表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/322

10.修学旅行 ②

 もんじゃのお店を出た後も、実音(みお)たちは引き続き観光を楽しんだ。

 神社でおみくじを引いたり、ぶらぶらお店を眺めたり、東京らしい場所を見つけては写真を撮ったりした。

 学生には値段が高すぎて入るのが難しいお店もたくさんあるが、それはそれで楽しかった。「大人になったら、またいつか旅行で来よう」という約束ができたからだ。

 前日は、クラスでバスを使っての東京観光だった。国会議事堂や迎賓館といった建物を中心に見て回った。今は、下町の空気感を満喫している。


「それにしても、人が多いよねー」


 七種結乃花(さえぐさゆのか)は、周りをボーッと眺めて呟いた。

 歩き回ったため、現在公園で休憩中だ。


「こんだけ多いと、もしかしたらスカウトの人もおるかも! 声かけられたらどうしよう!」

「いらん心配すんなよ」

「はぁ? わからんでしょ!」

「間違って(うみ)がされたとしたら、それはぽっちゃり専門雑誌の人かもな」

「やかましかー!」


 海は大護(だいご)に思いっきり蹴りをお見舞いする。


「イッテ! そういうところだぞ! そもそも、スカウトされるのは実音とか(あずま)くらいだろ。実音はこっちに住んでた時、よくされたんじゃないか?」


 大護が実音に尋ねると、彼女は目を逸らして曖昧な顔をする。


「どうだったかなぁ?」


(これはされたな)


 その反応に、みんな「やっぱり」という感想を持つ。


「東君は? 東君こそ、そういう経験あったでしょ?」


 今度は、実音が東(しゅう)に訊いてみた。

 すると、彼はいつもどおりの面倒くさそうな顔で返す。


(こっちもか)


 ふたり共、そんな話を聞いても驚かないくらいの容姿である。逆に自慢話にもならない。


「実音はどうして断っちゃったの?」

「えっと……部活しか考えられなかったからかなぁ。興味もないし。それに……」

「それに?」


 言葉に詰まる実音に、海は不思議がる。


「……いろいろね」


 言葉を濁されたが、それ以上は誰も追及しなかった。

 きっと何かあったのだろうが、スカウトを断ったから今こうして一緒にいられるのだ。海も大護も、彼女が誘いを受けなかったことに感謝した。









 ホテルに着いて夕食を終えると、自由時間だ。

 お風呂の前に、実音と海はほかの部員を全員広い場所に集めた。


「よーし! みんな今日もやるよー!」


 なぜ集合したのかというと、ここで呼吸法やマーチングの基礎トレをするからだ。

 事前に教師に許可を得てあり、ホテルの従業員にも確認済みである。

 楽器を吹けないが、数日何もしないと身体が鈍る。そうならないように、身体作りだけは怠らない。周りの友人たちに変な目で見られようと、一切気にしない。精神力も鍛えられると、プラス思考をする。


「ふぅー。お疲れー。昨日より、好奇の目が減ったね」

「すぐに飽きるよ」

「ブンブンもよか運動になったでしょ?」

「ははは」


 顧問の(かざり)も、珍しく今回は参加している。

 一応責任者として、ほかの教師にちゃんとやっているところを見せるためでもある。


「バスケ部に負けてられないもんね。僕も顧問らしいところ、アピールしなくっちゃ!」


 実は、吹奏楽部のほかにバスケ部も同様に修学旅行中もトレーニングをしている。

 それを見て野球部の大護は焦ったが、もう使用できるスペースがなく断念した。


「明日もやるから、よろしくね」


 この練習の提案者の実音は、ひとりだけカラーガード用の別メニューをこなしながら部員に伝えた。

 折りたたみ傘を使って身体を伸ばしている。さすがに振り回すことはしない。


「旅行を楽しんでいるのか、いないのか、雅楽川(うたがわ)ってわからんよね」


 トランペットの造酒迅美(みきはやみ)は、扇子で仰ぎながら話す。


「はやみん、それ買ったの?」


 その持っている扇子に、海は反応した。


「え……。あー、これは……」

一丸(いちまる)に買ってもらったとか?」

「……」

「え! 当たり?」


 肯定を表す沈黙に、海の目が大きく輝く。


「えー、うっそー! やったね、はやみん!」

「こ、これは、ただ買ってもらっただけだから! 『なんでも買う』っあいつが言うけん、それならって!」


 顔を真っ赤にする造酒に、みんなニヤニヤ顔を向けた。

 そこに、ホルンの法村風弥(のりむらかざみ)も加わる。


「造酒と同じ班の子が、さっきトイレでみんなに話しとったの聞いちゃったよ? 彼が造酒に『迅美は可愛いから、誘拐されないように俺から離れるなよ!』って言っちょったって。常に近くで護衛してたんだってね」


 その報告に「キャー」という声があがる。

 揶揄いよりも、素直な祝福と羨ましさから成るものだ。


「うぅー。もう、恥ずかしかー!」


 逃げるように去っていく造酒。

 そこで、吹奏楽部の集まりは解散となった。








 実音は、長めのお風呂からやっと出た。

 温泉ではなかったのは残念だが、家よりも大きい浴槽やサウナをたっぷり堪能した。一緒の時間に入ったクラスメイトは、とっくに上がっている。

 髪を乾かし、彼女はひとりで部屋へ向かう。

 

