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3.パート紹介 ②

 パート紹介はまだ続く。


 次はトランペットパートだ。

 曲は『おジャ魔女カーニバル!!』。

 女児向けアニメの主題歌で、アップテンポで耳に残りやすいメロディーと、ユニークな歌詞が特徴的な曲である。


 このパートのリーダーは造酒迅美(みきはやみ)だ。彼女は金管学生指揮者も務めている。ショートヘアでスポーツ万能。小学六年生まではバスケをしていた。

 同じく三年生でおかっぱヘアの豆酘想新(つつそあら)は、無駄をできるだけ省きたい性格だ。テンションはいつも低い。そして、基本単語で会話をする。

 もうひとりの三年生で落ち着いたロングヘアの梼木朝江(ゆすきあさえ)は、吹奏楽部の母のような人物だ。面倒見が良く、部員たちから頼りにされている。

 二年生の有馬咲太郎(ありまさくたろう)は、少し長めに伸ばした髪をヘアワックスで遊ばせているチャラ男だ。高音を得意とする目立ちたがり屋だったが、最近は我儘を言うことが少なくなった。

 彼女たちを含め、全部で六人のパートだ。


 今回の曲は、忙しい造酒の代わりに梼木が豆酘のリクエストを受けて編曲を行った。

 その際、有馬が「たまには俺を目立たせてくださいよ!」とお願いをした。その結果、彼は魔女っぽい帽子を被らされた。梼木や豆酘のような性格の者に対して、有馬は揶揄ったりイジったりできない。だから、彼はこの状況に一生懸命耐えている。









 次はホルンパートだ。

 曲は『剣の舞』。

 『バレエ音楽ガイーヌ』に登場する曲で、彎刀(わんとう)という反りのある刀を持ったクルド人の戦いを踊りにしたものである。


 このパートのリーダーは法村風弥(のりむらかざみ)だ。彼女は副部長と、あるファンクラブの「宰相」も兼任している。ストレートのミディアムヘアの彼女は、真面目で苦労人オーラが消せない。

 もうひとりの三年生は京小霧(かなどめさぎり)だ。のんびり屋な性格で、目も細い。いつも彼女をお世話する部員が、誰かしら傍にいる。

 二年生の野田ライオネル武士(たけし)は、イギリス人の父を持つハーフで通称「プリンス」だ。数少ないマーチング経験者でもある。背が一年でグッと伸び、イケメン度が増した。

 ほかにもうひとりの部員がおり、全部で四人だ。


 以前課題として出された曲を、今回選曲した。

 去年の定期演奏会でプリンスが着用した王子の服を衣装係に直してもらい、彼がまたこれを着た。一年生の中でも、彼の人気は既に凄まじい。彼目当てでここに見学に来る者も多かった。









 次はトロンボーンパートだ。

 曲は『明日があるさ』。

 数多くのアーティストがカバーをして親しまれてきたこの曲は、今でも応援ソングとしてとても愛されている。


 このパートのリーダーは窄口汐乃(さこぐちしおの)。そして、もうひとりの三年生は窄中弥来(さこなかみくる)だ。

 このふたりは、どちらもショートヘアに癖っ毛という見た目でよく似ている。いつも一緒で双子のようだが、血縁関係はない。通称「窄窄(さこさこ)コンビ」である。

 それとふたりの一年生がおり、全部で四人のパートだ。


 一年生のふたりは、頭にネクタイを巻いている。これはサラリーマン風に見せるためだ。

 基本、窄窄コンビはこういった格好はしない。後輩に指示を出すだけである。








 最後はユーフォニアムとチューバパートだ。

 曲は『情熱大陸』。

 ドキュメンタリー番組のテーマ曲で、ラテン系のリズムが特徴的である。


 ユーフォニアムのリーダーは鴛淵英莉(おしぶちはなり)だ。和スイーツが大好きな彼女は、京と中学生の時から仲が良い。泣きぼくろがチャームポイントで、性格は京と違ってしっかりしている。

 彼女を含め、このパートは全部で二人だけだ。


 チューバのリーダーは万屋善光(まんやよしみつ)だ。汗っかきで、常にタオルが欠かせない。頼まれればなんでも作るため、みんなから「便利屋」と呼ばれている。有馬が被らされた帽子も、彼の作品である。

 もうひとりの三年生は胃甲瑠瑠(いこううるる)だ。背が高く根暗な性格の彼女は、偉人マニアである。休日はコスプレ衣装を自作して、それを聖地で着て撮影をする。

 このパートは全部で四人だ。


 万屋は、過去のイベントで使用して眠っていたアフロの鬘を被った。

 低音パートでも、ほかに負けないメロディーを奏でられるポテンシャルがあることを示した。








 全てのパートの紹介が終わると、新入生に資料が配られた。

 そこには、各楽器を購入した場合の価格や一年でかかる備品の費用が書かれている。それぞれ数字には幅があるものの、楽器は最低金額でも十万円を超えるものがほとんどだ。高校生にとっては、とてつもなく高い。

