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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

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7.進んで下がって回転して

 平日の部活に、島原大学から白浜春雪(しらはまはるゆき)がやってきた。


「この間はありがとうね。それから、またよろしく!」


 今日も、彼は爽やかでイケメンだ。

 大三東(おおみさき)高校の女子生徒の多くは、そんな彼につい顔が緩む。


「部室狭いな。こんなとこでやってんのかよ」


 そして、白浜と一緒に来たネロ。

 実音(みお)以外のテンションが下がった。


「ネロさんは来なくてよかったのに。どうして来たんですか?」


 ほかが言えないようなことを、さらりと訊く実音。彼女だけは、ネロを恐れていない。


「来ちゃ悪いかよ」

「そうですね」

「はぁ? せっかく来てやったのに、なんだよ!」

「呼んでないですもん」

「リード、調整してやんねーぞ」

「じゃあ、今日はそれだけお願いします。今、お渡ししますね。空いてる教室使ってください」

「……」


 リードを渡し、暴君を移動させると平和が訪れた。

 白浜が持ってきたDVDをセットし、みんなで鑑賞する。その内容は、白浜が高校三年生の時のマーチングの全国大会の様子だった。

 実音がいた方南(ほうなん)高校は、一軍が座奏のコンクールメンバーで、二軍はマーチングで大会に出るという形が基本だった。一方、白浜の母校は、マーチングに力を入れている学校である。どちらも金賞だが、方南以上のパフォーマンスを毎年披露している。


「これがドリル演奏だね。フォーメンションを変えながら演奏するよ。演奏以外に、全員の息の合ったパフォーマンスが求められるんだ。マーチングの面白いところは、座奏と違って自由であることかな。人数も多いし、指揮者は学生でしかもアピールがすごいし、カラーガードは複数のフラッグを使い分けて曲を盛り上げてくれるし……。とにかく、人を楽しませるには打ってつけだよ」


 映像を観た部員たちもワクワクしている。

 パレードの時より見応えがあった。それを自分たちでやれるのは、とても面白そうだと思った。


「基本の『フォワード・マーチ(前進)』はやったんだよね? 今日は、ほかの基本動作をやってみようか」


 白浜は手をパンッと叩いて、全員を立ち上がらせた。

 広い場所が必要で、体育館へと移動する。









 体育館は予約済みで、事前にポイントもつけてある。

 前回のパレードから日が経っているため、白浜が来る前に復習もしておいた。


「まずは身体作りからだね」


 実音が教えたような足の鍛え方以外にも、体幹の強化やジャンプやダッシュなどを行う。

 ひとつのトレーニングが終わると、すぐ次のメニューに移る。ずっと白浜は笑顔で指示を出し続けるが、休ませる気はない。彼は爽やか系スパルタだった。


「ほらほら、足止まってるよ。カウントもちゃんとしなくちゃ。もう一回いってみようか」


(しんどっ……)


 ついていけているのは、経験者の実音とプリンス、それから体力オバケの(うみ)だけだ。


「お疲れー。この後は動作を教えていくよ。十分間休憩したら始めるからね」


 やっともらえた休憩。

 汗が止まらず、みんなほとんど喋ることができない。

 リードの調整を終えたネロは、体育館にパイプ椅子を置きそんな彼らを見学中だ。マーチングの経験のない彼にとって、それは新鮮な光景だった。

 顧問の(かざり)は、ネロが来るまでは同じように椅子に座って、ボーッと眺めているだけだった。しかし、暴君が現れると逃げるように彼と反対側へ避難した。文にとっても、ネロは恐いのだ。


「よし、休憩終わり。雅楽川(うたがわ)ちゃん、来てくれる?」

「はい!」


 白浜は実音をお手本係に任命した。

 そして、必要な動作を大三東の部員たちに丁寧に説明していく。基本の姿勢や構え方や前進の復習から始め、応用として後進や方向転換などを見せる。


「配ったプリントにも書いたけど、以上の動作を組み合わせてドリル演奏は作られるんだ。覚えるまでは大変だけど、慣れると身体が勝手に動いてくれるよ。僕なんか癖が抜けなくて、今でも一歩をついつい六十二.五センチで歩いちゃうよ。足も常に左から出るし、曲がる時も自然と九十度になるね」


 中学からの六年間、そのほとんどをマーチングに捧げた男の身体は、今でも意識せずとも動いてしまう。

 さすがにそこまではなりたくない部員たちは、曖昧な笑みで聞き流すことにした。


「実際にやってみようね」


 実音が見せた動きを、全員でやってみる。

 前に進むのとは、全く違う。後ろは見えず、歩幅の感じ方も異なる。今は持っていないが、楽器を構えたままこれをやるのは恐い。方向転換も、右と左で少し変わる。理解できないと、足がもたついてしまう。


