11.大掃除と忘年会
冬休みの練習も、とてつもなくハードだ。
年明けの本番に向け、座奏でもマーチングでも、部員たちはネロや白浜春雪のスパルタ指導に耐えた。
また、この寒い時期は楽器の扱いに特に気を遣わなければならない。オーボエやクラリネットは、楽器が冷えた状態で息を入れるとヒビが入ってしまう。全体的にもピッチ(音程)が下がりやすく、チューニングを合わせるのがいつもより大変だ。
そんな日々も過ぎていき、今日は今年最後の部活の日となった。
「これ、まだ使えそうかも」
「うわっ、きったな! このボロボロのスワブ誰の? 捨てるよ!」
「このパート譜、面白そー。やってみたかね」
「コラッ! サボるなー!」
午前中は大掃除だ。
各パートの楽器倉庫担当は、一旦全てを廊下に出して中の清掃をする。それから、眠っている楽器の状態を確認した。これは実音からの指示だ。渡された紙に、どの程度の修理がいるかなどを記入する。
これから先、新入生が入った時に貸し出す楽器の把握をする必要がある。また、特殊管の状態によっては、可能であれば使用したいと実音は思っている。
一番大変なのはパーカッションだ。普段使わない楽器がたくさんある。それをひとつひとつ確認しなくてはならない。
楽器倉庫以外にも、音楽室の掃除をする者や、いつも使っているトイレや教室や廊下を綺麗にする者もいる。
一般生徒が既に大掃除を行ってはいるが、その後にも吹奏楽部は冬休みに使用していた。よって、ここもやるのは当然である。
学生指揮者の実音と造酒迅美と顧問の文は、音楽準備室の掃除担当だ。
ここには大量の楽譜や資料があり、例年終わるのに時間がかかる場所である。
しかし、今年は違う。実音がこまめに整頓していた。さらに、どこ出版のなんの曲のスコアがあるのかを、全て文にデータ化させてある。これにより、文の私物エリアくらいしか掃除の必要はなかった。
だらだらしないように、各清掃箇所のリーダーと終了時間を決めてある。担当場所が早く終わった者は、ほかを手伝った。
これで、今年は予定よりも早く大掃除を終えることができた。
大掃除の後は、全員で調理室に向かった。
これから始まるのは、大三東高校吹奏楽部の忘年会だ。
去年のクリスマス、レク係のバカふたりのせいで大勢が風邪を引いた。その反省から、今年はクリスマス当日のお祝いを実音が禁止した。
気が緩んだ状態で、翌日も練習をするわけにはいかない。それでも、みんなが楽しむ時間はあっても良い。そこで、忘年会にクリスマス要素をプラスすることになった。
「材料、みんな忘れずに持ってきた? 優勝パートには、ブンブンからご褒美があるけんね。わたしも負けないよー! それじゃあ、スタート!」
レク係の海の合図で始まったのは、パート対抗ケーキのデコレーション対決。
スポンジに生クリームやフルーツやなど、持ってきた材料をトッピングしその出来栄えを競う。
景品を自腹で用意した文は、生徒たちが楽しそうにデコレーションをしている様子を見て回る。隙あれば自分も加わろうと思っているが、なかなか入れてもらえない。
「海、そのクリーム全部かけなくても……」
「え? いっぱいあった方がよかでしょ?」
「ねぇ、今何乗せようとした?」
「これ? ゼリー! キラキラして綺麗でしょ?」
「誰か泓を止めてー!」
「はなりんのパート、それ何?」
「かんざらし」
「どんだけ和スイーツ好きなの?」
「やばっ! 崩れた!」
「仕方なかね。任せなさい!」
「あさちゃん、ナイス! さすが大三東の母!」
「あのー。窄口先輩も、窄中先輩も、何か指示してくださいよ」
「えー。適当にお願い」
「えー。全部任せた」
「もー!」
そして、たくさんの個性的なケーキが仕上がる。
全パートが作ったものを少しずつ切り分け、文が審査した。彼は安い植物性の生クリームをたくさん口に入れたことで、胃もたれしそうだった。
各パートのケーキのタイトルと文の評価は、以下のとおりである。
フルート
『苺とマシュマロたっぷり、ガーリーケーキ』
(見た目が可愛いね。酸味と甘味が交互に楽しめたよ)
オーボエ
『ガトーフレーズ』
(え、手作り? これ、お店で買ってきたんじゃなくて?)
