表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
7月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/322

8.結果は?

 演奏後、部員たちは楽器を片しトラックに積み込んだ。

 客席に着いた頃には全ての団体の演奏が終わっており、表彰式前の休憩中であった。みんなでまとまって座り、その時を待つ。

 部長の本多と学生指揮者の井上と顧問の(かざり)は、部員たちとは別行動で舞台袖に向かった。

 集合場所へ行く途中、井上はずっと浮かない表情だった部長に話しかけた。


「今日のソロ、よかったよ」

「……ありがとう。夕映(ゆえ)もね」

永世(ながせ)はいつもふわふわしてるけど、やる時はやる子でしょ。だから、絶対成功させるって信じてた」

「ばってん、学校で褒めてくれたソロの方が上手かったよね」

 

(それは、そうだけど……)


 上手く言葉が出てこない井上。

 黙っている彼女に、本多は苦笑する。


「夕映は嘘がつけんよね。……あのソロね、教室で吹いとったのって雅楽川(うたがわ)さんだよ」

「え?」

「彼女、私のフルートを借りてお手本で吹いてくれたの。オーボエよりもニュアンスとか響かせ方がより伝わって、それでとっても役に立ったんだけど……」

「専門じゃない人の演奏に負けたのが、相当ショックだった?」

「……うん。篠笛が吹けるのは知っちょる。だからってフルートも上手いなんてね。同じ横笛でも別物なのに。しかも、それで落ち込んどるのを知って、本番前にフルートを吹く真似をしてきたんだよ。『この子が吹いた方が、絶対上手いのに』って弱気になっとった私を挑発したんだね。それが逆に力になった。『やっぱり、中学からずっとやってきた楽器で負けるわけにはいかんよね』って思ったの」

「……そう。あの子っていったい何者なんだろうね? まぁ、おかげで悔いのない演奏ができたかも」

「本当にね。感謝しかなか。……ところで、私ってふわふわしとるの?」

「……さぁ? なんのこと?」

「さっき、言っとったよ」

「……」


 目を逸らして先に進む井上と、それを追う本多。ふたりが舞台袖に辿り着くと、既にほかの代表者は揃っていた。

 彼女たちは目を合わせて頷き合ってから、その列に並んだ。









 長崎県の高校の部は、二日に分けて行う。今日はその二日目だ。昨日もここで激戦が繰り広げられ、九州大会へ推薦される二校が決まった。

 今回の審査員は、プロの管楽器奏者数名と打楽器奏者とひとりの作曲家がおり、それぞれが評価した点数で賞が決まる。金賞が何校とかは決まっておらず、基準を越えれば全団体が金賞もあり得る。だが現実は甘くなく、大三東(おおみさき)はずっと銅賞だ。「賞なし」がないだけ優しい。

 出演順に各団体から二名がステージの中心に行き、その場で賞が言い渡される。またその際「金賞」と「銀賞」が聞き取りにくいため、「金賞」は「ゴールド金賞」と発表される。









 表彰式の時間となった。

 ステージ上に並ぶ代表者たち。本多と井上も堂々としている。どの客席にいる生徒たちも、固唾を飲んでそれを見守る。

 そして、発表の時。

 出演順一番の団体から前に出て、その結果を聞く。その度に大きな拍手が鳴ったり、その団体の部員たちが大声で叫んだりしている。

 

 いよいよ、大三東の番。

 部長と学生指揮者のふたりが前に出て、大きく深呼吸する。ほかの部員たちも、客席で両手を組んで祈る。

 








「県立大三東高等学校吹奏楽部……ゴールド金賞!」









「……」

「……」


 衝撃で動けない本多と井上。

 会場の拍手の音で意識を取り戻し、慌てて賞状などを受け取る。


「おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


 お祝いの言葉も贈られるが、本多はまだ放心状態だ。

 客席に向かって一礼してから移動するが、ずっとぼーっとしている。

 それはふたりだけでなく、客席も同じだった。大三東の部員たちも拍手はしているが、口を開けている者や頬をつねっている者など様々。実音(みお)が叫ばないように注意していたが、それをしなくても叫ぶ余裕などなかった。

