表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
8月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/322

13.はなだごさん

風除祭(かぜよけさい)?」

「そ! 今日あるの」


 九州大会の視察で刺激をもらって、気合いの入っていた(うみ)

 そんな彼女から、実音(みお)はお祭りがあることを聞かされた。


「台風の被害が出んように、みんなで神様にお願いするんよ。知らんの?」

「初めて聞いた」

「そう? 各地であるみたいなんだけどなぁ」

「まぁ、私たちは練習あるからね。お祭りは行けないよ」

「何言っとるの! 行くよ!」

「え?」

「これは縁起もんだから! 去年も参加したし。ねぇ、ブンブン?」


 すると、顧問の(かざり)が現れた。

 いつもはヨレヨレのワイシャツだが、今日はTシャツにジャージのズボン姿だ。


「去年は知らないで外出ちゃったからね。今年は準備万端だよ」

「お! それなら安心だね。わたしたちも既にジャージやけん、バッチリ!」

「え? お祭りなんでしょ?」

「そうだよ? 汚れるけん、セーラー服じゃダメね。ま、行けばわかるよ」









 部活を中断して全員で外に出ると、近所の住民たちもみんな家から出ていた。


「まだ来てなかね」

「来てないって、御神輿?」

「うん。あと、はなだごさん」

「はなだごさん?」

「実音ちゃんは初めてだもんね。見たらビックリすると思うよ」

「そうだな」

 

 初めて聞く言葉に実音が首を傾げていると、クラリネットの紣谷秀奈(くけやひいな)縫壱月(ぬいいつき)がふたりの会話に加わった。縫はスマホを見ている。

 

「『鼻ダゴ』って天狗のお面をつけててね、みんなに『ヘグロ』っていう墨を塗っていくの。それで邪気を払うんだよ」

「猿田彦神のことみたい。御神輿の先を歩くのも、猿田彦神が神様の道案内をしていたかららしい。ほかの地域でも風除祭はあるばってん、『鼻ダゴ』は大三東(おおみさき)含めて一部だけだって」


 スマホで調べた情報を教えてくれる縫。

 今年初参加の一年生もその話を聞いている。よくわからずにみんな連れてこられた。


「ちゃんと準備運動せんとね」


 海は足を中心に、ずっとストレッチをしている。まるで、これから運動会でもあるかのようだ。


「キャー!」

「わー!」

「イヤー!」


 その時、遠くから子供たちの叫び声が聞こえた。

 何事かと思い、実音や一部の一年生はキョロキョロする。しかし、ほかの二年生や大人たちはニコニコしており、近くにいる幼い子供は親にしがみついた。


「もうすぐだね。今年は負けん!」

「神様が来るんだよね?」

「うん」

「なんで叫び声が聞こえるの?」

「そりゃ、鬼ごっこだもん」

「鬼ごっこ?」


 海の言っていることと、さっき紣谷と縫から聞いた情報が結びつかない。

 子供たちの悲鳴はどんどん大きくなってくる。


「あ、来た!」

「え!」


 そして姿を見せたのは、榊の枝を持って子供たちを全力で追いかけるふたりの天狗だった。

 ひとりは細マッチョ、もうひとりはゴリマッチョ。逃げる子供を捕まえては、その顔に墨を塗っていく。


(恐っ!)


「これがあると、夏休みももう終わりだなぁって思うよね。スピード自慢がやるけん、自転車に乗っても平気で追いかけてくるよ。いつも速くて負けちゃうの。それに今年のはなだごさんはーー」


 ひとりの鼻ダゴと目が合う海。


「見つかった!」


 ジャンプして、細マッチョに向かって挑発した。

 鼻ダゴは神様。見下ろしてはいけない。


「待てゴラァー!」


 それまで無言で追いかけていたその鼻ダゴが、突如声をあげて海に向かって走ってきた。


「ギャー!」


 ものすごいスピードの鼻ダゴから逃げる海。

 悲鳴をあげるが、顔は嬉しそうだ。


「神様怒らせちゃダメでしょ」


 紣谷は呆れつつも、遠くまで走っていく海を目で追った。


「あれ、いつまで持つかな。海も足は速い方だけど」


 残されたもうひとりの鼻ダゴは、道で塗られるのを待っていた住人たちに優しく墨をつけてあげる。

 逃げなければ、基本優しい。抱っこされた赤ん坊も、泣きながら塗られている。

 やがて、実音たちの元にもやってきた。


「墨汁だから、去年はシャツについちゃって大変だったんだよ」

 

