表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
10月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/322

6.スーパースター!

 お昼休憩を挟み、体育祭の午後の部が始まった。

 最初は部活対抗リレーだ。まず文化部から行う。

 文化部の中で参加したい団体のみが出場する。しかも走らない。

 天文部は、次回の星空観測会のお知らせを書いた看板を持って歩いた。また、鉄道研究同好会は、駅員のコスプレで鉄道の模型を掲げている。それぞれが、部や同好会の宣伝をした。


 続いて運動部。

 こちらはガチだ。ユニフォーム姿で、どこも部内の俊足を集めて一位を狙う。点数に響かないが、これはプライドを賭けた戦いだ。

 そして、吹奏楽部は文化部で唯一この部門に毎年参加している。体操着のままで、吹奏楽部らしさは微塵もない。


「海! 飛ばせー!」


 先に女子から。

 (うみ)頴川紅(えがわべに)など、スポーツの得意な五人の部員がバトンを繋いでいく。実音(みお)は含まれていない。

 アンカーは造酒迅美(みきはやみ)だ。


「はやみーん! いっけー!」


 ボーイッシュな見た目の彼女は、部員の声援を受け風を切っていく。運動神経抜群で、テニス部を追い抜いた。

 結果、途中転びそうになりながらも、バスケ部と陸上部に続き三位の成績を得た。


「はやみん、さっすが!」


 ゴールした造酒を、海は汚れた体操着のまま抱き締めて讃える。


「……う、うん」

「どうかした? 嬉しくなかった?」

「そんなことなか。ちょっと疲れただけ」

「そう?」


 次は男子の番。

 一丸飛竜(いちまるひりゅう)率いるバスケ部の登場に、場がざわつく。彼は圧倒的なオーラを放っている。


「真剣勝負だからな。我が部のベストメンバーを揃えたつもりだ。お互い、全力を尽くそう」


 相手へのリスペクトも忘れない一丸。

 そんな彼に、大護(だいご)やほかの部長が大きく頷いた。彼は男子からの好感度も高い。









「ほかを寄せつけません! なんという大差! これが大三東(おおみさき)が誇るバスケ部です!」


 結果は、圧倒的一位でバスケ部。続いて陸上部に野球部。吹奏楽部は最下位は免れた。

 プリンスが走っている時は黄色い歓声がよく聞こえた。それとは対照的に、アンカーの一丸が走っている時は、誰もが黙ってしまう。彼だけ別世界の人のような気がして、ただただその姿をみんな目に焼きつけているのだ。








 部活対抗リレーの後は、応援合戦だ。それぞれの組がダンスをして、士気を高める。

 体育祭実行委員と有志でダンスの振付を考え、それを昼休みに各クラスに教えに行った。実音は昼休みはほぼ教室にいないため、動画に撮ってもらった振付を覚えて挑む。

 一年生は恥ずかしそうに、二年生はノリノリで、三年生は本気のダンスをした。

 その後は、また競技で得点の取り合いだ。









「どうしてここで一丸!?」

「足の速さ、あんまり関係ないのに!」

「怪我した人の代わりらしいよ」

「スーパースターの無駄遣いがすぎる!」


 一丸が現れたのは、借り物競走。

 お題の紙を取った彼は、それを見るなりある場所へと一直線に走っていく。

 そしてやってきたのは自分のクラス。その中から、ひとりの生徒の手を取る。


「迅美、行くぞ!」

「え!」


 引っ張られた造酒は、周りの注目を浴びてしまう。


「なんでウチなの。ほかにしてよ」

「ほかじゃダメだ」


 断ることを許さず、ゴールへ向かう一丸。それに彼女は仕方なくついていくが、足に痛みが走る。


「いっ!」


 小さく出てしまった苦痛の声に、彼はすぐに止まる。


「怪我したのか?」

「あー……さっきの部活対抗で、やっちゃったかも」

「どうして言わない!」

「出番はあと最後のリレーだけだし、大したことなさそうかなって……」

「……」


 すると、一丸は造酒を背にしてしゃがみ込む。それから、顔だけ彼女の方へと向ける。


「乗れ」

「は?」

「いいから乗れ。その足で、戻すわけにもいかない。さっさと乗れ」

「え……」


 ずっと同じポーズをする彼を放置するわけにもいかず、彼女は意を決してその肩に手を添えた。


「なるべく振動はかけないつもりだが、痛かったら言え」

「……うん」


 女子たちの悲鳴を聞きながら、造酒はおぶられてゴールする。

 実行委員の女子生徒がお題を確かめるために、彼から紙を受け取った。造酒も内容を知らなかったため、ずっと気になっていた。お題の確認中も彼は降ろさなかった。


「二年の一丸君のお題は、えっと……『可愛いもの』?……え?」


 一丸の後ろの人物を実行委員の生徒は覗き、彼と交互に何度も見てしまう。

 造酒も、そのお題を聞いてフリーズする。


「お題どおりだと思うが? どこかおかしかっただろうか? ……はっ! 『もの』ではないな。『可愛い』の部分に気を取られすぎてしまったようだ。すまない。では迅美の身につけているものはどうだろう? 迅美、何か持ってないか?」

