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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
7月

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5.予定確保

 今日は終業式。

 午前中で学校は終わりだ。部活のある者は、教室でお昼ご飯を食べている。


「主将さん、どう? ちゃんとできとる?」

「揶揄うなよ」

「心配してあげてんの。で、どう?」


 (うみ)大護(だいこ)は、今日も向かい合ってお弁当を食べているところだ。

 海が唐揚げひとつに卵焼きふたつを奪った頃、幼馴染にそう問いかけた。


「まだ始まったばっかだしなんとも。ばってん、一年生はレベルが高いけん、それに負けんように二年生もくらいついとる」

「ふーん」

「海は? コンクール、近いんだろ」

「うん。この後、実音(みお)の鬼のような練習が待っとる」

「で、その実音は?」

「とっくにどっか行ったよ」


 実音は早弁をし、教室から既にいなくなっていた。


「もう練習? ちゃんと休んどるのか?」

「ね」

雅楽川(うたがわ)さんなら、生徒会室に向かったよ。さっき、職員室に用があって行った時に見かけた」

「え?」

「なんで?」


 クラスメイトのひとりの目撃情報を聞き、不思議に思うふたり。実音はもちろん生徒会役員ではない。


「まだ部活に行っちょらんかぁ。生徒会と仲よかったかな?」


 すると、大護は(おもむろ)に立ち上がった。


「大護?」

「それなら俺、実音に会ってくる」

「何か用でも?」

「夏休みの予定、訊いてなか。朝からタイミング探っとったのに、実音が隙を見せん。どっかで一日くらいは会いたか!」


(一日で満足なんだぁ。もっと欲張ればよかろ)


 大護は僅かに残っているお弁当をそのままにして、教室を出ていってしまった。


「ラッキー!」


 そして残された海は、彼が大事に取っておいた鯵の南蛮漬けに箸を伸ばしそれを味わった。









「実音!」

「大護君?」


 大護が生徒会室の前まで来ると、丁度実音が部屋から出てきたところだった。


「どうしたの?」

「えっと、生徒会に何か用でもあったのか?」

「うん。今終わったところ」

「そっか。……あのさ、お盆は休みなんだろ? 海が言っとった」

「うん。ここの学校はそうみたい」

「じゃあ、十五日は空けておいて」

「十五日?」

「そう。……精霊流し、一緒に見よう!」

「精霊流しかぁ」


 実音は南島原の精霊流しは見たことがある。

 長崎県の精霊流しは、地域によって異なる。テレビで観た長崎市内のものは、実音が見たものとは別物だった。


「島原のは、また違うのかな?」

「見て絶対損はなか!」

「……それは、少し興味あるかも」

「本当か! 特等席で見せるけん、実音の一日を俺にください!」


 大護は頭を下げて、右手を差し出した。

 そんな彼に実音はくすりと笑って、その右手に軽くちょんと触れた。


「うん。お願いします」

「っ! よっしゃ! 後で連絡する! あ、その前にまずはコンクールだもんな。俺、応援しとるけん!」

「ありがとう。練習あるからもう行くね」

「おう!」


 実音が去っていき、大護は嬉しさのあまり思いっきりガッツポーズをした。それと同時に生徒会室のドアが開き、中から生徒会役員たちが出てきた。

 お互い目が合い、大護はかなり気まずい気持ちになった。


「あれだな。『青春』ってやつだ」

(あさひ)にも、春が来てよかったね」

「ばってん、相手はあの雅楽川さんだろ? 振られるかも」

「そん時は『生徒会だより』に一面で載せよっか。それで、全校生徒で慰めてあげよう」


 どうやら、ふたりのやり取りは筒抜けだったらしい。

 大護の顔はどんどん赤くなる。


「こ、これは、その、あれだ! 転校生に地元の風習を見せるための、あれだ」

「はいはい。そういうことにしといてやるよ」


 生徒会長に肩を叩かれ、彼の横を全員通り過ぎていく。

 最後には、恥ずかしさでいっぱいの大護だけが残された。









 放課後の練習で、実音は部長の本多のフルートソロの練習に付き合っていた。


「何回も練習すると、どれが正解かわからなくなっちゃって……。装飾音符のつけ方、聴いてもらってよかかね?」


 空き教室でふたりっきりの練習。

 本多は、まず自分の思うままに吹いてみた。


「どうかな?」

「フレーズが、こういう形になってますよね? 一番盛り上げたい箇所はここじゃないですか? それなら、ここからスピードを出して、ブレスはここで。まずは装飾なしで吹いてみてください」


 実音は楽譜に書き込みながら教え、本多はそれに一生懸命ついていった。

 だが、ふたりの納得するソロにはならなかった。


「これほど素敵なソロって、そうなかよね。歌で上手くいっても、楽器になると響かなくって……。これじゃあ、ホールいっぱいに届かんよね」

「……」


 一緒に考えていた実音は、悩みながらも本多にある提案をする。


「あのーー」









 クラリネットの練習する教室にいる井上の元へ、副部長の入江と学生指揮者の福田がやってきた。


「後で役員会議しよ。予定大丈夫?」


 入江が尋ねると、井上は一旦練習を止めて頷いた。


「平気」

永世(ながせ)にも伝えようと思ったばってん、あの子知らん? フルートの教室にもおらんくて」

「部長なら、隣で雅楽川にソロ見てもらってるみたい」


 井上が答えると、隣の教室からフルートの音が聴こえた。


「本当だ。あのソロ、別に悪くなかよね?」

「雅楽川に見てもらったら良くなったことを私が話したら、永世も頼みに行くって言っとったよ」


 福田は、生意気な一年生の有馬がソロを実音に聴かせた翌日、彼女に指導をお願いしていた。

 先輩として後輩にソロを取られるわけにはいかないからと、必死に個人レッスンに挑んだ。


「さっきから、ずっと吹いてる。まぁ、あのソロ有名なやつだしね」


 三人は隣の教室に目を向けながら、部長の努力に感心した。

 すると、今までの演奏がガラリと変わった。


「あれ? 今の上手くなかった?」

「やっちゃ(とても)、上手(うま)かね」

「別人みたい」


 その音色は、練習中のほかのクラリネットの部員たちにも聴こえた。

 海が役員の会話に加わってくる。


「本多先輩って元から上手でしたばってん、今の響きはすごかったですね! 実音の指導、効果抜群!」


 だが、次に聴こえたのはいつもと変わらない演奏だった。


「あれ? さっきよかったのに……」


 その後、上手い演奏といつもの演奏が交互に聴こえた。


「ムラがありますね。どうしちゃったのかな?」


 暫くして、隣の教室のドアが開く音がした。

 そして中から現れた本多は、随分と疲れた様子でクラリネットの練習している教室の前を歩いていった。


「永世!」


 心配になった井上は、本多を呼び止めた。


「さっきのソロ、よかった」

「……うん」


 井上が褒めたのにもかかわらず、彼女の表情は暗い。

 そこで、入江が話題を変えて話しかけた。


「後で、役員会議しよ」

「……了解」


 しかし、本多はトボトボと歩いてフルートの練習する教室へと帰ってしまった。


「あんな永世、初めて見た」


 福田の呟きに、ほかの役員も頷く。

 

「そんなにスパルタなレッスンだったんだぁ。……あ! 実音今空いただろうし、わたしリベンジしてきます!」


 海は、楽器を持って実音の元へと去っていく。

 そんな元気な後輩に、三人は顔を見合わせた。


「ねぇ。心配ではあるけど、やっぱりこれがベストじゃない?」

「私もそう思う」

「うん、そうだね」


 それから、彼女たちは本多のいる教室へと向かうことにした。

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