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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
11月

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6.ごめんねベニ子

 これからの練習に必要な物を揃えるため、実音(みお)はある場所へ電話をかけた。

 さらに、以前集めたカーテンを取り出し、それを持って休み時間にクラスメイトの七種結乃花(さえぐさゆのか)に相談をした。


「この写真にあるやつみたいなの、作れる? こっちの方はデザインはなんでもOKで、こっちは派手な感じで。紣谷(くけや)さんに一応いくつかデザイン考えてもらったんだけど、できそう?」

「これくらい余裕だよー。衣装係に任せて」

「助かる! ありがと!」


 なるべく早く仕上げてもらう約束をもらい、実音は機嫌が良い。

 カーテンを七種に預け、自分は練習計画を立てる。


「実音」


 そこに、大護(だいご)が声をかけてきた。


「どうしたの?」

「あのさ、コンサートのことなんだけど」

「あ! 来てくれたよね。ありがとう。でも、あの席聴きづらかったんじゃない? 大丈夫だった?」

「え、そうなのか? いや、よくわからんかった。とにかく最高だった。本当に。たしか前と違う楽器だったよな。ばってん、なんかすごかった」

「嬉しい! 私もね、あの時は気持ち良く吹けたの。それがお客さん側にも伝わったんだね。よかったぁ」


 心からの笑顔に、彼はやはりモヤモヤしてくる。


「実音が吹いとった時、隣におった人だけど……」

「ネロさん?」


(やっぱりあの人が「ネロ」か!)


 予想が当たり、心穏やかにはいられない。


「あの人、イケメンだったよな?」


 大護は、彼女からの否定の言葉が出ることを願った。


「イケメン? そうかな? どうだろ?」


(お! 反応よかぞ!)


 心の中で、彼は大きなガッツポーズをする。


「実音は、あの人のことどう思っとるんだ?」

「んー。奏者としても指導者としても、学ぶところはいっぱいあるよ。尊敬はしてるかな? でも、人としてはそうでもないかも」


(よし! 脈なし確認! 俺の勝ち!)


 自分のことは確認していないため、別に勝てたわけではない。

 だがそれを訊く勇気はないため、彼はここで喜んでおく。


「そっか! それを聞けてよかった!」

「でも実音ちゃん、ネロさんに執拗に絡まれとったよね?」

「何!?」


 デザインを見ていた七種が、ふたりの会話に加わってきた。彼女は(うみ)の席に移動する。


「あれって、セクハラだと思うよ? 言葉もだけど、コンサートの後、寄りかかっとったよね?」


 フルートも同じ楽屋を使っていたため、あの時彼女も目撃していた。


「あれは、ネロさんが寝ちゃったからだよ。それに、いつも私を揶揄ってるだけ。別にあの人は、セクハラとか考えてないと思うよ」

「セクハラってやった奴じゃなくて、された方の判断だからな! ほかに何かされとらんか?」


 必死に訊いてくる大護に、実音はこれまでのことを思い返してみる。


「ほか……。唇ガン見されたり、服を捲られそうになったり、耳に息かけられたりしたくらいかな?」

「それ、セクハラ!」


 つい大声を出してしまった大護。クラス中から視線を浴びる。

 実音からの証言を聞いていた七種も、知らなかったネロの行動に鳥肌が立っている。


「私なら無理! 実音ちゃん、よく平気だね」

「うーん。そんな悪意もないみたいだしね。それに、異性として見られている感じもないし」

「それはありえん!」


 実音のことが可愛くて仕方のない大護には、信じられない。「男はみんな狼」と言っても、実際は相手による。しかし、実音を前にしてそうならない男はいないと大護は考える。彼の知る限りでは、スーパースターの一丸飛竜(いちまるひりゅう)くらいだろう。


「そうだよな? (あずま)


 彼は実音の隣の転校生に、同意を求めた。

 それに、東(しゅう)は面倒くさそうな表情を返す。


「ほら、東もそうだってよ」


(言ってない)


