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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

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8.回して投げてキャッチして

「これ、できたよー」

「うわー、すごい! 完璧だよ! ありがとう!」


 フルートの七種結乃花(さえぐさゆのか)は、頼まれていた物を完成させた。

 仕事が早く、実音(みお)はとても喜んだ。


「これでこっちも練習できるよ。早速使わせてもらうね」

「どうぞー」








 体育館は、頻繁には借りられない。だから、今日の練習は楽器の方だ。

 パートごとに練習を任せている間、実音は数人の一年生を廊下に集めた。彼女たちは、パートリーダーとも話し合って決めたカラーガード部隊である。


「今日から、みんなにはガードの動きを覚えてもらうよ。この間の体育館でのことは一旦忘れて、新しく頭に入れていってね」


 その実音の発言に、後輩たちは「え?」という困惑の顔をする。


「結構違う動き方するんだよね。走り方とか。でも、あれは知ってて損はないよ。バンドの動きを理解していないと、あの中で踊れないから」


 全くの時間の無駄ではなかったとわかり、一年生たちは少し安心した。


「とはいっても、白浜(しらはま)さん次第だね。私、マーチングの基本動作は得意な方なんだけど、ガードになってからはほぼ走り回っての移動が多いコンテだったし。『リアー・マーチ(後進)』も『マーク・タイム・ピボット(足踏みしながら方向転換)』とかも、本番では諸々やってないかも。とにかく、別の動きが多いってこと。まずは、動きの前にストレッチからね。念入りにやらないと、怪我しちゃうから」


 それから、実音は長めにストレッチをさせた。

 柔軟性はあった方が良い。なくてもできるが、見た目のしなやかさに影響が出る。

 悲鳴をあげながら、一年生たちは身体を伸ばしたりした。


「今は痛くても、毎日やれば少しずつ柔らかくなるよ。お風呂上がりとか、ちょっとでいいから家でもやろうね」


 選ばれたメンバーは、特別運動神経の良い者とかではない。曲の関係で、メンバーを選出できないパートもある。どのパートも、演奏の方に上手い者を置きたい。最終的に、ただのダンス初心者のメンバーが集まった。


「みんなは、バレエの動きって見たことある? これから教えるのはあんな感じ。じゃあ、見ててね」


 実音は教室の椅子の背もたれに片手を置き、足を曲げたり伸ばしたり上げたりする。

 方南(ほうなん)ではバレエでも使うバーを使っていたが、ここにはない。だから、ある物で代用した。


「これがバーレッスンね。一緒にやってみよっか」


 廊下で一列になり、椅子を使用してのトレーニングをする。

 体幹が鍛えられていないと、身体がフラついてしまう。一年生たちは全然足が上がらず、プルプルしていた。


「『グラン・バットマン(足上げ)』は、高く上げることよりも同じ状態をキープすることが大事だよ」


 向きを変えて、反対の足でもやってみる。


「足を上げたまま、できそうなら手も離してみてね」


 上手く安定してきても、離した瞬間にバランスを崩してしまう。なかなか難しい。

 それでも、今日は一通りの動きを経験してもらいたいため、次に移った。


「今からやるのは基本のステップだよ。普段と違うことするから、最初はよくわかんないと思うけど、とりあえず見ててね」

 

 実音は廊下を歩いてみる。しかし、その歩き方は、普段のやり方と異なる。バレエ特有の、爪先を外側に向けた姿勢だ。そこからまた少し変えて、駆け足もしてみる。

 彼女はバレエ経験者ではないが、これを努力して身につけた。


「ゆっくりやるから、真似してみてね」


 基本姿勢や足の出し方を、ひとつひとつ丁寧に教える。

 これを適当にやると、ただのかっこ悪いガニ股だ。骨盤の位置が前に出ないように、そして上半身が常に人から見られているのを意識して固定させる。


「うん、そんな感じ。違和感あるよね。大事なのは足よりも上半身。使う筋肉も間違うと、足が太くなるだけだからね」


 それから、ツーステップなども行った。その際、指の先まで神経を行き渡らせる。手を揃えてしまうと、固くなっているように見える。わざと指同士をずらして、見た目の美しさを目指す。


「窓に反射している姿を見てみて。お互い、確認し合おうね。そうそう。中指をほかより下げると綺麗でしょ?」


 本来なら、鏡を見て練習をしたいところだ。それができない以上、窓を使ったり他人からの意見を聞いて修正しなければならない。

 それ以外にも、歩きながら手や顔を動かしたりもした。

 首の綺麗に見える角度や、足を伸ばす時のちょっとした向きで変わる見え方の違いも教えた。


「こっちの方が楽だけど、これを捻って足の甲を見せるようにすると、より長く見えるの。たまに足が攣ることがあるから、気をつけてね」


 一年生たちも何度か曲に合わせて踊ったことはあるが、今回の動きはそれらとまた異なる。それを、彼女たちは必死に覚えた。


「お疲れ様。一回休憩しよっか」


 しっかり休み時間も入れる。

 慣れない筋肉の使い方をしたため、よく労った。









 休憩を終えると、次はフラッグの練習だ。

 校舎の中で振るのは危険である。窓を割らないように、安全な外で行った。

 ポールは、以前大護(だいご)と行ったホームセンターで見つけたアルミ製の物だ。全部を学校まで運ぶには重かったため、配送を頼んだ。

 さらに、そこに七種に頼んで縫ってもらったカーテンを、道具係の万屋善光(まんやよしみつ)にキャップとともに取りつけてもらった。厚めの生地をあえて選んだからか、回すと見た目以上に重い。

 これは練習用である。サイズも少し大きく負荷のあるもので練習し、本番はデザインされた薄い生地の方を使う。


「回しながら、片手でそれぞれキャッチしていくの。……そうそう。だんだん手の位置が上に行ってるよ。場所は固定させてね。地面に着かないギリギリでね」


 基本のスピンを教えると、次は後ろでの回し。次に足を横に大きく広げて重心を傾けながらの練習など、多くのバリエーションを指導した。


「ラスト、トスしてみる?」


 実音は上に軽くフラッグを飛ばす。それをノールックで同じ場所で平然とキャッチする。

 簡単なように見えるが、実際にやってみるとフラッグを落としたり、キャッチできても位置がずれたりする。


「練習あるのみだよ。ポールが重いから、当たったら腕とか足にアザできるけど、慣れればその回数も減るからね」


 覚えることは多く、ポールが当たると痛い。一年生たちは、初日から心が折れそうになる。実音のように踊れる気が全くしない。









 練習後、役員たちが一年生のプリンスとミーティングをした。


「練習計画はこれくらいかな。マーチングもガードも練習してもらいたいけど、くれぐれも怪我のないようにね」

「はい、わかりました」


 実音から計画表を渡され、プリンスはその内容をしっかり頭に入れる。


「プリンスなら大丈夫でしょ。それに、一年生はみんないい子だもん」


 呑気な(うみ)は、何も心配していない。

 二年生は、明日から修学旅行だ。

 そのため数日の間、一年生に部活を託すことになる。

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