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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

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9.修学旅行

「あれ食べたい!」

(うみ)。さっき、メンチカツ食べたでしょ。この後お昼ご飯なんだから、我慢して」

「むー」


 今いるのは東京の浅草。

 周りには多くの観光客がおり、海外からもたくさん来ているようだ。


「何かお揃いの物でも買う?」

「ナイス、ゆのん! 何にしよっかー?」

「おい、あんまりはしゃぐな。迷子になるぞ」

「ならんよ。子供じゃなか! ほら、実音(みお)も行こ!」

「うん!」


 女子たち三人は、観光客向けのお店が並ぶ通りへと走って向かう。その後を、男子三人が追った。


「日本っぽいのが多いね。外国人向けかな? あ、お団子美味しそう!」

「海」

「あー、はいはい。わかりましたよっと」


 実音から止められ、海は諦める。今日は近くに東柊(あずましゅう)もおり、いつもよりは食欲をセーブしている。


「ねぇ、これは?」


 七種結乃花(さえぐさゆのか)が見つけたのは扇子だった。


「可愛い! 実音も夏に使っとったよね?」

「うん。中学の修学旅行で京都に行って、そこで買ったの」

「今十一月だしなぁ。寒いよね」

「そっかぁ」


 見つけた七種は残念そうだ。

 柄を気に入っていたため、後ろ髪を引かれる。


「あ、これは?」


 次に見つけたのは実音。

 今度も和柄の雑貨のお店だ。手拭いや和傘などが並んでいる。


「このポーチはどう? お手入れ道具入れにぴったりの大きさじゃない?」


 実用性のあるものしか探していなかった彼女は、部活で使えそうな物を選んだ。

 リードケースやクリーニングペーパーやキーオイルなど、必要な道具を入れるには充分な大きさがある。


「あ、可愛い!」

「これにしようよ!」


 ふたりも気に入ったようだ。早速三人でお揃いのポーチを購入した。

 はしゃぐ女子たちに追いついた大護(だいご)は、しっかりしていない班長の海に代わって声をかける。


「お楽しみのとこ悪い。写真忘れとらんか? おーい、記録係頼む!」

「おう!」


 遅れてやってきた内山田花太(うちやまだはなた)は、自身のスマホを取り出した。彼はこの班の記録係で、その仕事は写真撮影だ。

 海が学年主任に口を滑らせたせいで、記録係には位置情報が教師にわかるようにスマホを設定されてしまった。そして目的地で必ず写真を撮り、それをその場で送ることになった。

 自撮りで六人全員で撮ったものを、内山田は学年主任へ転送した。


「俺だけ顔デカいんだけど」

「自撮りは操作するもんがそうなる宿命やけん、仕方なか」


 あえて後ろに下がった女子たちは、遠近法で良い感じに写ることができた。一番下がったのは海だ。


「もう次行かないとダメだな」

「えー。まだ見たりなかとよ」


 時間を確認する大護に、海は不満そうだ。


「後輩のお土産もまだだもん」

「ホテルで買えるって、先生も言っとっただろ? お昼の時間なくなっても知らんぞ」

「それはヤダ!」

「なら、ついてこい」


 地図係の大護が、次の目的地まで先頭で歩く。

 こういう時、本来なら東京出身の実音と東が仕切るのが望ましいのだろう。だが、ふたりは今まで学校帰りに遊ぶようなことをしてこなかった。また、休みがほぼゼロの生活をしていたため、東京について観光案内ができるほどの詳しさはない。あったとしても、実音が地図係をしたら大変なことになってしまう。