 実音自身は、この結果を予期していたかのように無表情で拍手をしている。


 全団体の結果発表が終わり、次は九州大会への推薦が告げられる時がきた。

 今日の出演団体は二十二校。この中から次の大会へ駒を進めることができるのは、たった二校だ。

 一部を除いて盛り上がっていた会場が、再び静まる。


「それでは、九州大会への推薦団体を演奏順に発表します。まずはーー」









 今年の県大会が終了した。

 同時に、大三東高校吹奏楽部の今年の夏の大会も終わった。推薦には選ばれなかった。金賞でも先に進めない、いわゆる「ダメ金」だった。

 合流した本多と井上を、部員たちが温かく迎えた。

 井上は、三年生も見たことがないほど思いっきり泣いていた。一方、本多は未だぼーっとしている。

 みんな、金賞を取れたことの嬉しさとダメ金だったことの悔しさで、感情がぐちゃぐちゃだった。次第に井上の涙につられて泣き出す者が現れた頃、文が走ってやってきた。


「ふたり共、僕を置いていかないでよー!」


 ステージの裏で講評をもらっていた文。その中身を読んでいたら、いつの間にか置いていかれていたようだ。


「みんな、お疲れ様。邪魔になっちゃうから、バスに乗ろうか」









 バスの運転手は、泣いている部員を見て察してくれた。優しい笑みで、部員たちが乗っていくのを見守っている。

 そして全員が乗り込むと、バスはゆっくり動き出した。


 文から評価が書かれた紙を受け取り、実音はそれを読んだ。その間、泣いていた者も疲れたようでバスの中は静かだった。

 すると、本多が突然バスのマイクを取った。


「みんな、ごめん!」


 急に話し出した部長に、全員驚く。


「きっと……ううん、私のせいだよね。もっと私がしっかりしとったら……。ソロだって、もっと上手く吹いとれば……」

「永世……」


 隣にいた井上が、その肩に手を乗せる。

 否定の言葉をここでかけても、彼女には届かない。だから、ただ寄り添うしかできなかった。


「そんなことなかです!」


 そんな時、声をあげたのは(うみ)だった。


「部長のソロは素晴らしかった! それに、いつもふわふわで優しい先輩だからこそ、大三東は平和に活動できたんです!」

「海……」


 井上も何か言葉をかけるべきか悩んでいると、今度は列を挟んで隣の席にいた実音が、本多が持っていたマイクを取り上げた。


「講評を読み終えました。その結果をお知らせします」


(え? 今?)


 実音以外の全員が唖然とする中、彼女は無視して続ける。


「本日の金賞団体は五つ。そして、推薦がふたつ。大三東の順位ですが、三位でした。二位との差は僅か一点」


 その結果に、一同驚愕した。

 万年銅賞だった学校が、いきなり好成績を叩き出した。


「具体的な審査員の先生方の評価ですが、課題曲はそれほどですね。ですが、自由曲についてはかなりの高評価でした。全員で曲の解釈を学んだ甲斐がありましたね。個別の意見ですと、ある先生のコメントの中に『ソロ、ブラボー』と。……よかったですね、先輩」

「……っ!」


 最後の方は、とても優しい声色で話した実音。それは部長に向けての言葉だった。


「ゔっ……ふぇっ……ゔー……」


 今まで出ていなかった涙が、急に溢れ出した本多。その声に、ほかの部員たちも文までも一緒になって大声で泣いた。









 学校に到着するまで、ずっと泣いていた部員たち。涙声でお礼を言われた運転手も、涙目になっていた。

 だが、ひとり泣いていない実音。

 その表情からは、何を思っているのかは全くわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