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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
2年生 4月

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16.ご飯・ご飯・おかず

「商店街コンサート?」

「そ。ゴールデンウィークに」

「へぇー」


 昼休み、(うみ)大護(だいご)は向かい合ってお弁当を食べていた。


「それって、実音(みお)も出るんだろ? 行きたかったなぁ」

「来れんの?」

「試合近いけん、ゴールデンウィークは練習で埋まっとるよ」

「それは可哀想に」

「で、実音は?」


 大護が実音の席を見るが、本人の姿はない。

 昼休みが始まると同時に、どこかへ行ってしまったのだ。


「最近、ずっとこの時間おらんばってん、大丈夫か? 顔色も悪い気がするし」

「本番まで時間がなか。それで忙しいみたい」

「『忙しいみたい』って、海も出るんだよな?」

「そうよ。ばってん、わたしは演奏するだけだもん。実音はそれ以外にもやることがあるらしいよ。何すればよかかわからんけん、みんな全部実音に任せっきり。早弁しとったけん、ご飯はちゃんと食べててそこは安心ね」

「俺、海以外に早弁しとる女子初めて見た」


 海はすぐにお腹が空く。だから昼休みとか関係なく何かしら口にする。

 一方実音は、昼休みを確保するために早弁をする。五分程度の短い時間に小さめのおにぎりを食べるだけだ。

 大護は目の前で三段弁当を食べる幼馴染を見て、呆れかえる。


「全然量が違うんだよなぁ。あれだけで持つのか心配」

「燃費がよかかね?」

「海に比べたら、みんなそうだろうな」

「……」


 カチンときた海は、大護のお弁当から唐揚げを横取りした。


「あ、おい!」

「ふふん」

「ったく」


 何度目かわからない手際の良い盗みに、大護は軽く溜め息をつく。


「ところで、なんの曲やんの?」

「ん? んー、内緒」

「は? 俺行けんし、教えてくれたってよかろ」

「だって、お客さんにも当日までのお楽しみだもん」

「へぇー。で、実音はえっと……オーボエ? で出るんだよな」

「ううん。今修理中やけん、今回は吹かんよ。代わりに指揮するって」

「指揮? あー、見たかったなぁ」

「残念だったね。ちなみにわたし、初めてのファーストデビューなの。井上先輩の隣でちょっと恐かばってん、練習頑張っとるんよ」


 主旋律を吹けることに嬉しさもあり、海は楽しそうだ。


「井上先輩って、あのキツそうな女の先輩?」

「最近はちょっと丸くなったよ。実音のおかげかな」

「そっか。やるな」

「そうそう。実音はすごいの。この間、コンサートでやる楽譜が配られてねーー」


 海はその時のことを思い出す。








「曲は、この三曲に決まりました」


 楽譜が行き渡ると、実音が全体を見回しながら話し始めた。


「二枚ずつあると思いますが、一枚は本番用です。なので、こちらには小節番号と最低限のメモだけでお願いします。あまり書きすぎると見にくいですから。もう一枚は練習用なので、好きに書き込みしてください。今から三十分時間を取ります。その時間で各自小節番号と楽譜の必要最低限の確認をしたら、譜読み合奏を始めます」


 実音の指示で、急いで作業に移る部員たち。

 この間までの大三東(おおみさき)だったら、ここまで機敏に行動することはできなかった。

 

 そして時間になり、合奏が始まる。


「譜読み合奏のやり方から説明します。書いてある強弱や表現の指示やスタッカートやアクセントなどの記号は、全て無視してください。強さはmf(メゾフォルテ)でなるべく音は伸ばします。休符小節が続く場合は口に出して数えても構いません。入る場所を間違えないように、パートでも合図を出し合ってください。パーカッション(パーカス)スネアドラム(スネア)バスドラム(バスドラ)のみで。楽譜は無視して刻んでください。ここで気をつけることは、同じ動きのパートを聴き分けることと、和音進行を意識すること。各パートの首席は、どこが練習するのに最優先な箇所なのかも考えながらでお願いします。テンポは五割でいきます」


 メトロノームをかけ、実音はスコアを見つつ全体のバランスや響きを確認していく。

 三曲終わる頃には、みんなしんどそうだった。


「ゆっくりなテンポなので、音を伸ばす練習にもなりましたね。では、細かいところを取り出してみましょうか」


 全く手加減することなく、内容の濃い練習を続ける実音。それに部員たちは必死についていく。

 顧問の(かざり)や見学の一年生も、それを近くでメモを取りながら勉強していた。


 それから個人練習やパート練習や合奏を繰り返す日々が暫く続いた。

 合奏ではメトロノームで合わせる練習が行われていたが、本番が近づくと実音は菜箸を持って机に叩き始めた。

 後で文に、あれは「タタキ合奏」だと教えた。メトロノームでは表現できないテンポの揺らぎや強弱を表す方法だ。

 いきなり指揮をするのではなく、ますばメトロノームで合わせる練習。それからタタキで、ある程度の形を作る。その後指揮でより表現を指示するという順番が、効率の良い練習なのだ。

 時間があまりない状態だったが、海はだいぶ様になっていると感じていた。








「実音が来て、初めての本番。なかなか上手くなったと思うよ」

「ふーん。野球部は、まあまあ上手い一年が入部してくれたばってん、これといった成長がなか」

「きっと、毎日の頑張りが違うのよ。朝練だって、ほとんどの部員が参加しとるし」


 吹部の朝練は、自由参加だった。

 早くから来るほかの生徒がいるため、教室は使えない。音楽室という限られたスペースに、ぎゅうぎゅうで個人練習をしている。


「朝練なら俺たちだってやっとるよ。朝練といえば、実音も見かけたな。ばってん、部活中で話しかけられんかった」

「え、実音が?」


 実音は今、楽器がない。

 だから個人練習は必要がないと思っていた海は不思議だった。


「ああ。中庭の方に向かっていったのを見たぞ」

「……走ったりしとるのかな。ばってん、走り込みは必要なかって言っとったような」

「たしか、文先生もこの前見たな。ほら、土曜日の午前中。駐車場の方に歩いとったぞ」

「ブンブンが?」


 海は先週の土曜日、文が汗だくで午後の練習に現れたのを思い出す。


「そういえば、あの日の午前中はブンブンを見とらんかも。何やっとったんだろ?」

「さあ? そこまでは知らん」


 ふたりで首を傾げながら、お互いの残りのおかずを確認する。

 海の箸が動いた瞬間、ふたりの攻防戦が始まるのだった。

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