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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
9月

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1.東京からまたひとり

 夏休みが明けた校舎には、大きな垂れ幕が掛かっていた。それを見上げるのは、ひとりの女子生徒だ。


「はーやみん! おはよっ!」

「……おはよう、(うみ)。朝から元気だね」

「何見とったと?」

「あれ。今年も立派なの掛けてもらって、羨ましいなぁって」

「あー」


 学生指揮者の造酒迅美(みきはやみ)の視線の先にある垂れ幕には、「祝! 男子バスケ部全国大会出場!」と書かれてあった。

 学校自慢のバスケ部は地元の誇りでもある。その立派な成績を堂々と掲げてもらっている。


「いいなぁー。吹奏楽部(吹部)だって、今までで一番の成績だったんよ。一緒に掛けてくれてもよかよね!」

「そこまでの予算があればね。まぁ、ほら。小さくても祝ってはくれちょるよ」


 造酒は掲示板を指差す。

 そこには「祝! 吹奏楽部県大会金賞受賞!」と書かれたプリントが貼ってあった。


「いつの間に!? てか、ちっさ!」


 そのプリントの横には「生徒会だより」や「天文部主催! 星空観測会のお知らせ」もある。

 そして、掲示板の隣には看板が立て掛けてあり、そちらには「祝! 女子バスケ部九州大会出場!」と書かれていた。


「ダメ金じゃなかったら、わたしたちも看板作ってもらえたのかな?」

「そうかもね」

「ばってん、どうせなら垂れ幕がよか! 来年は、ドドンッと目立つ場所に掛けてもらおうね!」

「お! 言ったね。さすが部長!」

「えっへん!」


 朝練のために校舎に入る海。

 造酒も同じく中へ入ろうとしたが、その前にもう一度男バスの垂れ幕を眺めた。


(どんどん遠くに行っちゃうなぁ)


「はやみん?」

「あ、うん。今行く!」


 振り返った海に名前を呼ばれ、造酒は急いで駆けていった。









 今日は始業式がある。

 朝練が終わった海たちは、体育館に集まって整列した。

 そこで海は、担任に連れられて最後尾に立っているブレザー姿の男子に気づいた。

 大三東(おおみさき)高校の男子の制服は学ランだ。そのため、ひとりだけ浮いている。しかもその彼は背も高く、また顔は整っていてイケメンだった。


「ねぇねぇ、実音(みお)。男子の列の後ろにおるの、誰?」


 前にいた実音に尋ねるが、彼女も知るはずがない。


「さぁ? 転校生じゃない?」

「転校生! 実音に続いて、またこのクラスに来るなんてラッキーだね!」

「あの制服……たしか、都内の偏差値七十はある高校のだよ」

「そうなの!? っていうか、東京なんだ!」

「結構有名。進学校で私も行こうか迷った学校だから、見たことある」

「そんな頭よか所と迷っとったの? え? こんな高校に来て大丈夫?」

「学校は偏差値が全てじゃないもん。方南(ほうなん)にしたのは、まあまあの偏差値で部活が強かったからで、大三東にしたのは制服があったから。自然があって、私は大三東の方が好きだよ。セーラー服、可愛いし」


 実音はスカートを摘んでそう言うが、スカートの丈は長めだ。

 せっかく綺麗な細い足があり、もっと短くすれば良いと海はいつも思う。しかし、真面目な実音は絶対に膝上にしない。


「あの男の子はなんで来たのかな? 親の転勤とか?」

「どうだろうね」


 ほかの生徒たちも、その転校生の彼が気になるようだ。

 周りの男子と比べてクールで、実音と同じようにまるで芸能人のような容姿。視線を浴びるのは無理もない。


 始業式が始まると、校長の長い話や生徒会からのお知らせがあった。

 それらを終えると、次は表彰式だ。

 夏休みの間にあった大会で得た成績について、表彰される。


 吹奏楽部は毎年銅賞でも壇上に立つ。今年も前部長の本多永世(ほんだながせ)が代表で、校長から賞状を受け取った。

 去年の始業式の後、海はクラスメイトから「銅賞なんだね。おめでとう!」と言われた。中学でも同じことがあったが、よく「銅賞=三位」という誤った認識をされてしまう。それを訂正する度に、お互い気まずくなったものだ。

 だが、今年は「金賞」。受け取った本多は、コンクールの時よりも晴々とした表情で壇上に立っている。海も誇らしかった。


 最後に表彰されたのは、男子バスケットボール部。

 「全国大会ベスト十六」の結果を出した部活だ。間違いなく、大トリに相応しい。

 それを見ている全校生徒も、男バスのレギュラー陣が壇上に全員並ぶと、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。それほどまでに、オーラが凄まじいのだ。

