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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
7月

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10.裸で語り合いたい!

 涙のコンクールから一夜明け、(うみ)は幼馴染の家に遊びにきていた。


「海、お前今日部活は?」

「一日休み。自主練も今日はダメだって。ちゃんと休むようにって、保護者会から言われたらしいよ」

「ふーん」


 サッカー部が練習試合でグラウンドを使う予定で、野球部もこの日は休みだ。

 その辺にあった漫画を読んで、ゴロゴロする海。幼い頃からよく見る光景のため、大護(だいご)も気にしていない。

 

「……わたし、部長になった」

「……お互い責任重大だな。てっきり、実音(みお)がなるかと思った」


 唐突に告げられた報告に、大護は一瞬だけ間が空いた。驚きはしたが、それを顔には出さずに返す。


「実音は学生指揮者。わたしより忙しそうな役職だよ。専門知識がいるけんね。部長より権限強いかも」

「それはお前には無理だな」

「うん、そう思う。……大護はどうしとる?」

「どうって?」

「何か、主将として考えたりした?」

「考えた。ばってん、頭悪か。何も浮かばん」

「わたしも」

「……」

「……」


 久しぶりに大護の家に上がり込んだ海。きっと、何かヒントでももらおうと彼女は思って来たのだと、彼は気づいた。ほぼ空っぽの脳で、必死に悩んでいるのが伝わった。


「実音は? 何か言っちょらんのか?」

「だって、実音はひとりでなんでもできちゃうもん。いろいろ背負いすぎ。だから、これ以上負担をかけんで済むようにしたい。部長にしかできんことってなんだろうね?」

「さぁな。野球部は、特になんも変わらん。去年と同じ練習をしとる」

「……それで上手くなる?」


 真顔で訊いてくる海に、大護は虚をつかれた。


「痛いとこつくなぁ」

「そういえば、実音が言っちょったよ。前に、野球部がどうやったら勝てるようになるのかって訊いた時」

「なんて?」

「野球は詳しくないからわかんないって。野球応援も、コンクールメンバー以外の金管がメインで行くらしくって、実音は行かなかったんだって。方南(ほうなん)って野球も強いのに、もったいなかね。で、たしか英語のスピーチ大会で野球部員が話したことが『なるほどなぁ』っていう話だったような」

「へぇー。で?」

「え?」

「内容は?」

「……あれ? ……忘れた」

「はぁー」


 訊いた自分がバカだったと、大護は思った。

 期待だけさせといて、肝心の話を覚えていない海。思い出そうと頭を捻るが、出てきそうにない。


「あ、実音に訊いたらよか!」


 そこで海は、実音にまた質問してみることにした。

 メッセージを送ると、五分もしないで返信が来た。










『レギュラーを狙っていた野球部員の話だよね? その人が言うには、最新のトレーニングマシンはレギュラー陣が主に占領してて、なかなか使えなかったらしいよ。だから、そういうのに頼らない方法を探したって。動画でプロのトレーニングを真似したり、食事も見直して睡眠の質にもこだわったんだって。あと、野球以外のスポーツの練習も取り入れたって言ってた。例えば、レスリングの下半身の強化とか、短距離走選手の瞬発力のトレーニングとか。一番役に立ったのは、たしか合気道だったかな。呼吸法を学んで無駄な力が抜けたおかげで、どんな場面でも緊張しないでベストを尽くせたみたい。参考になった?』









「だってさ」

「なるほど」


 大護は今の話を聞いて、今後の練習に役立てないかと考えた。ヒントをもらいに来た海に、逆に救われた気分だ。


「サンキュー。何か掴めそう」

「実音のおかげだけどね。この後会うけん、そこでお礼言っとくよ」

「は? これから? 会うの?」

「言っちょらんかった?」

「聞いてなか! 俺も行く!」

「ごめん、それは無理」

「なんで?」

「だって、実音以外もおるし。それに、大護が来ても一緒に入れんけん」

「?」


 その意味がわからない大護を放っておいて、海は出していた漫画をしまって出かける準備をした。


「そろそろ時間だ。そいぎぃー」


 勝手に来て勝手に帰っていく自由奔放な幼馴染に、大護はいつも振り回されるのだった。









「極楽、極楽。気持ちよかねぇー」

「何これ?」

「何って……温泉?」

「いや、そういうことじゃなくて」


 実音は、今温泉に浸かっている。

 近くにある島原温泉の施設に、海たちと来ているのだ。


「急に集合かけて、何かと思えば。四人で裸の付き合いでもしようって?」


 そう話すのは、トランペットの二年生の造酒迅美(みきはやみ)だ。

 彼女は昨日、金管楽器の学生指揮者に選ばれた。ショートカットの髪に、男勝りな性格。女子部員からの信頼は厚い。


「そうだよ。はやみんたちと、これからの部活をどうしようかって話し合いをしたくって」

「だからって、別にお風呂じゃなくても」


 海に呆れているのは、ホルンの二年生の法村風弥(のりむらかざみ)