「この時間、まだ空いとってよかったー!」


 席に案内され、海は出された水を飲み干す。

 六人が訪れたのはもんじゃの店。

 テーブルの中央にある大きな鉄板に、テンションが上がる。


「何注文する?」

「私チーズ入れたいなぁ」

「わかるー。実音は?」

「まずは定番じゃない?」

「焼きそばもあるよ! 頼も!」


 男子は女子たちに注文を全て任せた。

 暫くすると、器を持った店員が現れ作り方のお手本を見せてくれた。


「お姉さん、上手!」

「ありがとう! みんなは修学旅行かな? どこから来たの?」

「長崎の島原市から来ました!」

「いいわね。若いわー。この中に付き合ってる子とかいるの?」


 その店員の発言に、少しそわそわした空気が流れる。

 それを感じ取った店員は、微笑んで「ごゆっくりー」と言って去っていった。


「……できたみたいだよ。食べよっか」


 実音がまず海にヘラを渡し促した。

 受け取った海は端からこそげ取り、息をかけて冷ましてから口に入れた。


「あっつ!」


 どうやら、冷ますのが足りなかったようだ。補充された水で、すぐに口を冷やした。


「……うん! うまか! みんなも食べて食べてー!」


 それに続いて、ほかの五人も火傷に気をつけながらもんじゃを楽しんだ。


「美味い!」

「お餅入れて正解だね」

「次何にするー?」


 食べながらも、メニュー表を見てこの後のオーダーを考える女子三人。男子には意見を言う隙間がない。


「キムチ入れたいなぁ」

「あれ? 実音辛いもの食べたいの?」

「だって、今は楽器吹かないもん。刺激物解禁デーだよ」

「それなら、どんどん辛くしようよ」

「えー。チーズも入れてね」

「ゆのんは、チーズ推しだもんね」


 せっかくだからと、キムチやカレーや明太子などの辛いものを注文した。チーズのトッピングも忘れない。

 今度はみんなで協力して作る。しかし、待てない海が土手を作る前に液体を流し込み、一気に決壊する。


「わー!」

「もう、海!」

「お前なんばしよっと!」

音和(おとなぎ)に渡さなきゃよかった」

「……ごめん」


 意中の相手にアピールするために、各々が率先して修正する。

 そして完成すると、毒味役として海からまた食べた。


「うん。これ、そんな辛くなかよ。……これもいける。……っ!?」


 場所によっては思ったよりも辛かったようで、彼女は急いでコップに手を伸ばす。


「水飲んだら、辛いの広がっちゃうよ」


 実音が我慢させようとしたが、海は耐えきれず水で流した。


「かっらー! わー、後からどんどん来る! って、これ実音のコップだった。ごめん!」

「いいよ、別に。こっちのチーズたっぷりの方食べたら?」

「そうする。……ねぇ、実音。わたしたち、間接キッスしちゃったね」

「あはは。もう、海ったら。何言ってるの」

「あーあ。実音のキッス奪っちゃった」

 

 わざとおどけて言う海。その視線は大護に向いている。


(羨ましかー!)


 大護は目の前に座る実音と、ここまで良い感じになれていない。女子同士だからまだ許せるが、今のハプニングは自分が起こしたかったと本気で思った。

 そんな彼を、実音の隣から見つめる七種結乃花(さえぐさゆのか)

 大護はその視線に全く気づいていない。


(……また、実音ちゃんのこと見ちょる)


 それから、悲しそうな顔の七種をチラチラ見ているのは内山田。

 彼は記録係として写真を撮る時に、彼女の隣をキープしようと何度も試みたが上手くいっていない。


(七種さん、一度も目が合わんなぁ。もっと勇気を出さないとだよな)


 また、海は海でこれでも悩んでいた。

 食べる手は止まらないが、すぐ目の前に座る東のことをたまに盗み見ている。だが、進展はない。


(今日もクールだなぁ)


 黙々と綺麗な所作でもんじゃを口に運ぶ東。

 楽しんではくれているようで、海は安心する。


「もっと辛くできるかな?」

「え?」

 

 隣で、追加トッピングの欄を見ている実音。

 刺激物解禁日をずっと楽しみに待ってきた彼女は、これでもかと辛くしようとする。


「これ以上は旨辛じゃなかよ? ただの激辛! 痛いやつ!」

「うーん、そっかぁ。そうだね。みんなが食べられないとダメだもんね」


 注文を諦めた実音は、みんなが手を伸ばしていない激辛ゾーンをひとりで攻略していく。

 もしかしたら、一番修学旅行を楽しんでいるのは実音かもしれない。

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