 全員揃って一礼する彼らは、とても礼儀正しい。また、坊主頭で見た目は恐いが、素行が良い。そんなところが、地元でも愛される理由だろう。









 始業式が終わって教室に戻ると、担任が転校生と共に入ってきた。


「今学期から、またクラスメイトがひとり増えることになった。みんな、いろいろ教えてあげような」


 そして黒板に名前を書き、彼に自己紹介をするように促した。それに転校生は、緊張する様子を見せずに口を開けた。


東柊(あずましゅう)です。よろしく」


 たったそれだけ言うと「これで終わり」というように黙ってしまう。

 仕方なく、担任がフォローしてあげた。


「えっと、東は東京から来たんだ。雅楽川(うたがわ)と一緒だな。あー、東の席あの後ろの席な。その斜め前が雅楽川だ。同じ東京もん同士、仲良くしろよ」


 席を教えてもらい、東は表情ひとつ変えずにその場所へと向かう。

 彼が入ってきた時から、クラスの女子の多くが頬を赤らめていた。海もそのひとりで、あまりにも顔のレベルが高い男子の登場に目が離せなかった。


「よろしくね」


 席に着いた東に声をかける実音。

 ほかの女子たちみたいに浮かれることはなく、担任から紹介されてしまったため一応挨拶だけはしておいた。


「ああ」


 東も一瞬だけ実音を見たが、すぐに鞄の置く位置を確かめたりした。彼女に興味はなさそうだった。

 実音の容姿を見て、そんな態度をする男子は珍しい。だから、そのふたりのやり取りにクラス中が衝撃を受けた。


「東京って、あのレベルが普通なの?」

「顔面偏差値、高すぎ!」

「あのふたりの空間だけ、別世界だよね」


 後ろを振り返った大護(だいご)もそのひとりだ。

 転校生が実音に対して一目惚れしないのは安心だが、みんなの言うように、ふたりだけ自分たちと雰囲気が異なっていることに少しだけモヤモヤしていた。









 休み時間になると、東は女子たちから質問攻めにあった。


「東京のどこから来たの?」

「島原へは、お父さんの転勤で?」

「今はどこから通っとるの? もしよかったら私と一緒にーー」

「ちょっと、抜けがけはダメ!」


 ほかのクラスの生徒も、廊下から覗き込んでいる。しかし東本人は、無視をして何も答えようとしない。

 実音の時は、男子たちがモジモジしていたため、あまり質問攻めにならなかった。やはり、こういう時の女子にはパワーがある。とてもエネルギッシュだ。


「海?」

 

 実音はぼーっと東を見ている海に声をかけた。

 真っ先に中心で質問していそうな彼女が、今は席でおとなしくしている。


「……」


 名前を呼ばれたことに気づかない海。

 大護もそんな幼馴染の異変を感じ取った。


「海、頭でも打ったか?」


 彼女の目の前に未開封のパンを置くが、反応はない。


「重症だ!」


 いつもの海なら「これ、食べてよか?」と言って、許可をもらう前に袋を開けているはずだった。


「ねぇ、大護君。ひょっとしてこれって」

「マジか!」


 考えられる原因はひとつしかない。

 実音と大護は、海の目線の先を辿る。そこにいるのは転校生の東だ。


「確かに、漫画に出てきそうだもんな。それにしても、わかりやすすぎるだろ」


 大護は自分のことは棚上げしている。

 彼の実音に対する態度も相当である。ただし、本人に伝わっているかは微妙だ。


「そっか。海って、ああいうのがタイプなんだね。恋する海、可愛いね」


 実音が大護に同意を求めてきた。

 それに彼は適当に相槌を打つ。大護にとっては、実音の全てが可愛い。幼馴染のことは心配だが、海に対して「可愛い」と一度も思ったことがない。


「それよりも、今度の文化祭だけど……」


 さらっと話題を変える大護。

 文化祭の自由時間で、実音と回るのが彼の目標だ。


「うん。吹奏楽部(吹部)の演奏、楽しみにしててね」

「あ……うん」


 しかし、実音は部活のことを訊かれたと思い、的外れなことを言う。


定期演奏会(定演)とは違う曲やるから大変だけど、大護君も知ってる曲だと思うよ」

「お、おう」


 海も大護も、高校生らしく恋をしている。

 だが、どちらも成就は難しそうだった。

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