 初めてこの説明会に来た者は、これを見てみんな戸惑った。林田巴子(はやしだはこ)もそのひとりで、高額な楽器に頭がクラクラしている。

 すると、彼女たちの前に実音(みお)が立った。もう猫耳はつけていない。


「いきなりこんなの見せられたら、びっくりしちゃうよね。でも、嘘はつきたくないの。吹奏楽は、お金がかかる。それは事実」


 巴子は、不安そうな顔で話を聞く。


「ここに書いてあるのは、あくまで目安。今部員が使っている楽器の値段と、強豪校が使用するような楽器では、雲泥の差がある。だから幅を持たせてるの。で、これを買わなくちゃいけないのかってことだけど、答えはNO。学校の楽器があるから、強制することは絶対ありえない。ただ、品質が必ずしもいいわけじゃないから、そこは悪しからず。この経済的な面も踏まえて、入部は考えてね」


 その後も、実音は練習時間や年間のスケジュールについても説明した。

 音楽室の隅にある椅子に座ってニコニコとそれを聞いている顧問は、ここまで何も言葉を発していない。それを見て、巴子は「この部活は生徒主導なんだなぁ」と思った。これは半分正解だ。残りの半分は、彼が頼りないからである。


「それじゃあ、これから各楽器の体験に移るよ。わかりやすいようにパートのリーダーに楽器持たせてるから、興味のある部員の近くに移動して。経験したことのあるのでもいいし、全く新しくても大丈夫。()()()()()()()()()希望の子と、希望がない子や、どこに行こうか迷っている子は私の所ね」


 前日までに既にパート紹介や説明を受けた新入生たちが、ここで音楽室に入ってきた。彼女たちには事前に楽器体験の時間を知らせてあった。何度も同じ内容を聞く必要はなく、三日連続でこの説明を受けている方がおかしい。みんな目当ての楽器の担当者の方へ進んだ。

 巴子は、実音の元へと向かった。隣にいた北浦奈也(きたうらななり)も同様だ。








「北浦さん、今日も来てくれたんだね。ありがとう」

「はい。今日は友達もいます」


 ついさっき出会ったばかりなのだが、巴子はその言葉に嬉しくなった。

 それと、彼女にはもうひとつ嬉しいことがある。


「あれ? もしかして、公民館の演奏の時にいなかった?」

「は、はい。その節は、ありがとうございました」


 巴子は以前、母親に無理やり連れてこられた公民館にて、吹奏楽部の演奏を生で聴いた。その時は鉄道研究同好会との合同イベントだったが、彼女は終了後に実音からアドバイスをもらえたことで、受験を乗り越えることができた。


「ここ受けてたんだね。名前、訊いても大丈夫?」

「はい。えっと、林田巴子と言います」

「林田さんね。……林田さんは、吹奏楽は経験者なのかな?」

「……すみません。初心者です」

「あ、違うの! 別に経験者じゃないとダメとかないからね! 部活紹介の時に部長が言ったけど大歓迎だよ!」

「……っ! ありがとうございます」


 ほかにも何人か、実音の傍にやってきた新入生がいた。彼女は全員に、どの楽器へ行ったら良いかの提案をする。


「大きく分けると、木管と金管と打楽器があってね、まずはただ簡単に音を出してみたいなら打楽器からがおすすめ。でも、パーカッション(パーカス)は奥が深いよ。周りと違う動きをしなくちゃいけないから、責任感も必要。金管は唇を震わせるのが特徴だね。基本的に、楽器に取りつけるマウスピース(マッピ)が大きい方が音は鳴らしやすいよ。比較的楽に出しやすくて音程も取りやすいのはユーフォニアム(ユーフォ)かな。逆に苦労するのはホルン。さっき聴いてもらった音を参考に、好きな楽器を見つけてね。木管は、初心者でも吹きやすいのはサックスだね。これも新しい楽器だから。フルートとクラリネット(クラ)とアルトサックスはマイ楽器を持ってる人が多いから、それも念頭に入れてね。ちなみに私はオーボエだよ。是非体験に来てね。正直音が出せるか保証はないけど。全部やってみて決めてもいいし、ピンと来た楽器に絞ってもいいよ。唇の厚さによっても吹きやすさは変わるから、私もいろいろ見てきた経験を用いてアドバイスしていくね」


 巴子も、実音にどこから見学をすれば良いのか訊こうとした。しかし、その前に別の部員に声をかけられてしまう。


「ねぇねぇ、同じ小学校と中学校だよね? わたしのこと、覚えちょらん?」

「え? あ、はい」


 話しかけてきたのは、部長の海だった。

 巴子も知っているが、ちゃんと喋ったのは初めてだ。


「中学の時も、仮入部来ちょったよね?」

「……そんなこと、覚えていたんですか?」

「音楽室覗いとったけん、声かけたんよ? ばってん、走っておらんくなって……。嫌われたかと」

「そんな! 違いますよ。ただ、見つかると思わなくて、びっくりしちゃって……」

「あ、そうなの? なら、おいでよ! 丁度今から移動するとこ。レッツゴー!」

「え? え?」


 巴子はまだ希望の楽器を決めていないが、海に連れて行かれてしまった。北浦は、そんな彼女に手を振って見送った。


「北浦さんは今日どうする? 昨日と同じでいい?」


 実音に尋ねられ、彼女は大きく頷いた。

 実音はほかの新入生にどこから回るか決めさせると、残っていた部員に案内を頼んだ。そして楽器を持ち、北浦たち数人を引き連れて練習場所へと移動を開始した。








 割り振られた教室の前に来ると、実音はドアをスライドさせて中に入るように促した。


「みんな。ここが()()()()()()の練習する教室だよ」


 大三東(おおみさき)高校吹奏楽部に、今年度新パートが誕生する。

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