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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

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13.裸で語り合いたい! ②

 修学旅行とその後の振替休日が明け、二年生は後輩たちにお土産を渡した。


「はい、どうぞ!」

「ありがとうございます」

「中身何かな?」

「部長のことだから、お菓子だろうね」

「絶対そう!」


 (うみ)が渡した箱を、期待を込めて開けるクラリネットの一年生。

 しかし、包装紙を剥がし箱に書かれた文字を見て、一瞬時が止まる。


「いやいやいやいや」

「見間違いかな?」

「どこ行ったんだっけ?」

「東京のはず」


 見えてしまった商品名は「カステラ」。

 頭を横に激しく振って、一応中を確認する。


「……」

「嘘でしょ?」

「お菓子は合ってたね」

「見覚えしかなか」


 やはり、中身はカステラだった。


「ごめんねー。バッタバタしとったけんね、空港で買ったんよ」


 関東へ行ったはずの先輩からまさかの地元のお土産を渡された後輩たちは、大きな溜め息をついた。


「カ、カステラも美味しいですよ。嬉しいです。ね? ありがとうございます」


 松崎萌季(まつざきもえぎ)が苦しいフォローを入れる。だが、彼女も心の中では盛大な舌打ちを鳴らしていた。


 同じ頃、サックスパートでもお土産に関する問題が発生中だった。


「ジャーン! 見て見て! 可愛いよね? 横浜で買ったの!」


 頴川紅(えがわべに)が取り出したのは、缶に入ったハンドクリームだった。オシャレ女子らしいチョイスだ。

 後輩からも「おー!」と歓声があがる。


「でもごっめん! 予算の都合でひとつしか買えなかった! 楽器倉庫に置いておくけん、みんなで使おうね!」


 本来なら、人数分買う予定だった。しかし、思ったよりも物価が高かったのと、学年主任からお小遣いを無駄に多く持ってきていないかチェックされてしまい、それは叶わなかった。


「恨むなら、海を恨んでね!」


 楽しみにしていた東京観光も、行きたい場所には行けなかった。頴川は口を滑らせた海を、まだ許していない。

 彼女は購入したハンドクリームの缶を開けて、早速塗ってみる。


「ほらほら、匂いもよかね」


 香りを嗅いで、その良さをアピールしてくる。

 それに後輩たちは「なんで先輩が先に使うの?」と言いたくなった。


「オレからもあるよ!」


 そこに同じパートの泓塁希(ふちるいき)が現れた。

 彼もお土産を持ってきたが、誰も期待はしていない。


「どうぞ!」


 彼が置いたのはお菓子の缶だった。


「え?」

「普通だ」

「まさか」

「ありえん」


 テーマパークで購入したと思われるパッケージに、少しだけテンションが上がる。そしてひとりがその缶を持ってみる。


「あれ?」


 想定していた重さが感じられない。

 嫌な予感がする。


「いや、そんなわけ……」


 恐る恐る蓋を開けると、中は空っぽだった。


「オレからは、東京の空気のプレゼント! 都会の空気だよ!」


 満面の笑みの泓に、後輩たちは唖然とした。


「先輩、中身は?」

「空気が入らんもん、その場で食べたよ」

「これ、どこで買いました?」

「東京!」

「そこ、東京ですらなかとです!」

「そうなの?」


 彼の奇行を止めなかった頴川と網田に、後輩たちは恨みの視線を向ける。


「ごめん! パケだけ見て『ちゃんとしとる』って思っちゃった!」

「行く前なんて、こいつ『富士山の何かを買う』とかほざいとったんよ? 富士山が東京にあると思っとるバカなの! それは阻止したけんね!」


 元から、まともな物をもらえるとは思っていなかった。見た目で少しだけ期待してしまっただけだ。

 この缶は、新しいリードの墓場として活用することが決まった。


 一部センスのないお土産を買ってきた二年生。そうなると、可哀想なのは一年生だ。

 パートの後輩を持たない実音(みお)は、そんな一年生全員にお菓子を配る。渡したのは、小分けに包装された「雷おこし」と「人形焼」だった。


雅楽川(うたがわ)先輩、女神です!」

「普通こういうのですよね」

「東京を感じます!」

「パート違うのに、ありがたやー」


 自身のパートのお土産に納得できなかった者は、実音を拝んだ。

 実音はこの旅行で一年生だけでなく、ちゃんと三年生へのお土産も持って帰ってきた。ただし、ほかの生徒と同じで予算は限られている。しかも物価も高い。それでも買えたのには訳がある。

