表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
12月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/322

4.容赦しません!

 合奏から抜け、ひとりで教室にて練習をする副部長の法村風弥(のりむらかざみ)

 彼女はメトロノームをかけ、同じフレーズを何度も繰り返していた。すると、そんな彼女の音に引き寄せられ、ひとりの女子生徒が教室に入ってきた。


「もう、そっちの合奏は終わったの?」

「……造酒(みき)


 別のグループを率いる造酒迅美(はやみ)の登場に、追い詰められていた法村のピンと張った糸が、少しだけ緩まった。


「まだ。ネロさんに課題出されちゃって、練習中」

「……そっか」

「造酒は?」

「あー、自分たちで合わせてたんだけど、上手くいかない箇所があって……。それで、雅楽川(うたがわ)に訊きにいくところ。ほかのみんなは休憩させてる」

「上手くいかない? ばってん、ネロさんが造酒たちのグループは工夫が見られたって。あの人、褒めとったよ?」

「そうなの!? 全く言われた覚えなか!」


 造酒は信じていないが、法村は確かに本人から聞いた。暴君だが、実音(みお)に対しての時のように、彼はちゃんと認める時は素直に認める人物である。


「造酒、何したの? 何をやったら、あんな風に褒められるの?」

「え! 大したことは何も……。強いて言うなら、(うみ)が……」

「海?」

「そう。海が『実音の練習みたいに、足踏みしようよ』って」

「それだけ?」

「うん。あとはプリンスが中心になって、それぞれのブレスの位置とか決め直したくらい」

「本当に、それだけ?」

「それだけだって。だから、そんなに褒められるようなことは何も……。あ、合奏中に足踏みしたら、あの人『は?』って言って目を丸くしとったかも」


 実音の合奏で造酒たちは慣れてしまったが、急に元気良く足を動かす奏者を見れば、普通は驚く。

 それで上手くいったため、結局造酒たちのグループは、本番でも立奏で足踏みをしながら演奏することに決まった。


「ほら、ウチらの曲ってそういうのでしょ? 曲調に合っとっただけ。別に演奏のレベルが一気に上がったとかではなか」

「それと同じこと、私たちもしても大丈夫かな?」

「どうだろ?」


 一緒に首を捻る造酒。彼女にも、ネロの正解はわからない。


「何しとーと?」


 すると、別の教室から法村と同じホルンの京小霧(かなどめさぎり)が出てきた。


(きょう)ちゃん! 練習は?」

「うん? 休憩に入ったよー」


 伸びをしている(かなどめ)。実音の合奏で凝り固まった身体をほぐしている。


「今なら、雅楽川空いとるかも。ちょっと、行ってくる」


 造酒は京が開けたドアから、中に入っていった。

 そこで、法村は同じ課題を出されて合格した京に、藁にもすがる思いでアドバイスをもらうことにした。


「ねぇ、(きょう)ちゃん」

「なぁに?」

「雅楽川さんから、『剣の舞』のアドバイスもらったんだよね? なんて言われたの?」

「えっとねー、うーんと『テンポが遅れてるから、一旦ゆっくりのテンポで音を刻んでみたら?』って。あと『拍と同じタイミングで片足で床を踏んでみて』とも言われたよ。それと『音の長さが曲に対して長いから、頭に鉄砲をイメージしてみて』って。それでやったら合格したよー」

「なるほど」


(それで私も合格できるかな?)


「ありがとう、京ちゃん!」

「うん。どういたしましてー」


 いつも細い(かなどめ)の目が、法村は更に細くなった気がした。









 京から聞いたことを意識して、法村はまた教室でひとり練習した。

 だが、合奏を抜けてきたため、そんなに長くやっていられない。一度気合を入れ直し、また暴君に挑みに音楽室へと向かう。








「どんな練習してきたの?」


 法村が課題を演奏し終わると、ネロは質問をしてきた。

 そこで彼女は、先ほどやってきたことを説明した。


「それ、誰かから聞いた?」

「は、はい。同じパートの子から……」

「それってカナドメ?」

「……そうです」


(同じ課題だから、これで大丈夫だよね?)


