二話 正座させられてます
二話 正座させられてます
今日要は定時で帰ることが出来た。スーパーにも寄って、エスパーダからリクエストのあった牛丼にチャレンジも出来る。ステーキを食べさせてから、エスパーダは牛肉に夢中だ。ウサギを能に食べさせる話なんぞすっかり忘れているようだ。
「ただいまーっ」
要が帰ると、テーブルの上でエスパーダは正座して俯いていた。そして向かい合うように二人の小人がいる。
一人は上品なマダムといった感じではあるがエスパーダに怒っているようだった。
そしてもう一人はそのマダムの旦那さんなのか居心地悪そうである。時折白髪頭をかき、何か言いかけてやめるを繰り返していた。
「エスパーダの知り合い?」
要が声を掛けるとエスパーダは今にも泣きそうな感じで、「ごめんなさい」と言ってきた。普段あまり自分の非を認めないエスパーダがそんなことを言うのはよっぽどの事だ。
とりあえず二人にあいさつをする。
「はじめまして。俺は宿守要、エスパーダの婚約者です」
言う事に照れがつきまとう。だが堂々と要は言った。
「婚約者ですって⁉︎ まさかそんなことが……」
マダムな小人は信じられないといった風だ。
「本当です。指輪も貰ったんです」
エスパーダは左手薬指にはめた指輪を見せる。
マダムは納得してくれたようだが、怒りはおさまらなかった。
「あなた、婚約者がいながら息子に色目を使ったというの?」
聞き捨てならない言葉に要は話に参加することを決めた。これは由々しき事態だ。
「それはどういうことなのでしょうか? ぜひ説明していただきたい」
マダムはエスパーダを攻撃し続けたかったようだが、関係者の横槍に中断を余儀なくされた。
「その女が私の息子にハレンチな写真を送りつけてきたの!」
マダムは自分のスマホを取り出した。そして要に画面を見せてくれたのだが、小さすぎてよく分からない。
「申し訳ないのですが、その写真をこちらに送っていただきたい。小人族のスマホは人間には小さいので」
「コビット社のスマホは世界一なんですのよ」
なぜかスマホをけなされたことにキレていて、なかなか送ってくれなかった。
すると旦那さんが促してくれた。
「母さん、彼に画像を送って。今母さんしかその画像を持っていないんだから」
母さん? 要は二人の関係性を理解できないでいた。
「失礼しました。私はコビット社の社長、シールド・コビットです。エスパーダとは大学時代同じサークルに所属してました。隣にいるのは母です」
もっと混乱した。エスパーダの同窓生という事は同じ若さのはずだ。大人になってから別の話だが。
「失礼ですが、あなたはエスパーダよりも、いえ、そちらのマダムよりも年上に見えます。どういう事か説明していただけますか?」
老人にしか見えないシールドは要を見上げ、笑った。
「あなたは好奇心の強いかたのようだ。普通、婚約者の不貞が本当かどうかの確認を優先させると思うのですが」
「俺はエスパーダを信じています。疑うのは写真をしっかり見てからでも出来ますから」
「婚約破棄となればアックスが小躍りして喜ぶと思いますが、私はエスパーダには幸せになってもらいたい。黒星とはダメだったがあなたとなら……」
「シールド! その女はこの人間とあなたを天秤にかけているのよ。人間が落ち目になればあなたに尻尾を振るような女よ」
「母さんはエスパーダを知らない」
「あなただって金目当てであなたに近付こうとした女の事知らないでしょう。私が処理していたのよ」
争う雰囲気になり説明が始まらない。要はシールドに話しかける。
「まずはあなた事を知りたい。それからマダムとも話し合い、写真を見せてもらう。それで良いかな?」
「そうですね。私もそれで良いと思います。エスパーダの処遇は後回しという事で」
要は頷いた。シールドは自分の過去を話し始めた。