4.誰がなんと言おうと、これはデート
実音と大護のふたりは、市内にあるショッピングモールに来ていた。
賑わう施設の中、ずっと微妙な距離で目的の店舗へと向かう。
「あ、ここ」
大護が目当ての場所を見つけ、実音に教えた。
「思ったより大きいね。大護君、連れてきてくれてありがとう!」
「いや、それは別によかばってん……」
大護が「本当にここでよかったのか?」という言葉を飲み込む。
「私方向音痴だから、ひとりじゃ心配だったの。ここなら品揃えも良さそうだね」
「そ、そうだな」
大護は実音とのデートが決まり、徹底的にデートスポットを調べ上げた。念の為、海にも女子におすすめできそうなカフェを教えてもらったりして、準備は万端だった。服装も持っている中で一番かっこよく見えそうな物を選び、短髪だがワックスもつけた。
そして迎えた今日、駅で待ち合わせた私服姿の実音を見た瞬間、大護は歓喜した。ネイビーのワンピースを着て髪はハーフアップ。いつもとはまた違う可愛い装いだった。
前日に彼女から「買い物がしたいから、ショッピングモールがいい」とリクエストがあったため、まずはそこを目指す。
ふたりで新しい服を選ぶ妄想をしていた大護。それに対し実音が行きたい場所は、なんと百円ショップだった。
「うーん」
気になった物を手に取って確かめてみては「違うなぁ」と言って戻す実音。
「何探してるんだ?」
「細長い棒。できれば軽くて丈夫なの。……あ! これ、良さそう」
実音が見つけたのは、ジョイントラック用の棒だった。
それを上下に振ってみる。
「そんなのどうするんだ?」
「指揮杖にするの」
「指揮杖?」
「マーチング用の指揮棒のことだよ。うん、これにする! あとは……」
続いて実音が手にしたのは、オモチャのボールと赤い紐、それから笛だった。
それらを持って、実音は会計しに行く。
「とりあえず、これはOK。……一応、あれも探しておきたいなぁ」
実音はキョロキョロして、ある物が売ってそうな店を探す。
「ねぇ、大護君。ホームセンターみたいな所ってどこ?」
「それなら、こっち」
大護が連れてきた場所は、角材やガーデニング用の道具など様々な物が並んでいた。
実音はパイプが置いてあるエリアに行くと、ひとつひとつ手に取って、長さや重さを確認する。
「やっぱりアルミかな。長さは……これくらいだよね」
一本丁度良い物があり、彼女はそれを軽やかに回す。
隣で大護が驚いていると、パイプ売り場に来る客の用途としては異常な彼女の行為に対して、店員が慌ててやってきた。
「ちょっと、なんばしょっとですか!」
「あの、すみません。これって在庫、これだけですか?」
「まだありますよ……ってそうじゃなくて、危ないでしょ! そんな使い方するものじゃなかです!」
「え? ……あ、そっか。普通そうですよね。つい、回せるか試したくなっちゃいました。これ、マーチングで使えないかと思いまして」
「マーチング?」
「はい、旗にするんです。使う時が来たら、こちらを購入させてください。あ、でも重いなぁ。送っていただくのは可能ですか?」
「え、あ、はい」
「よかったぁ。今回は大丈夫なんですけど、その時はお願いしますね」
「はぁ」
唖然とする店員を置いて、ふたりは店を出た。
「そろそろお腹空かないか? 好き嫌いある? なんでも言って」
大護は前日リサーチした場所を思い浮かべながら、実音に希望を訊いた。
「それなら、私あれ食べたい」
「何?」
「ろくべぇ!」
「え?」
「いただきます!」
「い、いただきます」
ふたりがいるのは、地元の温かみのあるうどん屋だった。
「ろくべぇ」とは、さつまいもの粉に山芋などを入れて作られたうどんで、色が黒いのが特徴だ。芋のため少し甘味がある。
