10.ふたりの好きなこと
「これもゲームのテーマソングなんだね。聴いたことはあったけど、知らなかったなぁ」
「あと、これもマスト! プレイしたことある人間が多いし、やり込み要素がありすぎて没入感もヤバい」
教室に戻ると、縫が自分のスマホに入っているゲーム音楽を実音たちに聴かせた。
テーマについては、すぐに賛同が得られた。
今は定期演奏会で使いたい曲を、縫を中心としたゲーマーたちがプレゼンしている。
「これとこれはオープニングって感じだね。これは戦ってるシーンに使えそう」
出てきた曲から、大雑把なシナリオを作る。
ゲームを普段やらない人でもわかりやすいストーリーにしなくてはいけない。
「配役も決めないとね。さっき出た曲で楽譜がないものは私が譜面に起こすから、各パートで演奏を抜けても大丈夫な人をシナリオ担当に早めに伝えといて」
テーマが決まってからは、さっきまでの学年会議が嘘のようにスムーズに話が進んだ。
各係に分かれて、更に細かく必要なことを決めていく。実音とプリンスはまだ係に入っていないため、全体を回ってそれぞれに意見を出していった。
いろいろ見ている中で、一番盛り上がっていたのは縫と紣谷秀奈が所属するパンフレット係だった。
ゲーマーとしてのこだわりが強いのか、縫は文字のフォントやイラストについてのアイディアが止まらない。たまにスマホで検索した画像や動画を使い、それを元に案を出す。いつも眠そうな彼と同じとは思えないほど熱く語っていた。
(そんなにゲームが好きなんだね)
ゲームに詳しくない実音には、何を言っているのかわからないワードがたくさん出た。
普段とは違うその熱心さを、実音はほかでも引き出せないかと考えた。
その日のお昼の休憩時間ーー。
実音は手作りの指揮杖を使って、ドラムメジャーの練習をしていた。
「そんなの学校にあったっけ?」
お弁当を食べ終えた海が、気づいて近づいてくる。
「作ったんだよ」
実音が持っている物は、ジョイントラック用の棒を赤い紐で飾ったもので下にはボールがついている。
彼女は自信満々に海に見せているが、はっきり言って小学生が作ったレベルの出来だった。
「これ、練習用?」
「ううん。本番用。練習用は、こっちの何もつけてないやつ。たまに飾りがついたものでも振ってみないとね」
「何か参考にした?」
「もちろん。……これだよ」
実音が見せた画像は既製品だった。座奏で使う指揮棒とは違って派手である。残念なことに、彼女の作った指揮杖と似ていない。
「実音って、美術の成績いくつ?」
「……中学の時『二』だった」
「だろうね。その紐ヨレヨレだし、下のボールも取れそうだもん」
「でも、買うと高いし」
「じゃあ、『便利屋』に頼みに行こ!」
「え?」
海が連れてきたのはチューバの万屋の所だった。
「ぼ、僕が?」
「そ! 実音が使うこの指揮杖? とかいうやつ、作ってあげて」
見本の画像を見せながら、実音もお願いする。
「万屋君、物作りが得意なんだってね。私が作るとこんな感じになっちゃって……。だから、お願いできる?」
「……っ!」
実音は普通に頼んだつもりだったが、万屋視点では目を潤ませた上目遣いの実音に見えている。
(みおたんが、僕を頼ってる!?)
「任せて! これを作るんだね。これくらいならすぐにできるよ」
「本当? 万屋君、すごい!」
「じ、実は僕の好きなアニメのキャラクターが使うステッキも、前に手作りしたことがあるんだ」
「万屋君、アニメ好きなんだね」
「う、うん」
「昔そういうアニメの曲、演奏したなぁ。懐かしいね。それじゃあお願いね」
休憩時間が残り少ないため、実音と海は道具を預けてその場を去った。
「うへへ」
頼りにされたことで、万屋は溶けそうなくらいデレデレ顔になった。
「キモッ」
それを近くで見ていた同じチューバの二年生。
彼女の呟きは、彼には届いていない。
数日後のマーチングの練習で、実音は遅れを取るふたりにある提案をした。
「縫君。ちょっと、ゲームしない?」
「ゲーム?」
「うん。隣の人と全く同じ動きをしないとHPが減っていくっていうゲーム。目線も敵から離すと減るから、気をつけてね。ちなみに敵は野田君」
プリンスは背が低いため、指揮台に立って背伸びをしている。
その彼の視線に合わせるためには、縫も少し目線を上げなければならない。
「なるほど。なら、もっと具体的な設定がいるな」
「え?」
ゲームに疎い実音はそう言われて困ってしまう。
「じゃあ、ヌイヌイは今敵の城に潜入中っていうのはどう?」
そこに助け船を出したのは紣谷だった。
「今は城の前で敵の軍団が行進の練習をしているところ。ヌイヌイは上手く敵に紛れないと、城の上にいるボスにビームを撃たれちゃうの。ちゃんと隣のキャラと同じように動かないとダメ。敵のキャラはみんなボスに忠誠心があるけん、目線はずっと彼から離れん。だからヌイヌイもずっと正しい姿勢をキープするんだよ」
「それならわかりやすい」
(それならいいんだ)
実際にそのイメージでやらせてみると、縫はハキハキと周りと同じように動くことができた。
「今の、すごくよかったよ!」
「ヌイヌイ、やったね!」
実音たちが褒める中、プリンスはずっと背伸びし続けていたため、そろそろ限界が近づいていた。
(もう、いいよね。これキツい)
「じゃあ、もう一回いこっか!」
「っ!?」
実音の言葉に、プリンスは衝撃を受ける。
(これ、ボクじゃなくてもいいよね! 誰か変わってほしい!)
そんな彼の心の声に気づく者はいなかった。
プルプル震えながら、プリンスはひたすら耐えるのだった。
「万屋君。この前言ってたアニメの曲、ノリがすごくいいよね」
「そ、そうだね」
「じゃあさ、あの曲で練習してみようよ」
「え? いいの?」
本番とは違う曲の提案に、万屋は戸惑った。
「練習だけね。これでマーク・タイムしてみて」
実音が曲を流し、その場で足踏みをさせる。
すると馴染みのある曲だからか、彼は軽やかで良い塩梅に力を抜くことができた。
「そう! いいね! 今の忘れないで、そのまま行進もしてみよう」
「う、うん」
その後も万屋の好きな曲でやらせると、何の問題もなくこなすことに成功した。
次第に曲のボリュームを下げ、菜箸でのカウントのみにしてみても大丈夫だった。
「僕、できた?」
「うん! できてるよ!」
喜ぶ実音に、万屋も嬉しくなる。
(みおたんが、笑ってる!)
こうして、なんとか問題のふたりの動きが周りと合うようになったのだった。




