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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
9月

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8.第三十二回定期演奏会 第二部

 第二部では演出の都合上、ステージにある程度のスペースが必要となる。

 そこで、管楽器奏者は客席に対して横に真っ直ぐにセッティングした。通常の弧に描いた配置の場合と違って指揮が見にくいが、これは練習済みである。

 衣装も第一部と第三部はコンクールと同じ格好だが、第二部は下は制服で上は名前を隠した体操着を着用した。黄色いスカーフは首に巻いて、明るい雰囲気を出している。










 オープニングは、有馬咲太郎(ありまさくたろう)がまず勇者の格好で登場した。

 ここで演奏するのは『《◯ンスターハンター》より「英雄の証」』。

 指揮は顧問の(かざり)だ。奏者にもカラフルな照明が当てられ、第一部とガラリと雰囲気が変わる。この曲では、プリンスを中心にホルンパートが狩人らしく猛々しい音を響かせた。

 ほとんどの曲が、ゲームを知らない者でも知っているであろう曲だ。パンフレットで事前に今回のテーマは伝わっており、曲が聴こえた瞬間に観客の劇への期待が高まった。


 襲いかかってくる敵と、激しいバトルをする有馬。そして、倒れる。彼の「勇者」としての出番はここで終わりだ。

 有馬はこの後、奏者として席に着く。逆に、ここから舞台裏で着替えて演者として出演する者もいる。

 演奏したり、演じたり、踊ったり、裏で動いたりと、第二部の部員たちはとにかく忙しい。


 一曲目が終わり登場したのは、クラリネットの二年生の紣谷秀奈(くけやひいな)

 ボロい布切れで作ったような服を着た彼女は、なんとこの劇の主役だ。その役名は「村人D」。

 この話は、勇者との会話もできないような村人Dが魔王を倒しに冒険するストーリーである。









 続いての曲は『《◯ケットモンスター赤・緑》より』。

 指揮は実音(みお)だ。

 冒険に出ることになった「村人D」は、そこで「自称・勇者を育てた師匠」と出会う。この役を演じるのはパーカッションの一年生の吉川桐可(よしかわきりか)だ。

 勝手に「村人D」の師匠となり、戦い方を教える。


 この曲では、動物役の部員たちが可愛いダンスを披露する。振付はダンス係が考案したものだ。

 そして、観客を巻き込んだ演出を加えた。「村人D」と練習試合相手のどちらが勝つのかを、彼らに予想してもらうというものだ。一方的な劇ではなく、より物語に没入してもらうための工夫である。









 次の曲は『《スーパー◯リオブラザーズ》メドレー』だ。

 この曲は、クラリネットだけのアンサンブルで演奏する。


 「村人D」は「王子」と出会う。もちろん、この「王子」はプリンスが演じる。彼は、衣装係の胃甲瑠瑠(いこううるる)が作った重い服を懸命に動かしている。有馬も同様に重い衣装でアクションをこなしていたため、負けるわけにはいかない。

 「王子」は、魔王によってある場所に閉じ込められた「姫」を救出する途中だ。助け出すには特別な鍵が必要で、それを手に入れるために「村人D」は「王子」と共に行動する。

 走ったり、ジャンプしたり、アイテムを取ったり、敵を倒したりと、客席を広く使った演出を行った。


 紣谷以外のクラリネットの部員が演奏するのだが、ここで(うみ)Es(ミ♭)(エス)管のクラリネットという特殊楽器を使用する。これはいつも使うB(シ♭)(ベー)管のクラリネットよりも、少し小さくて高い音が出せるものだ。リヒャルト・シュトラウスが好んだ楽器で、人数の多い団体ではこの特殊管担当が常にいる。普段、大三東(おおみさき)では使わない楽器だが、大掃除の時に見つけてたまに海はこれで遊んでいた。

 海以外が普通に演奏する中、彼女は効果音を担当する。本番ではテンションが上がりすぎてしまい、調子に乗って練習よりも多く効果音を出してしまう。それに合わせて動かなくてはならない紣谷は、この時かなり彼女を恨んだ。

 ただし観客の反応は良く、海が新しいパターンの効果音を鳴らす度に会場が沸き、連続で出すと拍手が起こった。









 苦労して手に入れた鍵で、無事に「姫」が救出される。

 その役を演じるのは実音だ。

 こちらも、衣装係の七種結乃花(さえぐさゆのか)の自信作である特製のドレスを着こなしている。たくさんのレースで見た目はふんわりとしているが、実際はかなり重たく動きにくい。そのリアルお姫様のような姿に、会場中から感嘆の声があがった。