 大護以外の三人が心の中で突っ込む。


「とにかく、相手も男なんだ。気をつけろよな」

「……うん」

「海にも後で言っとかんと。七種も実音のこと頼んだぞ」

「……うん」

「わたしがなんだって?」


 そこで現れた海は、次の授業で使う教科書を持っていた。


「海。お前、どこ行っとった?」

「ベニ子のとこ。これ借りにね。あのね、ベニ子の班、修学旅行の班行動の時、内緒で事前報告の場所と別の所行くんだって。いいなぁ」

「それ、バレたらダメなやつだろ」

「ねぇ、わたしたちもせっかくだから、もっと最新施設とか芸能人探しとかしようよ!」

「……」


 海の提案に、四人は黙る。

 それは彼女の案を否定しているのではなく、その後ろに立つ人物に気づいたからだ。


音和(おとなぎ)。今の話は本当か? ベニ子って、頴川紅(えがわべに)のことだよな? 教えてくれて感謝するよ。で、まさか、お前はそんなことしないよなぁ?」

「……せ、先生」


 後ろをゆっくり振り向いた海。

 目の前に立つ学年主任と目が合う。


「ま、まさかー! だってわたし、これでも部長やっとるんですよ! それに、ベニ子が何か?」

「んー? 『内緒で事前報告の場所と別の所に行く』って聞こえたんだが?」

「そんなこと、言っちょらんですよ! やだなー、先生。耳悪かですよ」

「ほう。そうか、そうか。でも念のため、当日は見張りを強化しなきゃだな。休み時間を邪魔して悪かった。……あ、そうだ音和。高校生にもなって、教科書なんか忘れんなよー」


 教室を出て行く学年主任。

 海は大量の汗をかいている。後で、頴川にも謝らなければならないようだ。

 

「バーカ」


 そんな彼女に大護は一言発し、実音と七種は哀れみの目を向けた。そして東は、関心がないようで参考書と向き合っていた。









 その日の練習後、海は部員たちの前である相談をした。


「わたし、全国大会に実際行ってみたでしょ。オータムコンサートがあってなかなか話す時間がなくてごめん。それで思いついたこと、今話すね。あのね、わたしたち『全国一金』を目指しとるよね? でね、そこにもうひとつ加えたい目標があるんよ」


 海は、全国大会後に餃子を食べながらネロたちから聞いたことを話した。「心に響く、本物の面白い音楽」という、曖昧な言葉で表した目標。それを目指したいと、部員たちに伝えた。


「具体的にどういうのか、わたしもよくはわからん。ばってん、成績も大事だけどお客さんに届く音楽じゃないと、きっと楽しくないんよ。どうしたらそれに近づけるかは知らん。それは、ネロさんも実音も考えてくれとる。だから、どうかな? やってみようよ!」


 部長の訴えに、みんな顔を見合わせてから笑顔を見せた。


「よかよ!」

「やってみたい!」

「目標はいくらあっても構わんよね」

「でも、ネロさんかぁ」

「あの暴君とこれからも関わるんだね」

「ありがたいことなんだろうけどね」


 前向きな意見と憂鬱な感情が入れ混じった反応に、実音は苦笑した。


「それじゃあ、私から。十二月はイベントがあって、また忙しくなるよね? だけど、一月の予定も既に決まってる。それに、年明けには次のコンクール曲の練習も始めたい。大変ではあるけれど、ついて来られる?」


 その言葉に、少し遅れたテンポで頷く部員たち。またコンクールシーズンがやってくる。それも、去年より早い時期からの練習だ。


「まぁ、いきなり曲の練習をするのもありだけど、まだ身につけたい技術も多いから、まずはドリル練習をしようと思うの。それを、一月の本番で披露する。とりあえず、そこまでね」


 実音から聞かされた予定に、何人か首を捻る。「ドリル」という言葉は聞いたことがあるような、ないような。そんな顔だ。


「コンテ書ける人、見つかったんですか?」


 手を挙げて質問するのはプリンスだ。


「うん。白浜(しらはま)さん、経験者でコンテも書いたことあるって。しかも、ドラムメジャーで全国出たって」

「それはすごい!」


 島原大学吹奏楽部の代表の名前が出て、部員たちはまたざわつく。

 彼は爽やかイケメンで、高校生たちからも好印象だ。


「今度教えに来てくれることになったから、白浜さんに鍛えてもらってね」


 まるで自分には関係のないことのような言い方に、みんな不思議そうな表情になる。


雅楽川(うたがわ)先輩は?」


 プリンスが尋ねると、彼女は笑みを浮かべた。


「最初は一緒にドリル練習するよ。その後は私、カラーガードやります! あと四人は出したいから、よろしくね」


 その宣言に、何人か「カラーガードってなんだっけ?」という顔をした。

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