別れた2人がよりを戻すのに必要なもの
この作品を見る方へ。
初めましてのかたは初めまして。 他作品を読んでくれた方はこんにちは。
風祭 風利です。
今回は「小説家になろう」が20周年を向かえたと言うことで、企画に参加する意向へと発展したお話になります。
今回のテーマは「勇気」。 皆さんはどんな「勇気」を想像するでしょうか?
お話の舞台は何て事の無いワンシーンから。
風祭 風利がどんな「勇気」を描いていくのか、どうぞお楽しみ下さい。
「別れましょう。 私達。」
下校中そんな風に話を振られて、小堂 定晴は困惑の顔を隠せないでいた。
「・・・え? ど、どういうこと? 俺なにか・・・イノッチになにか悪いことした? それとも今の言葉になにか気に触ることでもあった?」
定晴は言った張本人、浦木 亥乃に焦りながらも質問を投げ掛ける。
「傷付けるつもりはなかったんだけど、私達別れた方がお互いに身のためなのかもしれないの。」
「そんな・・・悪いところは直すよ! 今すぐには無理でも、ちゃんと・・・」
「そういうのじゃないんだ。 ごめんね。 また明日学校でね。」
そう言い残して亥乃は定晴から離れて家に帰るのだった。
「イノッチ・・・」
定晴は、唐突な出来事に、ただただうちひしがれるしかなかった。
翌日。 定晴は気持ちが落ち込んでいた。 それはもう誰が見ても分かるくらいに分かりやすく、彼一人だけ雨が降っているのではないかと思うくらいに彼の心はドン底に落ち込んでいることだろう。
「おいーっす。 どうしたんだよサーダ。 そんなに気分を落としてよ。」
定晴の友人の1人である坊主頭の男子生徒が肩をガッとやってくるのを何時もなら止められる位に足に力を入れる定晴なのだが、今日は止めることが出来ずによろけてしまう。
「・・・あぁ、おはよう。」
「うお・・・なんだその絶望にうちひしがれた顔は。 本当になにがあった?」
「それは俺が答えて見せよう。」
坊主頭の男子生徒とは逆の肩から七三分けをした男子生徒が声をかける。 彼も定晴の友人である。
「昨日までは何事も無かったのに今朝になってこの燦々と照り付ける太陽とは真逆に落ち込んでいる様子。 サーダ。 お前、浦木と何かあった・・・いや・・・別れたな?」
七三分けの言い分に肩をびくつかせた定晴。 それは肩に手を掛けていた坊主頭の友人にも分かるくらいに震わせていた。
「・・・え? まじで? サーダとウラッキーが? 冗談だろ?」
坊主頭はもう一度確かめてみると、定晴は完全に青ざめていた。
「どうやら冗談ではないみたいだな。 気分が落ち着いたら、少し話してくれや。 今のお前から聞いても、多分逆効果だからな。」
そうして七三分けの友人は坊主頭の友人を連れて校舎へと先に入っていき、それに習うかのように定晴も入る。 そしてそこで偶然昇降口で上履きに履き替えている亥乃を見つけた。
「あ・・・お・・・」
『私達別れた方がお互いに身のためなのかもしれないの。』
昨日の言葉がフラッシュバックした定晴はその後の言葉が出てこないまま、教室に向かうしか出来なかったのだった。
そして昼食時になり定晴は坊主頭と七三分けの友人と共にお昼を食べるために集まって、定晴は話をする事にしたのだった。
「それで、本当にどうしたんだ? なんで別れることになったんだ?」
「実は・・・別れる話になったのは唐突なんだ。 なにが原因かが分からないまま別れる事になったんだ。」
「え? 本当に唐突か? 心当たりは無いのか?」
七三分けに言われて定晴は記憶を辿ってみても、直前の会話ですら別れる要因が分からないでいた。
「だからこそ余計にショックで・・・なにか悪いことでもしたかなって・・・昨日はずっと考えててさ・・・」
「それで寝不足になって今に至る、と。」
説明を聞いた後で友人達は顔を見合わせる。
「ど、どう思う? 俺が悪かったのかな?」
「どうって言われてもなぁ・・・さすがになんにも言えないんだよなぁ。 何より彼女がいた経験が無いからさ。」
「うーん。 話を聞いている限りだとなにか原因があってもおかしくはないと思うんだけど・・・ もしかしたらよ・・・」
七三分けがなにかを諭したように定晴に話し始める。
