3.八月九日
昭和二十年八月九日、午前十一時二分。
長崎に原子爆弾が投下された。
長崎県では八月九日を「県民祈りの日」としている。
犠牲者へのお祈りだけでなく、この先の平和をずっと誓うためのもので、全県民が一分間の黙祷を捧げる。
実音は原爆資料館へ行ったことがある。
まだ幼い頃のことだったが、その時見たものはずっと記憶に残っている。戦争については、それまで習ったことはなかった。そこで初めて、彼女は平和ではない世界を知った。
親戚の家に行くと、みんなおしゃべりをして楽しんでいた。
しかし、投下された時間になると大人たちがそれを止めた。目をギュッと瞑って、手を組んでいる。
それに倣って、実音も固く目を閉じた。
実音の曽祖母は、元々長崎市に住んでいた。
だが、市街地は危ないという噂があり、熊本の田舎へと小さな子供たちと共に避難した。だから原爆の被害には遭わなかった。
そして、終戦後は南島原へと移り住んだ。
その曽祖母の行動がなければ、今、実音はここに存在していなかったかもしれない。