 彼女も、昨日副部長に任命された。温泉のため、今日はストレートのミディアムヘアで小さなお団子を作っている。今まで暴走気味の三年生の西田を必死で抑えてきた苦労人だ。


「実音に、島原の温泉に入ってほしかったの。よかでしょ?」

「温泉は好きだよ。前にもこっちの温泉に入ったことあって、そこで食べた『湯せんぺい』美味しかったなぁ」

「雲仙かな? あそこもよかね。今度連れていってあげる」

「温泉に入ると、気分が緩んじゃうからなぁ。今日、練習なくて助かったよ。あっても、全然吹けなかったかも」

「実音って、本当に温泉が好きなんだね」

「うん。気持ちいい」


 普段、合奏中は気を張っている実音。こんなにふにゃっとした彼女は珍しい。


「温泉好きとか、なんだか同い年に見えない」


 造酒がボソッと呟くと、法村も同意する。


「ね。足湯でもよかったのに。そこ、無料だし」

「のりちゃん、わかっちょらんね。こうやって全身で浴びた方が、温泉の効果を得られるってもんよ」

「島原温泉の効能って、なんだっけ?」

「それは……きっとあれよ。元気になる!」

「切傷にいいって」


 適当な海に代わって、法村の質問に答えたのは実音だった。


「さっき、貼ってあったの見たよ。ここのは無色透明なんだね。pH値は七.三だって。中性だから、刺激もなくて入りやすい」

「そんなのどこにあった?」

「脱衣所にあったよ。温泉の施設は温泉分析表が絶対貼ってあるから見るでしょ、普通」

「気にしたことなか!」

「そうだよ。見んよ!」

「どんだけ温泉好きなの!」


 実音の発言に、思わず突っ込む三人。その反応に、実音は首を傾げる。


「遠征とか合宿先で、いつも見てたよ。お風呂の時くらいしか自由時間なかったし。効能を知って入った方が、より効果がありそうじゃない?」

「そう?」

「そうかぁ?」

「そうかな?」


 海はお湯を両手で掬って眺めてみる。だが、いつもと何も変わらない。彼女にとって、温泉は大きいお風呂という認識だ。


「ま、よかもん見られたよね」


 造酒は、実音をニヤニヤしながら見てくる。


雅楽川(うたがわ)って、着痩せするタイプ?」

「え? ……っ!」


 その意図がわかり、実音は急いで両手で前を隠した。


「造酒、オジサンみたい。よしな?」


 法村は友人の行為を止めさせるが、内心実音を羨ましく思った。自分と比べてしまい、つい溜め息が出る。


「これは、大護にはもったいなかね。実音、芸能人とか目指そうと思わんの?」

「ならないよ、そんなもん!」

「えー」

「ちょっとその手何かな……きゃっ」


 なんのために集まったのか、すっかり忘れた四人。温泉効果で、友情度がアップした。









「で、何をしたらよかかね?」


 さっきまではしゃいでいたが、落ち着きを取り戻した四人。せっかくの休日に集まった目的を思い出す。


学生指揮者(学指揮)って、やっぱり指揮もするんでしょ? だったら、ウチも(かざり)と同じことやるべき?」


 造酒が実音に尋ねると、彼女は頷いた。


「さすがに、駐車場の整備は危ないからしなくていいけど。でも、ほかはやって損はないよ」

「そうだよね。やった方がよかよね。必要な物貸してくれる?」

「もちろん。それで、明日からの練習だけど……」

 

 実音たちは、学生指揮者同士で真剣な話をし出す。

 とりあえず自分のやることが決まった造酒に、ほかのふたりは焦った。


「えっと、わたしは……えっとー」

「私たちは、音楽的なこと以外から攻めてみる? 海、得意でしょ?」

「えー、のりちゃんも考えてよ!」

「陰キャにはハードル高か!」


 海と法村は実音と造酒から置いてけぼりにされないように、これからのことを必死に考えるのだった。

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