6.スーパースター!
お昼休憩を挟み、体育祭の午後の部が始まった。
最初は部活対抗リレーだ。まず文化部から行う。
文化部の中で参加したい団体のみが出場する。しかも走らない。
天文部は、次回の星空観測会のお知らせを書いた看板を持って歩いた。また、鉄道研究同好会は、駅員のコスプレで鉄道の模型を掲げている。それぞれが、部や同好会の宣伝をした。
続いて運動部。
こちらはガチだ。ユニフォーム姿で、どこも部内の俊足を集めて一位を狙う。点数に響かないが、これはプライドを賭けた戦いだ。
そして、吹奏楽部は文化部で唯一この部門に毎年参加している。体操着のままで、吹奏楽部らしさは微塵もない。
「海! 飛ばせー!」
先に女子から。
海や頴川紅など、スポーツの得意な五人の部員がバトンを繋いでいく。実音は含まれていない。
アンカーは造酒迅美だ。
「はやみーん! いっけー!」
ボーイッシュな見た目の彼女は、部員の声援を受け風を切っていく。運動神経抜群で、テニス部を追い抜いた。
結果、途中転びそうになりながらも、バスケ部と陸上部に続き三位の成績を得た。
「はやみん、さっすが!」
ゴールした造酒を、海は汚れた体操着のまま抱き締めて讃える。
「……う、うん」
「どうかした? 嬉しくなかった?」
「そんなことなか。ちょっと疲れただけ」
「そう?」
次は男子の番。
一丸飛竜率いるバスケ部の登場に、場がざわつく。彼は圧倒的なオーラを放っている。
「真剣勝負だからな。我が部のベストメンバーを揃えたつもりだ。お互い、全力を尽くそう」
相手へのリスペクトも忘れない一丸。
そんな彼に、大護やほかの部長が大きく頷いた。彼は男子からの好感度も高い。
「ほかを寄せつけません! なんという大差! これが大三東が誇るバスケ部です!」
結果は、圧倒的一位でバスケ部。続いて陸上部に野球部。吹奏楽部は最下位は免れた。
プリンスが走っている時は黄色い歓声がよく聞こえた。それとは対照的に、アンカーの一丸が走っている時は、誰もが黙ってしまう。彼だけ別世界の人のような気がして、ただただその姿をみんな目に焼きつけているのだ。
部活対抗リレーの後は、応援合戦だ。それぞれの組がダンスをして、士気を高める。
体育祭実行委員と有志でダンスの振付を考え、それを昼休みに各クラスに教えに行った。実音は昼休みはほぼ教室にいないため、動画に撮ってもらった振付を覚えて挑む。
一年生は恥ずかしそうに、二年生はノリノリで、三年生は本気のダンスをした。
その後は、また競技で得点の取り合いだ。
「どうしてここで一丸!?」
「足の速さ、あんまり関係ないのに!」
「怪我した人の代わりらしいよ」
「スーパースターの無駄遣いがすぎる!」
一丸が現れたのは、借り物競走。
お題の紙を取った彼は、それを見るなりある場所へと一直線に走っていく。
そしてやってきたのは自分のクラス。その中から、ひとりの生徒の手を取る。
「迅美、行くぞ!」
「え!」
引っ張られた造酒は、周りの注目を浴びてしまう。
「なんでウチなの。ほかにしてよ」
「ほかじゃダメだ」
断ることを許さず、ゴールへ向かう一丸。それに彼女は仕方なくついていくが、足に痛みが走る。
「いっ!」
小さく出てしまった苦痛の声に、彼はすぐに止まる。
「怪我したのか?」
「あー……さっきの部活対抗で、やっちゃったかも」
「どうして言わない!」
「出番はあと最後のリレーだけだし、大したことなさそうかなって……」
「……」
すると、一丸は造酒を背にしてしゃがみ込む。それから、顔だけ彼女の方へと向ける。
「乗れ」
「は?」
「いいから乗れ。その足で、戻すわけにもいかない。さっさと乗れ」
「え……」
ずっと同じポーズをする彼を放置するわけにもいかず、彼女は意を決してその肩に手を添えた。
「なるべく振動はかけないつもりだが、痛かったら言え」
「……うん」
女子たちの悲鳴を聞きながら、造酒はおぶられてゴールする。
実行委員の女子生徒がお題を確かめるために、彼から紙を受け取った。造酒も内容を知らなかったため、ずっと気になっていた。お題の確認中も彼は降ろさなかった。
「二年の一丸君のお題は、えっと……『可愛いもの』?……え?」
一丸の後ろの人物を実行委員の生徒は覗き、彼と交互に何度も見てしまう。
造酒も、そのお題を聞いてフリーズする。
「お題どおりだと思うが? どこかおかしかっただろうか? ……はっ! 『もの』ではないな。『可愛い』の部分に気を取られすぎてしまったようだ。すまない。では迅美の身につけているものはどうだろう? 迅美、何か持ってないか?」
「一丸君。それって、つまり……その、ふたりは付き合ってるの?」
「? いいや」
「え? でも、『可愛い』って」
「迅美は可愛い。そうだろ?」
「あ! じゃあ、これって……告白?」
「告白など、ここでするものか。俺はプロで活躍するまでは、そのつもりはない」
(それ、もう告白だよ!)