 実は修学旅行へ行く前に、ネロから商品券を渡されていた。元カノからもらったものらしい。つまり「オレにも何か買って来い!」という指示だ。


「お礼なら、ネロさんにね」


 そう言われても、なぜか素直に感謝の気持ちが湧かない。実音にならいくらでもお礼が言えるのだが、不思議である。









 自主練習の日に、海は実音を近くにある温泉に誘った。


大三東(おおみさき)にも温泉あるんだね。ここは弱アルカリ性だって」

「それだと、どうなるの?」

「お肌がすべすべになるよ」

「あー。だから『美人の湯』なのね」


 海はお湯を何度も肩や腕にかけて塗り込んだ。


「筋肉痛や打ち身にも効果あるって。ガードの子たちにも、入ってほしいね。私がいない間もちゃんと練習してて、アザができてたから」


 痛みがつきもののカラーガード。上達するために、今は我慢するしかない。慣れるまでは、ここで癒してもらいたいと思った。


「ねぇ、実音」


 ここで、海が話を切り出した。

 今日の練習を早めに終わらせてまで誘ったのには、もちろん理由がある。


「あの時会った方南(ほうなん)の人、実音の友達だったの?」


 実音も、彼女に呼ばれた原因は想像がついていた。

 あれから、周りに心配をかけていることもわかっている。


「『友達』……ではないかな。『仕事仲間』の方が合ってるかも」


 実音にとって、部活は仕事だ。遊びや趣味などではない。お金や時間といった対価を観客から頂き、それ以上のパフォーマンスをするために、日々鍛錬を積む場所である。

 部活では、部員は家族よりも長い時を共にする。方南で生まれた部員同士の関係は、とても楽しい友情とは呼べなかった。


「完全実力主義の環境だから、長谷部(はせべ)の言うことはいつも正しい。『ダッタン人』のアングレのソロも、彼女が取ったしね。今の私が気に食わないのも、理解できるよ。……ごめんね、心配かけちゃって。でも、大丈夫だから。それでも、私はここでやるって決めたから」

「うん。そっか。でね、わたし気になっとったことがあってね」

「?」


 思っていたより海があっさりと話を流してきたため、実音は拍子抜けする。


「実音って、向こうでは苗字で呼び捨て派だったんだね」

「え? そこ?」

「だって、こっちじゃ『さん』とか『君』ってつけるよね? わたしは呼び捨てだけど、名前だし」

「あー、うん。そうだね。方南は基本あんな感じだよ」

「おとろしかー! わたし、実音に『音和(おとなぎ)』なんて呼ばれたくなかよ!」

「……ふふ。そうだね。それ、ちょっと違和感あるかも」

「でしょ!」


 かつての仲間との再会で固くなっていた実音の身体が、今ほぐれた。

 温泉の効果もあっただろう。しかし、一番は「親友」のおかげである。


「あ、ねぇねぇ! 修学旅行の最終日から、大護(だいご)の様子がおかしくなったんだけど、何か知っとる?」

「そう? 気がつかなかったなぁ」


 実音は、本当に身に覚えがない。自分が原因のひとつであることなど、思いもしなかった。


「ま、よかね。大護のことだし、すぐにコロッと元どおりよ。それより、(あずま)君ともっとお喋りしたかったなぁ。一緒の時間が長くて、ご飯もあんまり食べられなかったんだよね。彼、顔面偏差値高いもん。食欲が抑えられちゃうっていうか」


 その発言に実音は頷けない。平均的な男子の食事量よりは、海が多く食べていた記憶しかないからだ。

 それは置いておいて、海は結局転校生の東(しゅう)との発展は得られなかった。


「……東君かぁ。うーん。どうしよっかなぁ。言っちゃっていいのかなぁ」


 実音はあることを言うかどうか迷っている。


「え、なになに?」


 気になる相手の情報はなんでも知りたい海は、実音に詰め寄った。


「変なことじゃないし、いっか。あのね」

「うんうん」

「三日目の夜に偶然会ったの。で、彼がね、突然告白してきてね」

「……え?」

「あ、そういう意味じゃないよ! 違くて、東君がね、私に『似てる』って急に言ってきたの。『何に?』って訊いたら『俺が飼ってた猫に似てて』って。彼の前住んでいた家に保護猫がいたらしくて、今も東京のお父さんと暮らしているの。その猫のことを思い出しちゃったんだって。『猫吸い』したくなったみたいで、でも私じゃ違ったって。そりゃ、私人間だもんね。なんかね、自分と同じ境遇だと勘違いしたようなんだよね。それで、勝手に親近感湧いたのかな?」


 さらっと出たワードに、心臓が止まるかと思った海。そこから、次々と飛び出す情報についていけない。


「ちょっとストップ! え? どゆこと?」

「だからね、家庭の事情で島原に来たであろう同級生が、自分の可愛がっていた猫に見えて会いたくなっちゃったってこと」

「ん? ん?」


 東の親が離婚したことを知らなかった海には、何を言っているのかわからない。さらに、なんにも興味を示さない彼が、ペットに夢中だということが想像できなかった。


「動物全般好きらしいから、動物園でも誘ってみれば?」

「う、うん。……うん?」


 もふもふに囲まれた東に違和感しかなく、海は首を傾けながら返事をした。


「あ、それとね。海に大事なことを頼みたくて」

「何?」

白浜(しらはま)さんとも話してね、海にドラムメジャーを任せたいなって」

「ドラムメジャー……ってあの!? わたしが!?」

「そう」


 海は、修学旅行で偶然見たドリル演奏で、指揮杖を上下に振ったり投げたりキャッチしていた部員を思い出した。

 それをまさか自分がやるとは、思いもしなかった。


「やってみたか!」

「海ならそう言うと思ったよ。覚えること多いけど、白浜さんに教えてもらってね」

「了解!」


 すっかり長湯になってしまったせいか、赤い顔で海は元気に返事をした。

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