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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
7月

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13.あちこちで作業は続く

 定期演奏会の第二部では、衣装や道具にも力を入れる。しかし、予算は限られている。だから、それぞれの係はできるだけ値段を抑えてハイクオリティな物を作ろうと努力した。

 

 道具係は、小さな物から大きな物までとにかく作る。シナリオ係やダンス係から要望があれば、それを断ることは許されない。

 この係の中心は二年生のチューバの万屋善光(まんやよしみつ)で、オーダーに合った道具のイメージ図を描いてから、必要な材料を買いに行ったり部員たちの家から持ってきてもらった。

 今回は「立派な城」を作ってほしいと言われた万屋。みんなから「便利屋」と呼ばれている彼は、どんなに無茶な願いも叶えてみせる才能があった。タオルを首にかけ、汗を流しながら真剣に取り組んだ。

 だが、そんな彼の作業を邪魔する存在がいた。


「便利屋ー! これ、細かく切り分けてよかか? これでなにか作ろうと思ってさ」

「やめてー、(ふち)君! それ、お城の大事なパーツだから! 使って大丈夫なのはこっちだよ。書いてあるはずなんだけど」

「ん? あ、本当だ。すまんね」


 サックスの泓塁希(るいき)は言われた場所から適当に端材を取ると、スキップしながらどこかへ消えてしまった。

 泓は作るのが上手いというわけではない。逆に壊す方が得意だ。そんな彼を押しつけられた道具係は、いつ誤って破壊されないかとヒヤヒヤしながら作業を進めるのだった。









 一方、こちらは衣装係。

 フルートの二年生の七種結乃花(さえぐさゆのか)がリーダーとなり、被服室のミシンを借りて衣装を手作りしている。

 七種は前部長の本多永世(ほんだながせ)のように、見た目がふわふわとしており女の子らしい。特技の裁縫の技術を活かし、キャラに合った可愛らしい衣装を作り上げる。


「ゆのん、それキラキラしすぎだと思うんだけど」


 七種が今手掛けているのはお姫様の衣装だ。レースをたくさん使って、全体のボリューム感を出している。


「えー、そう? 可愛いよ?」

「そうだけど動きにくそうだよ?」

「んー? 大丈夫、大丈夫」 


 なんの根拠もない台詞を言う七種。

 彼女は作りたい物を作る。シナリオ係のオーダーが可愛くないと思ったら、それを平気で無視する。だから、度々揉める。特に彼女の作った衣装を着る演者とはよく言い争うことがある。彼女は実はかなりこだわりの強い頑固者だった。


「後でまたバトっても知らんよ」


 そう言うのは、チューバの二年生の胃甲瑠瑠(いこううるる)。背の高い、根暗な女子である。

 彼女が担当しているのは勇者と王子様の衣装だ。

 胃甲はかっこいい衣装を作るのが好きで、重厚感や勇ましさを表現することをいつも意識している。したがって、彼女が製作した衣装も見た目重視で動きにくい。いくら文句を言われても、改善するつもりは全くない。それは着る側の問題だと思っている。


 衣装係は、全部を手作りするわけではない。

 部員たちの家に眠る服を借りて、それを組み合わせたりアレンジを加えることもある。そのため、今回もたくさんの服を集めた。

 その際、なぜか実音(みお)も加わりいらないカーテンをもらえないかと全員に訊いていた。何枚か集まったそれを、実音は大事そうに保管した。


「今は使わないけど、そのうちね。その時は裁縫のお手伝いをしてもらうかもしれないから、よろしくね」


 そしてその中から、使わない物を衣装係に渡してくれた。


「明日には演者が試着したいって言っとるけん、みんな仮縫いだけでも終わらそうね」

「あー、もう! こんな中途半端じゃダメだ!」


 七種はほかの衣装係に声をかけて、胃甲はイライラしながら急いで作業を進めるのだった。









 今は夏休み。

 しかし、ほかの部活の生徒たちも登校している。理由は様々だが、多くは文化祭のためである。夏休み明けの九月にあるイベントに向け、部活や補習のついでに生徒たちは教室で作業をした。

 吹奏楽部も、練習があるがその後に時間を見つけて顔を出すようにしている。それは単純に準備のためであったり、定期演奏会の宣伝のためであったり、道具や衣装で使えそうな物の余りをもらうためである。