マイク越しに聞いていた全員が、心の中でそう思った。
彼の発言に耐えきれない造酒は、その背中で顔を隠すのに必死だ。
「それで、お題はクリアなのか?」
「ク、クリアです!」
「ありがとう。では、今から迅美を保健室に連れて行かねばならないから、失礼する」
これまで、何人もの女子からの告白を断ってきた一丸。
その片想いの相手は、思わぬ形で全校生徒に明かされた。
突然の告白タイム(ただし本人は否定)の後も、滞りなくプログラムは進む。
いよいよ、ラストの競技だ。
種目はクラス対抗リレー。二年生の俊足たちが、学年を越えた声援を受けながら全力疾走している。
実音たちのクラスは、海と大護が第一・第二走者として走り、かなりのリードを作った。しかし、その後の選手が途中でバトンを落としてしまい、大きなタイムロスとなった。さらに、靴が脱げてしまうハプニングを起こす者も現れ、気づけば最下位まで落ちていた。
「アンカー、一丸君! 余裕の一位です!」
怪我で離脱した造酒に代わって代走した生徒も健闘し、スーパースターがここでも魅せつけてゴールした。
そして、それと同時に歓声が大きくなった。だがそれはスーパースターだけに向けられたものではなかった。
「一組、速いです! 今、六組を追い抜きました。四組にも追いつきそうです!」
この爆速の正体は、イケメン転校生の東柊だった。
クラスの実行委員の独断で、クラスに馴染めていない彼を嫌でも目立つアンカーに任命したのだ。ビリからふたりも抜きゴールする。
「東……だったか? 速いな」
先にテープを切った一丸が、彼に話しかけた。
「……誰?」
「俺は、二組の一丸だ。よかったら、バスケ部に入らないか?」
「バイトあるから無理」
「それは残念だ。でも気が向いたら、いつでも待ってるぞ」
手を出し、一丸は握手を求めた。
スーパースターと噂のイケメンの組み合わせを、実行委員のカメラ担当が見逃すはずがない。そのツーショットは、後日販売された写真の中で一番売れた。
「足、平気?」
保健室から戻ってきた造酒を、実音は心配する。
部活の代表で参加した競技で怪我をしたため、彼女は申し訳なく思っていた。
「大丈夫、大丈夫!」
それを笑顔で受け流すが、彼女の頬は火照ったままだ。
「先輩のこと『可愛い』だなんて、あの人変わってますね」
珍しく女子らしい態度をする先輩を、有馬咲太郎はつい揶揄ってしまう。
「変わってるのは否定しないけど、なんかむかつく!」
「で、一丸先輩と付き合っとるんですか?」
「違うってば! あいつは、ただの小学校からの幼馴染だから!」
「ふーん」
ほかの部員たちも、ニヤニヤして彼女を見てしまう。
そんな緩んだ空気を、実音がしっかりと引き締めさせた。
全ての競技が終了し、閉会式が始まる。
ここで吹奏楽部は『ファンファーレ』と『得賞歌』を演奏した。
一曲は、有馬の得意な高音で引っ張る。もう一曲は、中低音を中心に響かせる。
校庭は砂埃が立ち、直射日光が当たる。そのことを考慮して、今回木管楽器なしの編成にした。結果、金管特有の派手さと、ホルンやユーフォニアムを中心とした豊かさの練習をする良い機会になった。
今年の体育祭は、僅差で白組が優勝した。
一番その結果にホッとしたのは、泓塁希を野放しにして暴走させてしまった縫壱月だった。