クラリネット
『マシマシマシマシ』
(すごいね。なかなかスポンジに辿りつかないよ!)
サックス
『カオスケーキ』
(これが映えってやつなんだろうね。ところで、あのジャリッとしたのはなんだったのかな?)
トランペット
『母のケーキ』
(懐かしい味がするね。なんだか泣けてきたよ)
ホルン
『プリンスケーキ』
(タイトルの意味はわからないけど、中のカステラが美味しいね)
トロンボーン
『普通のケーキ』
(見た目も味も普通で美味しいよ)
ユーフォニアム
『和洋折衷ケーキ』
(この白玉のもちもち感がいいね。新食感のケーキだったよ)
チューバ
『島原城ケーキ』
(彫刻かと思った! 生クリーム以外のトッピングも欲しかったなぁ)
パーカッション
『推し活ケーキ』
(これアクスタっていうんだっけ? え、いる? キャラクターに見つめられると食べにくいよー!)
最終結果は、「見た目が良いで賞」がチューバ。「味が良いで賞」はホルン。そして優勝はオーボエに決まった。
実音の作ったケーキは、家で事前に焼いたスポンジを使っている。そのしっとりとしたスポンジで三段のケーキを作り上げた。クリームはほかと同じく植物性だが、コンデンスミルクを加えてコクを出している。それをパティシエのように回転させながら綺麗に塗り上げた。また、この時期の苺は高いため、冷凍の苺で手作りしたジャムを間に塗った。シンプルでコスパも良く、味と見た目が最高な一品だ。
「あんなに美術苦手なのに、どうしてケーキは上手くデコレーションできちゃうの!?」
海のもっともな質問に、実音は曖昧な笑みで返した。
「みおたん、おめでとう! はい、これ。ご褒美だよ」
レク係の泓から渡されたのは、駄菓子の詰め合わせだった。
「……ありがとう」
ほかの受賞パートも、微妙な表情で受け取っている。
「お腹空いたー! 早く食べよ! いただきまーす!」
海の号令で、ここからはお菓子パーティーだ。
ほかのパートと、余ったトッピング用のお菓子含めて交換しあった。実音のケーキとホルンパートのケーキは、あっという間になくなってしまった。実音は、ついさっきもらった駄菓子もみんなに分けてあげた。
やがて食べ終わると、次は一年生のレク係の登場だ。
「んじゃ、この箱からクジ引いてくださーい」
「みなさんからお預かりしたプレゼントに、番号を貼りつけておきました。引いた番号と同じ物を、ここから取っていってくださいね」
トランペットの有馬咲太郎と、クラリネットの松崎萌季の説明でスタートしたのは、プレゼント交換だ。
みんなドキドキしながら、前に置かれているラッピングされたプレゼントを取りに行く。
「このタオル、柄が好み!」
「こっちは入浴剤だ。今日早速使おっと」
「……カボチャ?」
「あ、それ当たりだね。音和家産だよ!」
「なんで自分のに当たんだよ!」
「あんたの日頃の行いのせいじゃない?」
「どういう意味すか!」
「あ、プロテインだ!」
「やったね、野田! それ僕からだよ。体育の先生からもらっちゃって、困ってたんだよね。この間あげた筋トレグッズに丁度いいね」
「はい!」
当たりやハズレを引き、盛り上がる部員たち。
こうしたレクがたまにあると、仲も深まる。メリハリをつけた部活動は大事だ。練習をする時は真剣に、そして遊ぶ時も全力で。
そういった学生らしさは、今だからできることだ。
最後に調理室もきちんと掃除し、今年の大三東の部活動は終了した。




