? なぁ、海」


 ここで、大護は海へ恩を売ろうとする。

 東を助けるというより、海に彼との接点を作ってあげようと考えた。


「え!? あー、陸のね。うん、そうだね。東君、わたしの兄の制服とか体操着、持ってこようか?」


 急な提案に慌てたものの、大護の意図に気づいた海。東に見えないように、大護に向かってグーサインを出す。


「いいの? それはありがたい。えっと、音和(おとなぎ)さん、頼んだ」

「っ! うん! 任せて!」


 同じ班だから当たり前なのだが、名前を覚えてくれていたことと初めて呼ばれたことで、海は歓喜する。

 そんな彼女を、実音は素直に「恋する女の子は可愛いなぁ」と応援していた。









 帰りのホームルームの前。実音はいつものように部活のために着替える。

 前の学校の時も、こうやって教室で堂々と制服を脱いでいた。薄着でも、全く恥ずかしさはなかった。というより、そんなことを考える余裕がない。あの頃は、ホームルームが終わったらとにかく急いで部室に行くのが当たり前で、その日の練習のことしか頭の中にはなかったのだ。


「あのさ」


 隣の席の東が、珍しく自分から声をかけてきた。

 一瞬びっくりして、実音はキャミソール姿のまま隣を見る。


「何?」


 すると、彼は目線を彼女ではなく前に向けた状態で話を続ける。


「その格好、どうかと思うんだけど」

「え?」


 実音はまずい格好でもしていたのかと、自分の姿を確認してみる。しかし、いつもと変わらない。

 不思議に思っていると、会話が聞こえた海が後ろを振り返る。


「どうかしたと?……あー」


 それは海も見慣れた姿。部活後に、いつも音楽室で着替えている時に見ている。男子部員は、そんな時は楽器倉庫や廊下に追い出される。


「実音。ここ、部室じゃなか。ちょっとは男子の目も気にせんとね」

「え?」


 海の発言に、クラスの一部の男子がビクッとする。彼らは実音の着替える姿を見るために、自然を装って後ろを向いたり、物を落としてその流れで見ようとしたり、窓に映る姿を見ようとしたり、とにかく努力してきた。

 本人にバレないようにだけ注意していたのだが、遂に彼女に指摘する人物が現れてしまった。東は、転校してきてすぐに、彼女に対しての男子の目に気がついていた。


「何かあったのか?……っ!?」


 後ろを向いて喋る海に、大護もなんとなく視線をそちらに向けてみる。

 すると、キャミソール姿の実音が目に入った。


「み、実音!? え、ちょ、なんつー格好して!?」


 すぐに手で顔を覆う大護。隠すつもりはあるが、隠れてはいない。


「え? ただのキャミだよ」

「そがん刺激ば強かもん、見せたらダメに決まっとるだろ!」


 まだピンときていない実音に、彼は顔を赤くしながら注意した。


「え? これが?」

「ダメだ!」


 もう手で隠していない真剣な顔で、大護は実音を直視して訴える。

 その視線に、実音はだんだん恥ずかしくなってきた。


「……わかった。気をつけるね」

「絶対だからな!」


 体育着をすぐに着る実音を見て、大護もやっと前に身体の向きを戻した。

 彼女がいつも、最後の授業の後に着替えていることは知っていたが、大護はその着替え方までは知らなかった。男子高校生にとって刺激的すぎる格好を挟んでいたとわかっていたら、もっと前から止めさせていた。ほかの女子ならともかく、好きな子のそんな姿をクラスメイトたちが今まで見ていたと思うと、彼は腹が立ってくる。

 一方実音も、明日からは着替え方を改めようと誓うのだった。

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