 祈る彼女に対し、ネロは溜め息で返した。


「……」


 何がダメなのか、自分ではわからない。その上、上手くなった気もしない。

 これ以上、どうすれば良いのか何も思いつかなかった。


「お前、何でミオに教えてもらわなかったんだよ」

「え? あ、その……忙しそうだったので。彼女にアドバイスをもらった子から聞けば充分だと思いました」

「あのさー、カナドメとお前じゃ、全然違んだよ。あいつはテンポに乗り遅れてるけど、ノリムラは焦って転んでるの。わかんなかった? 音も縮こまってて、響きもない。自信のなさが曲にも出てんの。尋ねる相手も間違えてるし」

「……すみません」

「それ! 辛気臭いんだよな。このグループ、一番元気がねーんだよ。ミキたちの方がまだマシ! ちょっと、聴いてろ」


 そして法村以外のメンバーで、ネロは曲の演奏を彼女に聴かせた。

 それは、今までとは全くの別物だった。


(ウソ! こんな音出るの?)


「違うだろ? こいつら本当はもっといい音出るんだよ。ミオはしょっちゅう歌わせるんだろ? オレは大学でそんなことしたことないけど。慣れてる練習でやらせた方がいいかと思って、オレも今回それを採用した。簡単なことじゃん。で、お前だけど……」


 ネロはタクトを持つと、それを彼女に渡した。


「それ、オレに向けてみ?」

「え?」

「いいから」

「は、はい」


 言われたとおり、法村は彼に向けてみる。

 だがその位置が低いのか、ネロは彼女の腕を少し上げさせた。タクトは彼の胸の辺りを指している。


「心臓、ぶっ刺すつもりで吹け」

「っ!?」


 過激な言葉に目を見開く法村。そんな彼女からタクトを取り上げると、ネロはホルンに一度視線を向けてから彼女を見た。


「じゃ、あっちで吹いてみ?」


 彼が指差したのは、音楽室の後ろだった。

 戸惑いつつ指示に従うと、彼はメトロノームを鳴らした。


「そこから正確に心臓目掛けてぶっ刺すには、どうしたらいいのか考えてから吹けよ?」


 法村は考えた。

 頭の中に鋭く光る剣をイメージする。同じ箇所を何度も貫くように。素早く、強く、殺意を持って。グループのリーダーの仕事が果たせず、こうしてひとり別の課題をしなければならない情けなさを、全て怒りに変えた。








 練習後、ほかが楽器を片している中、法村はネロと今後の練習方法について話していた。


「歌はやった方が良さそうだな。中低音はもっと音量が欲しいから、ロングトーン多めにやっときな」

「はい!」


 課題は合格。

 縮こまっていた演奏から、彼女は解放された。


「ノダの音を活かすために抑えてたのかもしれないけど、今度のはいないんだからな。それで力みすぎるのもダメだ。ホルンのいい音からは逸れるな。お前、音質は悪くないんだから」

「あ、ありがとうございます!」


 初めて出た褒め言葉に、法村はやっとこれまでのことが報われた気がした。









 ボランティア演奏の日が近づき、実音は朝やお昼の時間を使って生徒会の練習を見ていた。

 吹奏楽部は今回、演奏に専念する。そのため、彼らには歌やダンスをしてもらう予定だ。

 学校のリーダーに立候補するだけのことはあり、生徒会は練習もとても真面目だった。家でもやっていることに、実音はすぐに気がついた。


「顔、引きつってるよ。ほら、笑顔!」

「その動き、適当になってる。そこはこうやって、もっと大きく動かさないと!」

「それだと、恥ずかしさが伝わっちゃうなぁ。マイク使うから、音量より口をとにかく開けてね」


 そんな優秀な彼らにも、実音は全く甘くしない。

 真剣に取り組んでいるが、それだけでは満足しなかった。あくまで、これは聴く側のためのもの。だから、部員と同じように高い質を求めた。

 生徒会の彼らは、それに対して一切文句を言わない。責任感の強い彼らは、どんなに注意されても嫌な顔ひとつせず、その要求に応えようとした。


吹奏楽部(吹部)って、演奏だけじゃないんだなぁ)

(運動部かな、これ?)

(雅楽川さんって、かなりのスパルタだったんだね)

(表情筋がダメになりそう)


 言いたいことは心の中に留め、ひたすら実音のレッスンに耐える生徒会であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