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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
10月

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5.綱引きと棒倒し

 文化祭が終わった後の大三東(おおみさき)高校の次の大きなイベント。それは体育祭だ。

 奇数クラスが赤組。偶数クラスが白組。勝った方に何か褒美があるわけではないが、学生らしく青春を感じる行事は大いに盛り上がる。


「赤組ー! もっと気合い入れろー!」


 三年生の赤組の応援団長が、大声で周りを鼓舞していく。それに、同じく三年生が中心となって応えている。受験勉強のストレスを発散するには、打ってつけの機会だ。

 こんな時、冷静に準備をするのが吹奏楽部だ。

 今年は、楽器の手入れがしやすい金管楽器とパーカッションのみでの参加である。チューバパートは、久々のスーザフォンを使用している。


「出だし、(りき)まないでね」


 今日は指揮者として仕事をする実音(みお)

 生徒が整列を終えるのを待ちながら、最終確認を怠らない。そして、体育祭実行委員の合図で開会のファンファーレを始める。

 高いテンションの生徒に合わせた演奏は、崩れる原因になる。外で吹くと、どうしても自分の生音が気になったり、遠くへ飛ばそうと無理をしてしまう。

 そうならないように、実音は前日の練習であえて無表情での練習をさせた。周りに流されず、気品のある吹き方を目指した。イメージは、ジェット機から降りてきた国賓を歓迎するような演奏だ。


「今のOK」


 一曲終え、彼女は小声でそう伝える。

 その調子で、『校歌』も披露する。

 これで、閉会式まで出番はない。吹奏楽部は楽器を一度片し、クラスの元へと戻った。








「おかえりー!」


 木管楽器の(うみ)は本日演奏しない。全力で体育祭を楽しんでいる。


「ただいま」

「見て見て! ポンポン! さっき、三年生からもらったの! 一緒に応援しよ!」

「うん」


 去年の方南(ほうなん)での体育祭、実音は海みたくはしゃぐことができなかった。

 それは実音だけではない。ほかの方南の部員たちもそうだ。いつ顧問に見られるかわからない状況下で、クラスメイトと歯を出して笑いながら青春を謳歌するなど、考えられなかった。先輩の目もある。怪我をしないように、だがクラスメイトに迷惑をかけないように心がけた。楽しめた記憶がない。


「実音? どうかした?」

「ううん。なんでもない」

「そう? 実音。楽しまなきゃ損だよ!」

「……ふふっ。そうだね」


 底抜けの明るさで笑う海に、実音の仕事モードは完全にオフにされた。

 この間の文化祭の時、高校生になって初めて学校の行事を心から楽しいと思った。参加してよかったと思った。クラスのみんなで笑っても良いのだと知った。

 実音は渡されたポンポンを持ち、校庭を走る仲間を応援するのだった。








 全力で体育祭を楽しもうと意気込んだ実音だったが、彼女の運動神経はそれほど良くない。ダンスは元々苦手で、それでもやらなくてはいけない環境にいたからやってこれただけだ。だから、玉入れや障害物競走といった、足の速くない者が参加する競技に出場した。

 その代わり、ほかのクラスメイトたちは大活躍だ。海や大護が各競技で一位を取ってくる。


「イェーイ!」

「海、お疲れ様。余裕だったね」

「まぁね」

「俺は?」

大護(だいご)君も速かったね」

「だろ!」


 大護率いる野球部は、九月の試合では延長戦で負けたものの、もしかしたら勝てていたかもしれない内容だった。

 今は個人の基礎体力強化月間で、この日は有り余った力を発揮している。


「このまま、赤組勝てそうだね!」


 現在の得点を見て海がそう言う。だが、ほかの生徒たちは微妙な顔をした。


「まだあいつが出とらんけん」

「温存しとるのかな?」

「そうかも」

「登場しただけで、白組の士気が爆上がりだろうな」


 みんなが言う「あいつ」とは、二年生の男子バスケ部のキャプテンの一丸飛竜(いちまるひりゅう)のことだ。

 実音やプリンスの人気も凄まじいが、「大三東高校のスーパースターは誰か?」と問われれば、ほとんどが彼の名を挙げる。

 強豪のバスケ部に、一年の時からレギュラーとして活躍。将来はプロ間違いなしの才能の持ち主。そして九州男児を絵に描いたような漢気溢れる見た目。周りに対しての礼儀正しさを持ち、カリスマ性たっぷりの男子生徒である。