教室から少し離れた場所。 そこで弁当箱を開けてサンドイッチを一口つけたあとで、亥乃は目の前の2人に話を振る。
「ねぇ。 私、とんでもないことをしちゃったのかな?」
同じ様に昼食を食べていた亥乃の友人である金髪ギャルのような女子高生とポニーテールの女子高生は食べるのを止めて、亥乃の方に目を向けた。
「なにイーノ。 なにやらかしたの?」
「・・・さだ君に別れようって言っちゃったの・・・」
金髪ギャルの質問に亥乃は包み隠さず話した。
「・・・え? なんで? なんで別れたの?」
ポニーテールの方が当然の疑問をぶつける。 彼女達は亥乃が定晴と付き合う前からの友人なので、彼女の性格も知っている。 だからこそそうなってしまったことに驚きを隠すことが出来なかった。
「・・・それがね・・・なんで私もあんなことを言ったのか、分からないの・・・」
「・・・うん? サーダがなにか悪いことでもしたのかと思ったんだけど、そう言う訳じゃない感じ?」
「というよりも私の方がちょっと気分が良くなかったんだ。 お弁当のことでお父さんと揉めたし、通学路で自転車に轢かれそうになるし、挙句の果てにはやりたくもない掃除当番を無理矢理代わられてって思っていたの。 昨日はそんな感じだったから、定君といても楽しくなく感じちゃって・・・」
「・・・それってつまり、亥乃の中に溜まっていた不満を、小堂君にぶつけただけってこと? しかも別れるって形で?」
「・・・有り体に言えば?」
亥乃がその時の気持ちを言えば、ギャルの友人から笑い声が聞こえてきた。
「アッハッハッハッ! サーダも悪いタイミングで振られたものだねぇ。」
「笑って済まされる事ではないですよ。 亥乃さんの気分だけで振られてしまった小堂君が可哀想ですよ。」
その事で亥乃は悩んでいた。 自分の気分だけで左右されて挙句の果てに別れ話にしてしまった行動に、後悔しか残っていなかった。
「私・・・どうすればいいんだろう? こんな形でさだ君と別れたくも無かったし、そもそも別れ話にするのもおかしいし・・・」
「でも謝らなければ誤解を生んだまま時が流れていきますよ。 それこそ二度と修復が出来ないくらいに。」
「そうかもしれないけど・・・」
「言いたいことは分かるよ。 気まずいんでしょ。 昨日あんな風に言っただけになにを言えばいいのか、というかどんな顔をして会えばいいか分からないんでしょ。」
指摘された事に亥乃は頷くことしか出来なかった。
「その辺りは私達は介入出来ないね。 非情と思うかもしれないけど、2人の問題なんだから、2人で解決してよ。」
友人に突き放されるように言われた亥乃は、「そうだよね」と納得して、自分の中にある「あるもの」を必死に出そうとしていた。
放課後になり、サッカー部の練習を終えた定晴は、ぎこちない足取りで1人下校をしていた。
昨日までなら陸上部をしている亥乃の練習終わりを正門前で待っていて、2人で歩いていたのだが、昨日フラれてしまった定晴は1人で帰るしか無かったのだった。
「・・・はぁ・・・」
定晴の足取りはサッカー部の練習を終えた後とは関係無く重たくなっていた。 隣に好きな人がいないだけで、人はここまで気分を落とせるものなのか。
そう思いながら定晴が顔を上げれば、コンビニの前に着いていた。 特に理由は無い筈なのだが、その足はフラフラとそのコンビニに吸い寄せられていた。
特になにか目的があったわけではないだけに、入ったはいいものの居心地が少し悪くなり始めた定晴はなにか無いかと店内を見渡していると
「・・・あ、「チョコエッグ」。 しかも今は・・・」
そう言いながら手にとってレジを通す。 そして外に出ると
「「あ」」
定晴はたまたま帰り道を歩いていた亥乃と遭遇した。
互いに動けなくなっていた。 かたや振られて気持ちが整理出来ていないままで、かたや自分の一時的な気分で別れをしてしまって、お互いに気まずくなっていた。
「あ、イノッ・・・チ?」
「定君・・・その・・・」
二言目がお互いに出てこない。 2人とも目を泳がせていると、ふと亥乃の目に定晴が買ったものが映った。
「定君、それ。」
「え? あ。 コンビニに立ち寄ったのはいいけど、なにも買わないのは後味が悪いから・・・」
そう言ってチョコエッグの箱を見せると、亥乃は目を見開いた後に、優しい笑顔を見せた。