「一丸君。それって、つまり……その、ふたりは付き合ってるの?」

「? いいや」

「え? でも、『可愛い』って」

「迅美は可愛い。そうだろ?」

「あ! じゃあ、これって……告白?」

「告白など、ここでするものか。俺はプロで活躍するまでは、そのつもりはない」


(それ、もう告白だよ!)


 マイク越しに聞いていた全員が、心の中でそう思った。

 彼の発言に耐えきれない造酒は、その背中で顔を隠すのに必死だ。


「それで、お題はクリアなのか?」

「ク、クリアです!」

「ありがとう。では、今から迅美を保健室に連れて行かねばならないから、失礼する」


 これまで、何人もの女子からの告白を断ってきた一丸。

 その片想いの相手は、思わぬ形で全校生徒に明かされた。









 突然の告白タイム(ただし本人は否定)の後も、滞りなくプログラムは進む。

 いよいよ、ラストの競技だ。

 種目はクラス対抗リレー。二年生の俊足たちが、学年を越えた声援を受けながら全力疾走している。

 実音たちのクラスは、海と大護が第一・第二走者として走り、かなりのリードを作った。しかし、その後の選手が途中でバトンを落としてしまい、大きなタイムロスとなった。さらに、靴が脱げてしまうハプニングを起こす者も現れ、気づけば最下位まで落ちていた。


「アンカー、一丸君! 余裕の一位です!」


 怪我で離脱した造酒に代わって代走した生徒も健闘し、スーパースターがここでも魅せつけてゴールした。

 そして、それと同時に歓声が大きくなった。だがそれはスーパースターだけに向けられたものではなかった。


「一組、速いです! 今、六組を追い抜きました。四組にも追いつきそうです!」


 この爆速の正体は、イケメン転校生の東柊(あずましゅう)だった。

 クラスの実行委員の独断で、クラスに馴染めていない彼を嫌でも目立つアンカーに任命したのだ。ビリからふたりも抜きゴールする。


「東……だったか? 速いな」


 先にテープを切った一丸が、彼に話しかけた。


「……誰?」

「俺は、二組の一丸だ。よかったら、バスケ部に入らないか?」

「バイトあるから無理」

「それは残念だ。でも気が向いたら、いつでも待ってるぞ」


 手を出し、一丸は握手を求めた。

 スーパースターと噂のイケメンの組み合わせを、実行委員のカメラ担当が見逃すはずがない。そのツーショットは、後日販売された写真の中で一番売れた。









「足、平気?」


 保健室から戻ってきた造酒を、実音は心配する。

 部活の代表で参加した競技で怪我をしたため、彼女は申し訳なく思っていた。


「大丈夫、大丈夫!」


 それを笑顔で受け流すが、彼女の頬は火照(ほて)ったままだ。


「先輩のこと『可愛い』だなんて、あの人変わってますね」


 珍しく女子らしい態度をする先輩を、有馬咲太郎(ありまさくたろう)はつい揶揄ってしまう。


「変わってるのは否定しないけど、なんかむかつく!」

「で、一丸先輩と付き合っとるんですか?」

「違うってば! あいつは、ただの小学校からの幼馴染だから!」

「ふーん」


 ほかの部員たちも、ニヤニヤして彼女を見てしまう。

 そんな緩んだ空気を、実音がしっかりと引き締めさせた。


 全ての競技が終了し、閉会式が始まる。

 ここで吹奏楽部は『ファンファーレ』と『得賞歌』を演奏した。

 一曲は、有馬の得意な高音で引っ張る。もう一曲は、中低音を中心に響かせる。

 校庭は砂埃が立ち、直射日光が当たる。そのことを考慮して、今回木管楽器なしの編成にした。結果、金管特有の派手さと、ホルンやユーフォニアムを中心とした豊かさの練習をする良い機会になった。









 今年の体育祭は、僅差で白組が優勝した。

 一番その結果にホッとしたのは、泓塁希(ふちるいき)を野放しにして暴走させてしまった縫壱月(ぬいいつき)だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