「実音!」


 そんな彼女と、大護は運良く出会うことができた。


「大護君、どうしたの?」


 時間的に彼女がお風呂上がりだとわかり、緊張する大護。

 それでも、勇気を振り絞る。


「あっちのベンチで少し話さないか?」

「うん、いいよ」


 承諾を得て、(はや)る気持ちを抑えながら彼は一緒に移動した。


 ふたりが座ったのは、廊下から横に逸れたスペース。

 柱が死角になり、よく見ないと廊下側からはわからないような場所である。


「さっき、同じ部活の奴から昼間に見つけた珍しい缶をもらったんだ。これなんだけど」


 彼が実音に見せたのは、カレー味のスープだった。


「自販からカレーだって。面白かろ? 今日は実音も辛いもの平気って言っとったし、どうかなって」

「わー、ありがとう。でも、いいの?」

「よかよか」


 見かけたことがある缶を出されたが、彼女はそれを伝えずにお礼を言った。

 その場で開けてもらい、受け取る。


「ふふっ。カレーだね」


 お風呂上がりには相応しくないチョイスにも、彼女は文句を呈さない。むしろ、味わって飲む。

 半分以上まだ残っているが、ふと時計を見ると、そろそろ消灯時間だ。


「あ、もう行かなくちゃ。歯磨きもしたいし。大護君、これありがとうね」


 そして、実音は飲みかけの缶を彼に返した。


「え……。え!?」


 驚く大護に彼女は「おやすみ」と言って、部屋へ急ぐ。

 残された大護は大パニックだ。

 だが、缶をそのままにしておくわけにもいかない。


「いいんだよな? 犯罪じゃないもんな?」


 一応、周りに誰もいないかキョロキョロと確認する。

 

「こら、(あさひ)! そんなところで何やっとるんだ! さっさとそれ飲んで、部屋に戻れ」

「あ、は、はい!」


 突然現れた学年主任に声をかけられ、大護は一気に缶の中身を飲み干した。


(しちゃった……初めての間接キッス)


 家族や海はノーカンである。

 これは、大護にとっては歴史的瞬間だ。

 それがカレー味というのは彼自身もどうかと思ったが、仕方がない。この缶を持って帰るのは、さすがに気持ち悪いだろうかと彼が考えていると、学年主任が再びやってきた。そして「早くしろ!」と注意される。


「今、行きます!」

「おい、ゴミは捨てていけよ」

「……はい」


 缶を持って戻ろうとした彼に、教師は当然の指摘をした。

 不自然な行動ができない状況に、大護は心の中で泣きながら缶を捨てた。








 実音が部屋に戻ると、同室のクラスメイトは既に寝る準備に入っていた。しかし寝る様子はなく、恋バナの真っ最中だった。

 彼女も支度を急ぎ、布団に入る。寝る気満々だ。


「ちょっと、実音! 何寝ようとしとるの!」

「え?」


 消灯時間のため、電気は暗くしてある。

 音量を抑えた声で海は注意した。

 前日は早起きと移動の疲れで、全員すぐに寝てしまった。だが、今日は全員夜更かしをするつもりだ。


「修学旅行だよ?」

「……うん?」

「合宿や旅行と言えば?」

「いつもより寝られる!」

「そうじゃなか!」


 実音にとって泊まりの行事というのは、普段より規則正しい生活を強制的に送ることができる日だ。

 合宿の練習は長くて大変だが、睡眠時間を確保できるからか、いつも肌艶が良くなる。


「恋バナだよ! 夜更かしするの!」

「えー」

「『えー』じゃなか! ほら、実音の番だよ。告白されたことあるんでしょ? その時のこと、教えてよ」


 合宿で聞いたことを、海は更に根掘り葉掘り聞こうとする。

 ほかのクラスメイトたちも、興味津々だ。


「何それー! 聞きたかー」

雅楽川(うたがわ)さんの話、めちゃくちゃ気になる!」

「どんな人だったの?」


 止めてくれる人がいないため、黙って乗り切れそうにない。

 そこで、仕方なく実音は口を開いた。


「去年だと、たしか隣の席の人に手紙渡されたかな? あんまり話したことないし、それが授業中だったから、すごく困った。あと、体育祭で自分の種目が終わって移動中に、知らない先輩に。私にとっては初めましての人なんだけど、向こうは前から知ってくれてたみたい」

「なんでそんな知らない人から告られるの?」

「さぁ? 誰でもよかったのかな?」

「それはどうだろ」


 実音は、基本部活以外の生徒とは話すことが少ない。方南(ほうなん)では、今以上だ。

 なかなか話しかけるタイミングがなく、実音のことが好きな男子は授業中や行事の空き時間に告白する。

 隣の席の彼は、実は学年一のモテ男だった。だが、渡した手紙に対しその場で両手を合わせた「ごめんなさいポーズ」で振られた。ショックで彼女のいない休み時間に泣いていると、彼が告白したことを知った実音の親衛隊に、接近禁止令を言い渡された。

 先輩の彼は、学校一のモテ男だった。人気(ひとけ)のない場所で告白をして、見事振られた。何度もしつこく迫ろうとしたが、同じく親衛隊に粛正された。

 実音は、自身に親衛隊がいることを全く知らない。


「大したこと話せなくて、ごめんね。じゃあ、寝よ? おやすみ」

「あ、実音!」


 まだ続けたいクラスメイトたちは、その布団を剥ごうとした。

 しかし、見回りの教師が来たため断念する。その間に、実音は深い眠りへとつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