「あいつが出てくる前に、どれだけ点数を稼げるかが鍵になるな」

「午前中の女子の綱引きは期待薄だから、男子の棒倒しは絶対勝ってね!」

「いや、それは無理だろ。一丸も出るんだから」

「いい奴だけど、敵になるとめちゃくちゃ恐いよな」


 ほかのクラスだが、実音は一丸とは面識がある。

 宿泊棟を借りる件で話したことがあり、始業式の表彰でもその姿を見ている。彼女が思う彼のイメージは「いい人」だ。


「実音! そろそろ移動しよ!」

「うん、今行く」


 実音は次の綱引きのための準備に入った。









 女子の綱引きは、一年生から三年生が各学年同士で競い、三本同じタイミングで引っ張る。一回戦目と二回戦目の間に場所替えをし、決着が着かなければその位置のまま三回戦目だ。

 男子に見られていることは、この時だけは一瞬忘れる女子。後ろに体重をかけながら一生懸命に綱を引く姿が見所だ。か弱さの欠片もない。

 ただし、この綱引きの勝敗は前日の場所決めジャンケンの時点でほぼ決まっている。なぜなら、僅かだが高低差があるからだ。今年の赤組は不利な位置になってしまった。


 そして現在、予想通り一回戦目は快勝。二回戦目は負け、三回戦目の最中だ。

 どの綱も、白組の方へ持っていかれている。

 二年生の綱は暫く耐えたが、力尽きスルスルと引っ張られてしまった。

 みんな諦めて手を離す。しかし、ひとりだけしがみつく者がいた。海だ。

 彼女は引きづられ、身体のバランスを崩す。やがて豚の丸焼き状態で、背中を地面に擦りつけながら白組の陣地へと運ばれていった。


「海ー!」

「なんで、手、離さんの!」

「いくらなんでも、諦めが悪か!」


 今年の綱引きは白組に軍配が上がった。









 男子の棒倒しは、上半身裸で行う。

 女子たちは、何も思わない者や冷めた目で見る者や凝視する者や逸らす振りをしつつ実は見ている者など様々だ。

 ここで一番の注目を浴びるのは、やはり一丸だ。

 鍛え抜かれた筋肉に、男子も釘づけになる。大護も負けていないが、オーラで違いが出る。

 また、ムキムキではないものの、プリンスも健闘した。彼は最近、毎晩筋トレに励んでいる。「可愛い」と言われることの多いプリンスも、ちゃんと男子だと周りに思わせた。短期間にしては充分の仕上がりだ。


 棒倒しも三回勝負。今のところ引き分けだ。

 といっても、赤組が勝った二回戦目は長期戦でやっと倒せただけで、味方もかなり倒れかかっていた。


「向こうも体力消耗しとるぞ! 次も勝とう!」


 団長がまた鼓舞する。

 それは相手も同じで、加えて一丸というスーパースターの存在が白組に勝つ自信を持たせた。

 三回戦目が開始すると、攻めと守りの担当が自分の役割を全力で遂行しようと奮闘する。


「ねぇねぇ、ヌイヌイ」

「何?」


 サックスの二年生の泓塁希(ふちるいき)は、クラリネットの二年生の縫壱月(ぬいいつき)に試合中にもかかわらず話しかける。彼らは白組の守備担当だ。


「これって、棒を倒した方が勝ちなんだよね?」

「今更?」

「ならさ、俺も倒そうと思うんだ」

「お前、『ここの陣地から出るな』って言われとるだろ」

「でも、出なきゃよかでしょ」

「は?」

「あ、(あさひ)だ!」


 ふたりの目の前には、味方のディフェンスを躱して守備の山を登ろうとする大護。

 気づけば、いつの間にか赤組の精鋭が何人も突破している。


「行ってくる!」

「おい!」


 縫が止めようとしたが、泓は守備の塊から抜けてしまう。そして、なぜか仲間の肩に足をかける。


「まさか!」


 上へと登り棒に手をかけ力を入れる大護。

 そこに、泓が「オッス!」と片手を挙げて現れた。


「泓?」

「せーの!」

「え? え?」


 そして一緒に棒を倒す大護と泓。

 斜めに傾いていた赤組の棒より、速く倒すことができた。

 困惑する大護と喜ぶ泓。

 白組の守備陣からは怒号が飛ぶ。


「ふざけんな!」

「『動くな』って言っただろうが!」

「誰だ! あのバカを解き放ったのは!」


 止めようとした縫は、責任を押しつけられないように下を向いてやり過ごした。


 今年の棒倒しは、白組の活躍で赤組が勝利した。

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