 そう言って、文は腕を出している。

 鼻ダゴはちゃんとその腕に触ってあげた。ほかの部員たちの顔も黒くしていく。


「あんまつけないでよね!」


 オシャレ女子の頴川紅(えがわべに)は、相手が神様であろうと、自分の見た目を優先する。そのため、鼻ダゴも目立ちにくい彼女の掌に、チョンと小さくつけた。


「わ、私は……」


 隣にいたふわふわ女子の七種結乃花(さえぐさゆのか)は、文化祭の準備をした時に海から今年の鼻ダゴの中の人を聞いていた。

 彼女は「顔につけても大丈夫」と言おうとしたが、頴川と同じにした方が良いのだろうと勝手に思った鼻ダゴによって、同じく掌に少しだけつけられた。


「いっぱいつけて!」


 その後の泓塁希(ふちるいき)が元気にお願いしたことで、それからはたっぷりと塗っていく。


「キャー! プリンスになんてことを!」

「やめてー!」

「国宝級の顔を汚すなんて、信じられん!」


 みんなと同じように塗られたプリンスを見て、女子たちの悲鳴が飛んだ。

 実音の番になると、鼻ダゴはその頬にベタッと手で触れた。その触れ方に、実音は覚えがあった。


「……大護(だいご)君?」

 

 実音が名前を呼ぶと、鼻ダゴが面を取った。


「実音!」


 ゴリマッチョの鼻ダゴの正体は、大護だった。


「この面、視界悪くて……。ほとんど見えんかった。思いっきりつけちまったな。ごめん」


 実音は自分の見た目がどうなっているかわからなかったが、別に気にしていない。

 それよりも、神様の正体に驚いている。


「ううん、大丈夫。野球部、今部活中じゃなかった? さっき、グラウンドにいたけど」

「こっち優先で、今日は抜けてきたんだ。もうひとりから指名されて。あ、戻ってきた」


 海が走っていった方から、細マッチョの鼻ダゴがこちらに帰ってきた。

 その後ろには、顔中真っ黒になった海と同じくたっぷり墨で汚れた子供たちを引き連れている。


「この視界で、よく海に気がつくよな。さすが兄貴」

「あれって、(りく)さん?」

「そ! 今年も海は鼻ダゴから逃げられんかったか。ああやって、捕まった子供は鼻ダゴの後ろについて仲間の居場所を教えるんだ。まるで子分だな」


 実の兄に捕えられた海は、かなり息を切らしていた。体力自慢の彼女がそうなるほど、かなり遠くまで走ってきたのだとわかる。


「お! 実音ちゃんだ。結構つけられたね」


 面を取って現れた音和(おとなぎ)陸は、満面の笑みだった。妹に勝てた嬉しさがよく伝わる。


「この間は、泊めていただきありがとうございました」

「また、いつでもおいで。これ返すな。あとはよろしく」


 陸は海を子分たちの中からつまみ出すと、また子供たちを連れてほかのターゲットを探しに行った。


「おかえり」

「ただいま。あー、悔しい! 小さい時はね、あれ、やっちゃ(すごく)恐かったの。保育園の中にまで入ってくるんだよ。もうトラウマよ。ばってん、中身は人間ってわかってからは毎年鬼ごっこしとる。一回も勝てんのよ。あ、その鼻、触るといいことあるんだって」


 海は、大護が持っている天狗のお面の鼻に触れた。それを実音にも促す。少し躊躇してから実音も触ってみる。

 その時、野球部員がぞろぞろやってきた。


「お疲れ、大護!」

「塗ってくれ!」

「お願いします!」


 大護はお面を再び装着し、墨汁を手に垂らした。


「おう! 今行くけん、一列に並べ! じゃあな、実音!」

「うん」


 大護が野球部の方へ行ってしまうと、海はまた兄に勝負を挑もうと足を伸ばした。


「さっきより疲弊しとるかもだし、行ってくる!」


 懲りない海は、呆れる実音を残して駆け出していった。

 すると今度は隣にプリンスが現れた。


「あの人ですか?」

「え?」

「デートの相手です」

「だから、デートじゃないってば」

「でも、行ったのはあの人の家ですよね?」

「……そうだよ」

「……そうですか」


 自分とは全く違うタイプで、プリンスはショックを受けていた。

 しかし、実音と話している時の大護がそれほど悪い人間には見えなかった。むしろ、性格は良さそうだと思った。


「……そうですか」


 もう一度同じ言葉を言うプリンス。それ以上、何も話せそうになかった。


 鼻ダゴのふたりが去っていくと、後ろから御神輿が実音達の前を通る。

 「センザイ! マンザイ!」と掛け声をかけながら、担がれる御神輿。

 本来なら今は部活中。それは忘れていないが、実音は初めての風除祭を楽しんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