8.第三十二回定期演奏会 第二部
第二部では演出の都合上、ステージにある程度のスペースが必要となる。
そこで、管楽器奏者は客席に対して横に真っ直ぐにセッティングした。通常の弧に描いた配置の場合と違って指揮が見にくいが、これは練習済みである。
衣装も第一部と第三部はコンクールと同じ格好だが、第二部は下は制服で上は名前を隠した体操着を着用した。黄色いスカーフは首に巻いて、明るい雰囲気を出している。
オープニングは、有馬咲太郎がまず勇者の格好で登場した。
ここで演奏するのは『《◯ンスターハンター》より「英雄の証」』。
指揮は顧問の文だ。奏者にもカラフルな照明が当てられ、第一部とガラリと雰囲気が変わる。この曲では、プリンスを中心にホルンパートが狩人らしく猛々しい音を響かせた。
ほとんどの曲が、ゲームを知らない者でも知っているであろう曲だ。パンフレットで事前に今回のテーマは伝わっており、曲が聴こえた瞬間に観客の劇への期待が高まった。
襲いかかってくる敵と、激しいバトルをする有馬。そして、倒れる。彼の「勇者」としての出番はここで終わりだ。
有馬はこの後、奏者として席に着く。逆に、ここから舞台裏で着替えて演者として出演する者もいる。
演奏したり、演じたり、踊ったり、裏で動いたりと、第二部の部員たちはとにかく忙しい。
一曲目が終わり登場したのは、クラリネットの二年生の紣谷秀奈。
ボロい布切れで作ったような服を着た彼女は、なんとこの劇の主役だ。その役名は「村人D」。
この話は、勇者との会話もできないような村人Dが魔王を倒しに冒険するストーリーである。
続いての曲は『《◯ケットモンスター赤・緑》より』。
指揮は実音だ。
冒険に出ることになった「村人D」は、そこで「自称・勇者を育てた師匠」と出会う。この役を演じるのはパーカッションの一年生の吉川桐可だ。
勝手に「村人D」の師匠となり、戦い方を教える。
この曲では、動物役の部員たちが可愛いダンスを披露する。振付はダンス係が考案したものだ。
そして、観客を巻き込んだ演出を加えた。「村人D」と練習試合相手のどちらが勝つのかを、彼らに予想してもらうというものだ。一方的な劇ではなく、より物語に没入してもらうための工夫である。
次の曲は『《スーパー◯リオブラザーズ》メドレー』だ。
この曲は、クラリネットだけのアンサンブルで演奏する。
「村人D」は「王子」と出会う。もちろん、この「王子」はプリンスが演じる。彼は、衣装係の胃甲瑠瑠が作った重い服を懸命に動かしている。有馬も同様に重い衣装でアクションをこなしていたため、負けるわけにはいかない。
「王子」は、魔王によってある場所に閉じ込められた「姫」を救出する途中だ。助け出すには特別な鍵が必要で、それを手に入れるために「村人D」は「王子」と共に行動する。
走ったり、ジャンプしたり、アイテムを取ったり、敵を倒したりと、客席を広く使った演出を行った。
紣谷以外のクラリネットの部員が演奏するのだが、ここで海はEs(ミ♭)管のクラリネットという特殊楽器を使用する。これはいつも使うB(シ♭)管のクラリネットよりも、少し小さくて高い音が出せるものだ。リヒャルト・シュトラウスが好んだ楽器で、人数の多い団体ではこの特殊管担当が常にいる。普段、大三東では使わない楽器だが、大掃除の時に見つけてたまに海はこれで遊んでいた。
海以外が普通に演奏する中、彼女は効果音を担当する。本番ではテンションが上がりすぎてしまい、調子に乗って練習よりも多く効果音を出してしまう。それに合わせて動かなくてはならない紣谷は、この時かなり彼女を恨んだ。
ただし観客の反応は良く、海が新しいパターンの効果音を鳴らす度に会場が沸き、連続で出すと拍手が起こった。
苦労して手に入れた鍵で、無事に「姫」が救出される。
その役を演じるのは実音だ。