 魔法を使える「姫」が救出されたことを焦った「魔王」が、ここで現れる。

 その「魔王」役はサックスの二年生の泓塁希(ふちるいき)だ。大きなマントを(なび)かせながら歩く彼の演技は、シナリオ係の網田九十九(あみたつくも)の演出指導の真似である。彼女の動きを完璧にコピーした泓は、普段の彼からは想像できないくらい魔王らしい迫力を出している。

 しかし、やはりそこは泓だ。ここでセリフを忘れる。

 演者はマイクをつけているため、小声でもセリフを教えられない。そこで、こんな時のために彼専用のカンペを用意してある。指揮台に立っている造酒迅美(みきはやみ)が、客席に見えないように彼に見せた。

 どうにかピンチを切り抜けることに成功し、泓は持っていた杖で雷を落とす動作をする。


 この攻撃によって、負傷した「自称・師匠」。

 倒すべき「魔王」の恐ろしさを目の当たりにした「村人D」は、ここで自分の命の危機を感じ取る。それでも行かなければならない。

 悩む彼女に、「王子」と「姫」がここで音楽を奏でる。









 この大事な場面で演奏するのは『ザナルカンドにて』。

 プリンスのピアノの独奏から始まり、とても美しく悲しいメロディーが響いた。

 そこにバンドも加わるのだが、あくまで主役はピアノ。そして、実音の吹くオーボエがそのメロディーを引き継ぐ。

 この演出は、網田のこだわりだ。選曲はゲーマの縫壱月(ぬいいつき)と顧問の文で、彼が視聴覚室で泣きながら聴いていたものである。縫の思い入れも強かった。ゲームに疎い実音とプリンスはこのゲームについて、かなりの解説を聞かせられた。

 実音は直前まで演技のために触れられないオーボエのリードが、気がかりで仕方がなかった。乾燥すると音が出ない。だからといって、水に入れっぱなしもできない。楽器本体も冷えてしまっている。タオルで包んでいても、ホールは冷房がよく効いていて心許ない。

 曲の準備に入って、プリンスのピアノのソロの間の僅かな時間でリードを湿らせ、不安な状態でいきなり音を出した。その焦りは誰にも見せていないが、実音は内心では不安でいっぱいだ。こういう演出は、リード楽器にやらせないでほしいと思っている。


 演奏を聴いて、覚悟を決めた「村人D」。

 四人で「魔王」のいる城へと急ぐ。









 ラストの戦いの曲は『MEGALOMANIA』だ。

 何も力のなかった「村人D」が、仲間と協力して最強の敵に挑む。

 聴く者の心拍数も上げるようなこの曲に合わせ、演者たちは激しいアクションを繰り広げる。

 運動神経がない紣谷にとって、ここは一番苦労したところだ。


 そして遂に「魔王」を倒したその時に流れるのは『《◯ルダの伝説ティアーズオブザキングダム》より』。

 壮大なメロディーに、感動的な場面が良く合う。

 平和な世界を手に入れた一行を祝福するかのような演奏を、奏者も心がける。









 今回この劇の主役の紣谷は、シナリオ係の網田から「AじゃなくってDって感じだから」という理由で抜擢された。

 演技経験のない彼女の弱そうな感じは、役にぴったりだった。そして、周りと協力して試練を乗り越えていく様は、実音が入部したばかりの時の紣谷と重なった。

 結果として、かなり現実とリンクした冒険譚となったのだった。









 最後は、カーテンコールだ。

 曲は『《◯ラゴンクエスト》より』。指揮は再び文だ。

 奏者は、スタンドプレイを入れた演出で演奏する。

 また、曲に合わせてこの劇に出演した者がステージ上で軽く踊って、観客にお辞儀をする。

 「勇者」の有馬は、吹くことを優先してここは出ていない。だが、演者として前に出たい気持ちもあった。

 曲の終わりには出演者が一列に並び、もう一度礼をした。

 それから、緞帳(どんちょう)が下りきるまで手を振り続ける。演奏会はまだ終わっていないが、劇が終了したことを表すためにここで下ろしている。


 こうして、第二部も終えることができた。

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