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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
7月

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7.コンクール!

 コンクール当日ーー。

 出番は午後のため、吹奏楽部は朝から学校で練習をした。

 今日は遅刻者はおらず、無駄話をする者もいない。そして、緊張感でいっぱいだった。

 本番でバテないよう、軽めの合奏をする。初めから顧問の(かざり)が指揮台にいて、実音(みお)も楽器を吹く。だが、締まりのない顧問に代わってカウントだけは彼女がする。そのはっきりした声で、更に緊張感が生まれた。

 その後、楽器の積み込みをするのだが、いつもより念入りにチェックをした。もし楽器の積み忘れが起きたら、最悪他団体に迷惑をかけることになり、自分たちの演奏にも影響する。そうならないように、確認は複数人で行った。

 トラックに全て積み終えると、早めのお昼ご飯だ。各パートで固まって、教室で食べる。

 (うみ)のように、緊張とか関係なく食欲がある者がいれば、反対に進まない者もいる。しかし、お腹に何か入れなければ演奏も難しくなる。

 実音は家から持ってきたものを、部長の本多とパーカッションの吉川(よしかわ)に渡しにいった。


「先輩、これどうぞ」

「私に?」

「このタイプならいけるかなと思いまして」

「……ありがとう」


「吉川さん」

「先輩! 私、手が震えちゃって……」

「大丈夫。これ、あげるね」

「っ! ありがとうございます!」


 渡し終えると、実音も同じものを口に入れた。

 それは、いつも本番の時に実音が飲むゼリーだった。しかも、今回は金色のパッケージだ。

 本当は全員に配りたかったが、金欠の実音には難しい。だから、特に不安そうな顔のふたりにプレゼントした。

 コンクールで金色のゼリーを飲むのは、もちろん願掛けのためだ。初めて実音がコンクールに出場した時からずっとそうしている。彼女は、金賞しか見ていない。









 学校を出る前に、服装を確認する。

 女子は、昨日吉田からプレゼントされた黄色いスカーフを学校指定の物と交換し、男子はハンカチを胸ポケットに見えるように入れた。近くを走る電車と同じカラーで、お揃いである。

 ボサボサ髪の(ふち)のヘアスタイルも、有馬(ありま)のワックスで整え、有馬の遊びすぎている髪もおとなしくさせた。身だしなみは完璧だ。

 実音も、いつもより高い位置で髪をひとつに結んだ。










 バスに乗ると、会場に着くまでの時間も無駄にしない。演奏する曲を、指を動かしながら全員で歌って歌って歌い続ける。

 運転手にとっては不気味な空間だ。しかし、出発前と到着後に元気に挨拶をしたことで、優しい笑顔を向けてくれた。


 会場に入ると、時間になるまでパートごとに身体をほぐした。

 そして、楽器の搬入時間になると黙々と運び楽器を組み立て、呼ばれるのを待つ。

 やがて誘導係が来ると、挨拶をしてその案内に従った。

 

 チューニングの時間は三十分もない。

 部屋に入るとすぐに準備をする。管楽器は音出しを始め、補助員の一年生がハーモニーディレクターなどをセッティングをした。

 文がテキパキとチューニングを捌き、基礎合奏と曲の出だしの確認をする。時間はあっという間に過ぎ、舞台袖へと移動となった。


 舞台袖に着くと、前の団体の演奏が聴こえる。

 前日の実音の指示どおり、みんな自分たちのやることだけに集中した。楽器が冷えないように巻いていたバスタオルは補助員に渡し、ピッチ(音程)が変わらないように気を配った。

 実音は自分の楽器のことも気にしつつ、まず吉川の元へ向かう。


「先輩、手が……」


 彼女はまだ震える手を実音に見せてきた。

 その手を片手で握り、涙目の彼女を真っ直ぐ見る。

 言葉には出さないが、その優しい瞳で吉川の震えも止まってくる。もう大丈夫だと判断して、実音は大きく頷いてから本多の元へと急ぐ。


「私のソロより……」


 こちらも涙目の本多。

 言いたいことをわかっている実音は、真顔でオーボエを横に構えてそれを見せつけた。


(こういう時って、普通励ますんじゃなかと?)


 優しい言葉を期待していた本多に対し、逆に煽る実音。

 気がつけば、本多の不安はどこかへ行ってしまった。そして、彼女の瞳に光が戻る。

 本多は部長らしく一旦その場を離れて、まだ不安そうな部員がいないか見回りをしに行った。その様子に満足して、実音は最後に文の隣へ。


 文の顔は真っ青で、このままでは右手と右足が揃って出てしまいそうだった。

 実音はその肩に軽く触れた。そして振り向いた彼に対し、この場に相応しくないほどのとびきりの笑顔を作った。


「え?」


 その顔のまま、実音はほかの部員たちとも目を合わせていく。その表情にみんな一瞬時が止まるが、すぐに理解する。

 「人は鏡」だと、商店街のミニコンサートで実音は言った。これは観客だけでなく、仲間同士でも使える技だ。

 顔が強張っていては、いつものアンブシュア(口の形)が変わってしまう。だが、これで全員の表情筋がほぐれた。


 前の団体の演奏が終わり、大三東(おおみさき)の番になった。


 パーカッションからステージに出て、準備を始める。

 席に着いた者から、楽器のコンディションを確かめつつ目線を上げる。その視線の先は、審査員席だ。

 客席を前にしても、いつも音楽室で見ている景色のため動揺はしない。席の間隔も広いが、体育館の練習で慣れた。

 今までの練習の成果は、ちゃんと出ている。


 アナウンスが入り、一礼した文は部員たちを自然な微笑みで見渡す。

 そして、演奏が始まった。


 課題曲のマーチは、出だしから慌てずにトランペットを中心に音がよく鳴った。そして、木管楽器の統一されたメロディーや、何度も足踏みをして揃えた低音の伴奏も、問題なく進んでいく。

 最後までまとまった演奏を終えると、静かに次の準備をする。この曲と曲の間も、演奏時間に含まれている。そのため、何度も事前に練習してきた。

 自由曲の『マードックからの最後の手紙』は、船の「ボー」という低い音から始まり、すぐに印象的なメロディーが奏でられる。本多のフルートのソロは、実音にとって合格点の出来栄えだった。それから、木管楽器の連符のところでは、(うみ)が実音の許可を得てカットなしで吹ききってみせた。ピアノの吉川も、一年生の初々しさをなくして堂々と感情を込めて弾いた。そしてほかのどの楽器も、マードックの想いを一生懸命音楽で表した。


 演奏を終えると、全員やりきった顔をしていた。

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