「うーん。難しいかなぁ」


 多くが戸惑いながらやっているのを見て、白浜も困ってしまう。

 本来なら、上級生が下級生にひとりずつついて教えるのだが、それができる経験者が不足している。今回のように、前でお手本を見せるだけでは上手くいかない。ほぼ初心者の集団を教える初年度が、一番難しい。


「根気強くやるしかないかな。形ができてくると面白いんだけど」

「それなら、『ピンフィール』と『トリック・スピン』、してみませんか?」

「いきなり? 余計難しいんじゃない?」


 実音の言う「ピンフィール」とは、九十度回転する動作だ。「トリック・スピン」は、タイミングをずらしながら回転することである。


「本来なら四人が基本ですけど、白浜さんと野田君と私で。一回見せて、それから間に入れてみましょう」

「なるほど」


 プリンスも呼び、三人で軽く打ち合わせをする。

 簡単なフォーメンション移動を、全員の前でやってみせた。

 カウントが終わると、自然と拍手が出る。


「おー! 今のすごかった!」

「難しそう」

「複雑そうに見えるね」

「三人共、全くブレなかったね」


 やっていることは簡単な動きだった。しかし、きっちり決まるとその見栄えはかなり良くなる。


「『トリック・スピン』は、一・三・五・七の奇数で曲がることを意識すれば、別に難しくないよ。『ピンフィール』は、中心と外で歩幅がだいぶ変わるから、これが大変かな? でも、列の線を常にイメージしていけば、綺麗に曲がれるよ。これを頭に入れて、やってみようか」


 まずは、海が三人の間に入る。

 白浜と実音に挟まれた彼女は、隣の動きを感じながら動いた。チアで仲間と合わせる力が身についているのか、すんなりとこなしていく。


「海、できてるよ!」

「本当!? やったー!」


 実音からもOKが出て、嬉しそうだ。

 こうした成功体験は、更なるやる気を出させる。海以外も戸惑いながら、なんとか形を作った。「自分もできた」という事実のおかげで、フォーメンションに参加していない時間も、自主的にほかの動作確認をするようになった。

 地道にひとりずつやっていく。三人にとっては難しくない動きだが、さすがに疲れる。それでも続けた。


「みんな、いいよ! その調子! これを、メンバーや立ち位置が変わってもできるようにしようね」


 忘れないようにと、体育館の至る場所で四人組を作り、今覚えたことを復習する部員たち。

 それを見た白浜は、その四人組を別のグループと向きをずらした状態で繋げた。それをどんどん増やしていくと、全体でひとつの大きな作品のようになった。


「今、どうなっとる?」

「図形みたいになっとらん?」

「上から見てみたいね」


 動きを止めずに繰り返しつつも、今の自分たちの状況が気になってしまう。

 そこで、見学していた文が体育館の二階へ上がってそれを撮影してあげた。


「ブンブン見せてー!」


 戻ってきた顧問の所へ走ると、海は動画の再生を促した。


「えっとねー……はい、どうぞ」


 画面には、綺麗な模様が動いているのが確認できた。

 それに部員たちは感動する。


「こんな風になっとるんだね」

「すごかー!」

「自分では、何やっとるのかわからんかったもんね」


 喜ぶ高校生たちに、白浜も嬉しくなる。


「マーチングって、楽しいでしょ? 僕がコンテっていう図案を考えてあげるからね。これから、その動きを完璧に覚えて、更に演奏もしなくちゃならないよ。大変だけどやりがいもあるし、チームワークも磨かれるんだ。みんな、ついてきてね。ということで、まだまだやるよ!」


(スパルタだ……)


 ずっと動きっぱなしだが、白浜のレッスンはまだまだ続いた。









 練習後、くたくたに疲れた大三東の部員たち。多くが体育館に横たわっている。


「いやー、今日は楽しかったよ。また来るから、それまで復習忘れずにね」


 終始笑顔で教えていた白浜は、暇そうにしていたネロを回収して学校を去っていった。


「疲れたー!」


 今回は海もお疲れのようである。


「海が疲れるなんて、よっぽどだね」


 実音が話しかけると、彼女は首を横に振った。


「体力は大丈夫」


(え……。平気なの?)


 経験者の実音も、ずっと歩いて疲れている。

 初めての動きだらけの海も、多少は体力を消耗しているはずだ。


「動くのは別にね。ばってん英語がねー」

「英語?」

「うん。『ライト』とか『レフト』とか、どっちだっけってなる。ほかにもいっぱい英単語出てきたでしょ? 頭使ったけん、疲れちゃったー」

「……」

「フッチーもそうでしょ?」


 近くにいた泓塁希(ふちるいき)も頷いている。


「言葉で言われても、何言っとるのかわかんなかった! 日本語で言ってほしいよねー。みおたん、よくわかるね」


 感心されてしまったが、そんな難しい単語は使っていない。ふたりの問題だ。


「海と泓君は、言葉から覚えよっか」

「うん!」

「みおたん、よろしく!」


 実音はそんなふたりに、頭を抱えた。

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