実音はシンプルな「ろくべぇ」、大護は「大盛ろくべぇ」にたまごと丸天のトッピングをそれぞれ注文した。
「もっと、洒落たとこじゃなくてよかったのか?」
「ううん、ここがいいの。前に来たことあるんだけど、このうどんが忘れられなくて。絶対また食べたいって思ってたんだよね」
「へぇー。万十も頼む?」
「うん!」
うどんと同じように黒い饅頭も店内には置いてあり、実音はさつまいも餡、大護は小豆を頼んだ。
「んー! これこれ」
「美味いか?」
「うん!」
「そっか。なら、よかった」
満面の笑みで食べ進める実音に、大護はデレデレである。考えていたプランとは違ったが、これはこれで悪くないと思った。
お腹いっぱいになったふたりは、この後のことを相談した。
「あと、行きたい所は?」
「うーん……図書館かな」
「図書館?」
「うん。どんなのが置いてあるか、見てみたい」
「わかった。よし、行くか」
図書館に着くと、実音はCDコーナーへと向かった。
暫く漁ってから数枚を手にし、次に音楽系の本が並ぶコーナーへと移動する。
そこでも時間をかけて本を選ぶ実音。その間、大護は真剣な様子の彼女を緩んだ顔で見守った。
選び終えると、実音はそれらを受付に持っていった。図書カードを作り無事に借りると、思い出したように大護に謝った。
「ごめんね。私ひとりで夢中になっちゃってた。暇だったでしょ?」
「全然。見てて飽きなかった」
「そ、そう?」
「重いだろ? 持つよ」
「ありがとう」
外へ出ると、日が傾きかけていた。
遅くなる前にふたりは駅へと歩いた。
「大護君、今日はありがとね」
「満喫できた?」
「とっても! 必要な物は買えたし、美味しいうどんも食べられたし、図書カードも作っていろいろ借りられたし……。ひとりだったら迷子になって、きっと大変だったと思う」
「また、一緒に出かけてくれる?」
「え? あー、そうだね。……機会があれば?」
なぜかそこで、実音は歯切れが悪くなった。
(ん?)
「あ、駅着いちゃったね。荷物、持ってくれてありがとう。じゃ、また学校でね」
「あ、ああ」
タタタッとホームに走っていって、手を振る実音。大護は何か引っかかるものがあったが、同じように手を振った。
やがて先に来た電車に実音が乗って、その姿が見えなくなるまで大護は見送った。そして、ゆっくり今日一日の楽しい思い出を振り返りながら反対へ行く電車を待った。
その日の夜。
大護は海に報告の電話をかけた。
「ーーって感じで、マジで楽しかった!」
『……』
「海? 聞いとる?」
『あ、うん。聞いとるよ』
「海の提案してくれたとこは結局行かなかったな。ばってん、デートは大成功だった。俺、女の子とふたりっきりで出かけるなんて初めてだろ? めちゃくちゃ緊張したんだよな」
『……わたしも一応女の子だよ?』
海と何度も出かけたことがあったが、大護の中ではカウントされていない。
「あ? 何か言ったか?」
『ううん。楽しいデートができてよかね』
「ああ。海のおかげだな。お前も早く相手作れよ」
『やかましか!』
「ははっ。じゃあ、もう遅いけん寝るな。また学校で」
『うん、おやすみ』
「おやすみ」
電話を終えると、大護は昨日の寝不足のせいもあってかすぐに眠気に襲われた。そして、そのまま良い気分のまま眠りについた。
海は大護の報告を聞き、幼馴染のことが心配になった。
(あれって、デートって言うのかな? 実音の買い物にただ付き添っただけのような……。しかも、次のデートの約束も濁された感じだし。実音も脈あると思ったのに違ったのかな? 可哀想で大護には言えないな。あの子を落とすのは難しそうだね)
デートをさせた責任を少し感じつつ、海は自分の運命の相手を手に入れるために、愛読の雑誌を参考に自分磨きをするのだった。