「これも運命なのかな・・・」
「え?」
「覚えてる? このチョコエッグの入っている食玩。」
「・・・あ、やっぱり覚えてた?」
そう、この二人の付き合い始めた馴れ初めは1つの食玩からであった。 たまたま手に取った最後の1つを取ろうとした時に手が重なり、そして2人で開けた時に開けた食玩が、亥乃の持っている食玩と被ったこと、そして定晴がせっかくだからと家に案内したことから、話が通じ会えるもの同士として付き合い始めたのだ。
そんなことを思い出したのか、亥乃は一呼吸を置いた後に声をかける。
「・・・ねぇ。 定君。 昨日のこと、覚えてるよね?」
亥乃からの言葉に定晴は身体を強張らせる。
「・・・うん。 覚えてる。」
忘れる筈もない。 定晴の人生の中でこれ以上の衝撃があるのかと言わんばかりだったので、覚えているのは当然だった。
「でもイノッチ・・・浦木さんの気持ちを汲み取れなかった僕も悪いと思ってる。 それだけなにかに追いやられていたのにも気が付かなかったんだから・・・僕は・・・」
「違うの。 そうじゃないの。」
その後になにかを言おうとしている定晴を止める亥乃。 この後の事を考えればここで止めておくのがいいと考えたのだろう。
「私の一時的な感情だけを定君に当たるようにしただけなの。 だから定君はなにも悪くないの。 悪いのは私の方。 本当にごめんなさい。」
そう言って頭を下げる亥乃に定晴は慌てた様子で亥乃を宥める。
「だ、大丈夫だよ! 人間そう言うときもあるって!」
自分がこっぴどい仕打ちをされたのにも関わらず、亥乃の心配をする定晴は、典型的なお人好しなのだろう。 だがそんな定晴も言うべき事を言おうとしていた。 それが決して今だからではない。 定晴の決意は既に決まっていたのだから。
定晴は一呼吸置いてから、亥乃に向かって改める。
「浦木さん。 僕はあなたともう一度やり直したい。 だから僕と、付き合い直してくれませんか?」
定晴は頭を下げて手を差し伸べる。 定晴がフラれた事は衝撃が大きかった。 だがそれを差し引いても、亥乃と一緒にいたい気持ちは変わらない。 だからこそ定晴は勇気を出して、声をあげた。 もう一度あの日のようになるために。
そんな定晴の様子を見た亥乃はその手を両手で優しく受け止めた。
「私の方こそ、こんな形で別れるなんて嫌。 だからもう一度やり直させて下さい。」
亥乃も一時的な感情だけで自分の大切な人を傷付けてしまったことを後悔していた。 だがそんな簡単によりを戻せるとは思っていない。 だからこそこの決断に勇気を持って定晴に問答したのだ。
「・・・僕達、恋人同士に戻ったのかな?」
「自分達でも良く分からないですね。」
夕焼けが2人を照らしているうちに、亥乃と定晴は帰路を歩く。 今度はまたふたりきりで。
よりを取り戻した2人は先程定晴が買っていたチョコエッグについて話題になった。
「そろそろ開けてみようよ。」
「そうだね。 僕達の関係を戻してくれたこのお菓子にも感謝しないとね。」
そう言いながらパッケージを開けてチョコエッグを半分にする。
「はい。 イノッチ。」
「ありがとう定君。 中身はなんだった・・・」
中身の食玩を見て、2人とも目を見開いていた。
そこにあったのは、チョコエッグのパッケージに記載されている登場キャラではない、シークレットキャラクターと呼ばれるレアリティの高いキャラクターだったのだ。
「・・・もしかして、僕達の勇気に答えてくれたのかな?」
「私たちを見てくれた神様からのご褒美・・・とてもロマンチックですね。」
二人の間で輝くそのその食玩は、2人を祝福するかのように笑って見えたのだった
ご静観ありがとうございました。
他の方が書かれている「勇気」とは少し違った形を取っていたつもりではありますが、いかがだったでしょうか?
書き終えてからこのようなことを言うのもなんなのですが、作者である自分は、ひねくれ者だと思っておりまして、他の人と同じような展開を作りたがらなかったりするのです。
今回もそんな執筆傾向が見られれば、自分の事が分かって貰えるとおもいます。
他にも短編、長編、完結作品を展開しておりますので、興味が湧いてきてくれた読者様は是非、自分の作品を見に来てください。
それでは