こちらも、衣装係の七種結乃花の自信作である特製のドレスを着こなしている。たくさんのレースで見た目はふんわりとしているが、実際はかなり重たく動きにくい。そのリアルお姫様のような姿に、会場中から感嘆の声があがった。
魔法を使える「姫」が救出されたことを焦った「魔王」が、ここで現れる。
その「魔王」役はサックスの二年生の泓塁希だ。大きなマントを靡かせながら歩く彼の演技は、シナリオ係の網田九十九の演出指導の真似である。彼女の動きを完璧にコピーした泓は、普段の彼からは想像できないくらい魔王らしい迫力を出している。
しかし、やはりそこは泓だ。ここでセリフを忘れる。
演者はマイクをつけているため、小声でもセリフを教えられない。そこで、こんな時のために彼専用のカンペを用意してある。指揮台に立っている造酒迅美が、客席に見えないように彼に見せた。
どうにかピンチを切り抜けることに成功し、泓は持っていた杖で雷を落とす動作をする。
この攻撃によって、負傷した「自称・師匠」。
倒すべき「魔王」の恐ろしさを目の当たりにした「村人D」は、ここで自分の命の危機を感じ取る。それでも行かなければならない。
悩む彼女に、「王子」と「姫」がここで音楽を奏でる。
この大事な場面で演奏するのは『ザナルカンドにて』。
プリンスのピアノの独奏から始まり、とても美しく悲しいメロディーが響いた。
そこにバンドも加わるのだが、あくまで主役はピアノ。そして、実音の吹くオーボエがそのメロディーを引き継ぐ。
この演出は、網田のこだわりだ。選曲はゲーマの縫壱月と顧問の文で、彼が視聴覚室で泣きながら聴いていたものである。縫の思い入れも強かった。ゲームに疎い実音とプリンスはこのゲームについて、かなりの解説を聞かせられた。
実音は直前まで演技のために触れられないオーボエのリードが、気がかりで仕方がなかった。乾燥すると音が出ない。だからといって、水に入れっぱなしもできない。楽器本体も冷えてしまっている。タオルで包んでいても、ホールは冷房がよく効いていて心許ない。
曲の準備に入って、プリンスのピアノのソロの間の僅かな時間でリードを湿らせ、不安な状態でいきなり音を出した。その焦りは誰にも見せていないが、実音は内心では不安でいっぱいだ。こういう演出は、リード楽器にやらせないでほしいと思っている。
演奏を聴いて、覚悟を決めた「村人D」。
四人で「魔王」のいる城へと急ぐ。
ラストの戦いの曲は『MEGALOMANIA』だ。
何も力のなかった「村人D」が、仲間と協力して最強の敵に挑む。
聴く者の心拍数も上げるようなこの曲に合わせ、演者たちは激しいアクションを繰り広げる。
運動神経がない紣谷にとって、ここは一番苦労したところだ。
そして遂に「魔王」を倒したその時に流れるのは『《◯ルダの伝説ティアーズオブザキングダム》より』。
壮大なメロディーに、感動的な場面が良く合う。
平和な世界を手に入れた一行を祝福するかのような演奏を、奏者も心がける。
今回この劇の主役の紣谷は、シナリオ係の網田から「AじゃなくってDって感じだから」という理由で抜擢された。
演技経験のない彼女の弱そうな感じは、役にぴったりだった。そして、周りと協力して試練を乗り越えていく様は、実音が入部したばかりの時の紣谷と重なった。
結果として、かなり現実とリンクした冒険譚となったのだった。
最後は、カーテンコールだ。
曲は『《◯ラゴンクエスト》より』。指揮は再び文だ。
奏者は、スタンドプレイを入れた演出で演奏する。
また、曲に合わせてこの劇に出演した者がステージ上で軽く踊って、観客にお辞儀をする。
「勇者」の有馬は、吹くことを優先してここは出ていない。だが、演者として前に出たい気持ちもあった。
曲の終わりには出演者が一列に並び、もう一度礼をした。
それから、緞帳が下りきるまで手を振り続ける。演奏会はまだ終わっていないが、劇が終了したことを表すためにここで下ろしている。
こうして、第二部も終えることができた。