 大抵文化祭後に出るゴミは普通の生徒にとっては本当に要らない物だが、万屋や七種たちからすれば宝の山だ。予算が少ないため、こういう時にもらえる物はもらっておいた方が良い。


 (うみ)はこの日の練習後、自分のクラスに行ってみることにした。

 するとほとんど進んでおらず、何人かの女子が文句を言いながら作業をしていた。


「おっつー!」


 元気良く入ってきた海を見て、クラスメイトたちはパッと笑顔になった。


「あ、海!」

「元気しとった?」

「てか、そんなに終業式から経ってなくない?」


 キョロキョロと教室内を見回し、海は実行委員に尋ねる。


「ねぇねぇ、これしかおらんの? ほかは?」

「みんないろいろ理由つけて来んのよ。暇じゃないのはこっちも同じだっての!」

「それは酷いね。わたしもそのひとりだけど」

「ばってん、来てくれたでしょ。海はマシ。ほかの吹奏楽部(吹部)は?」

「ゆのんは、明日までに仕上げなくちゃならん衣装があるって。実音はいつも忙しいもん。あの子の代わりは誰もできんし、仕方なかよ」

「ふーん。じゃあ、雅楽川さんが部長?」

「え? あー、えっと……部長はわたし」

「……」


 そこで黙る友人。

 その沈黙には「この子が部長で吹奏楽部(吹部)は大丈夫なの?」という意味が込められている。


「え、なして黙ると!?」

「ううん。びっくりしただけ。気にせんでよかよ」

「そう? 男子は誰も来とらんの?」

「全然だよ。昨日(あさひ)が野球部を連れてきたばってん、あいつ以外使い物にならんかった」

「そうなんだ」


 すると、もうひとり教室に入ってくる気配がした。


「お疲れ!」

「あれ、実音? こっち来て大丈夫なの?」

「うん。明日の練習の予定はバッチリ。クラスのことずっと心配だったの。遅くなってごめんね」


 実音はクラスメイトの女子たちに謝った。

 あまり授業以外は教室にいない彼女に話しかけられて、クラスメイトたちは少し緊張した。


「別によかよ。来てくれてありがとう」

「雅楽川さんって器用そうやけん、助かるよ」

「この道具、好きに使って」


 実音に軽く説明し、みんなその仕事ぶりに期待した。

 だが、実音の手つきは危うい。怪我するのではないかと、みんなハラハラしてしまう。

 そして本人にとっては自信作が出来上がり、それを海たちに見せた。しかし、それは酷い有様だった。


「なんていうか……ねぇ?」

「個性的?」

「独創的とも言うね」

「ここははっきり言おう! 実音、気持ちだけで大丈夫だよ」

「……」


 海はいつかの実音のように、オブラートに包まずにそう言った。

 少しシュンとなる実音が、また可愛らしい。

 美術の才能が全くない彼女に、クラスメイトは笑ってそのやる気だけは受け取った。


「ばってん、このままじゃ間に合わんよね」


 実行委員が嘆いていると、海はあることを思いついた。


「実音、こっち向いて」

「へ?」


 海は道具を持っている実音の姿を写真に収めると、それを来ていないクラスメイト全員にメッセージつきで送信した。


「何したの?」

「実音も文化祭の準備をしに来とるって教えたの。きっと、明日には男子が来るよ。そうしたら、実音が言っとった男子にチケットを売りつけられるし、一石二鳥だね!」


 海にしてはなかなかの案である。それを実音だけが疑った。


「そんなことで来るかな?」

「来るって、絶対!」


 海の言うとおり、次の日から部活のないほとんどの男子が顔を出しに来た。

 しかし、彼らの目的の実音は来ていない。来ても何も作ることができないため、実行委員から部活に集中するように言われたのだ。

 残念がる男子に、代わりに来ている海とほかの女子たちで「もしかしたら実音がまた来るかも」と嘘を言って、その場に留めさせた。その中に大護(だいご)もいたが、海はこっそり彼にだけは本当のことを伝えてあげた。

 この結果、予定よりも早く作業は進んだ。そして、海も何人かの男子にチケットを売りつけることに成功した。

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